11.あとどのくらい
「龍麗様!」
そう叫ぶなり、流香が龍麗に飛びかかる。
「申し訳ございません!
流香が、流香が悪うございました!
どうか、どうかお許しくださいませ…!」
大粒の涙をぼろぼろと流しながら懇願する姿は、まるで駄々をこねる童子のようだった。
先ほどまでの気品ある姿からは想像もつかない様子だ。
そのまま、二人はその場に座り込む。
「龍麗様」と何度も叫ぶうちに、どこからか聞こえていた水音は次第に弱まり、龍麗の姿も元に戻っていた。
周囲の温度も、先ほどのような異様な冷気が嘘のように消えていた。
龍麗は、震える唇を必死に押し殺しながら、問いかけた。
「……あと、どのくらいだと思われるか。」
それに答えたのは火夜だった。
「……一年。」
その言葉を聞いた瞬間、流香は今度は静かに涙を流しはじめる。
龍麗を抱きしめる腕の力が、ぎゅうっと強くなっていくのが見てとれた。
銀夜だけが、その会話の意味を理解できずにいたが、それを口にできるような空気ではなかった。
会話の意味も、龍麗の先ほどの異変も、流香の涙も、火夜の言葉の真意も――
何ひとつわからない。
けれど、そこには確かに、深く深く沈んだ悲しみだけが存在していた。