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書術道  作者:
ー朱雀編ー
1/31

01.ー炎(ほのお)と斬(ザン)ー

さらさら…


静寂な部屋にその音が響く。

音の正体、それは筆が紙の上を走る音だった。

白い紙の上に黒い線が次々と描かれていく。

その黒い線はまるで道。

幾重もの道がつながりひとつの文字、書と成った。


筆を走らせ道を描いた女が完成した書を読み上げる。

(ほのお)

女が発すると同時、瞬く間に紙は字のごとく炎に包まれた。


「これくらいできるようになりなさい。」


女に言われた白髪の少年は目を輝かせ元気よく応える。

「はい!()()!!」

挿絵(By みてみん)

目を輝かせる少年に反して、そばにいる少女二人が頭を抱えた。




 女は黒髪のボブヘアに大きな瞳が印象的だ。

外見から伺うに年の頃は二十かそこら。

少しつり上がった大きな瞳は赤く、それを強調するかの如く眉は太く伸びている。

目元の男性的な特徴に反して、厚い唇には紅をさし、着物の胸元は大胆に開いていることから色香も漂う。

目鼻立ちがはっきりとした美人でコロコロと変わる表情からは親しみも感じられるのに、なにより纏う空気から熱を感じるような、気さくには近寄りづらい独特の雰囲気があった。

彼女が特別だということは、ほかの人間の態度を見なくても明らかだった。


 彼女のそばに控えた少女の名は銀夜(ぎんや)

年の頃は十八。

名のとおりの銀色の長い髪は頭の高い位置で結われまっすぐに垂れている。

長身で顔立ちは整っているが、切れ長な目に今は眉間にしわが寄っている。

その深さを見るに、眉間にしわが寄ることは多々あることがうかがえる。


 対して少年のそばにいるもう一人はちんまりとそこにいる。

少年とさほど背丈は変わらない。

名は茶々(ちゃちゃ)。栗色の毛が元気よく四方へ伸びている。

年の頃は十にしては幼い、十二かそこらだろうか。

顔の中央にそばかすがあり、くりっとした小さな丸い目や小さな鼻はその中に埋もれてしまいそうだ。


三人の少女の着物は細かい部分では違っているものの、(えり)は朱色で地の色は黒。

ここではこれが制服である。




※※※※※




書術学院(しょじゅつがくいん)

 ここは選ばれた才ある者が「書術(しょじゅつ)」に励む場。

 書術とは特殊な墨を用いて字を書き、その書を読むことで発動させる術のこと。


 そして我らを統べる長が火夜(かや)様。

 我々は火様(ひぃさま)とお呼びするー・・・」


茶々は天照(あまてらすの)大御神(おおみかみ)という異国の神に先ほどの黒髪のボブヘアの少女もとい、火夜を重ねた神々しい姿を思い浮かべながら話を続ける。


「下界での愛称であるお上とお呼びすると

 書術学院生としての自覚がないと思われてしまうから気を付けてね。」


先ほどとは場所を移し、茶々と少年は竹林の中の開けた場所へやってきていた。

書術学園内の野外練習場である。


「申し訳ありません・・・」

少年が頭を垂れるその姿を見ながら茶々は思う。


そう、火夜様は我らが長。

とはいえ見習いの彼にはまだ雲の上の存在に等しい。

新参者に個別に稽古をつけるなどありえない・・・

ましてや


「茶々様」


目の前の少年から呼ばれ思わず体ごと大きく震わせ、思った以上の大きさではいと返事をしてしまった。

目の前の少年への疑心を悟られたような気がしたからだ。

少年から感じる素直で邪気の感じない印象に反して、居心地の悪いような、なにか考え方を操られているような、得体のしれない何かを感じているのは確かなのにそれが間違っていると感じているのも確かだった。

自分の直感が確かにそこにあるのに同時にそれを否定する直感も存在する矛盾。

逆説ではなくあきらかに矛盾だと理解しているのに考えれば考えるほどに迷い込みー


「もう一度・・・

 もう一度ご説明お願いします・・・!」


そんな茶々の後ろめたい気持ちは知らないようで、当の本人はぎゅうと拳を握りしめ懇願した。

ここでいう少年の説明とはもちろん「書術」のこと。

冒頭で火夜が見せたアレだ。




※※※※※




「まずは自身の魂が燃えているのを感じる」


書術は想像が特に大事、基本だと茶々が続ける。


「そしてその熱が身体中を巡り、

 指先から筆を伝って墨にのり、

 文字という形として現れる。」


説明しながら茶々は紙の上に〝斬〟の文字を力強く大きく書いた。


「そして想像する。

 いかなる形で飛び、斬れるのか。

 最後に詠唱。

 言霊(ことだま)によって術を発動させる。」


そう言って書いた紙を指で挟み振りかぶる。

そのまままっすぐ前に飛ばすと同時に

(ザン)

と大きく唱えた。

紙の上の文字だけがまるで生きているかのようにはがれたと思ったら、白い三日月形になってまっすぐ飛ぶ。

その先には台に置かれた竹の塊。

ズバッという気持ちのいい音とともに三日月はまっすぐ伸び、竹を6本まとめた塊をいとも簡単に両断し、断たれて行き場をなくした塊がドオンという音とともに地に落ちた。

その音を聞いて書術に圧倒される少年に

「文字は具現化したから残らない。これが書術。」

少し誇らしげな顔をした茶々は紙の束を少年に渡す。


その束の重みを腕に感じながら気合十分に稽古に励むのであった。




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