星の国の聖女と12星座の守護者 〜運命に導かれた愛〜
〜異世界の扉—聖女の始まり〜
桜井ユナ。
普通の高校生で、家族に恵まれ、学校ではごく普通の生活を送っていた。
家族と過ごす時間が何よりも幸せで、学校でも特別目立つわけではなく、普通の女の子として過ごしていた。
そんなある夜、私はベランダで星空を眺めていた。
夜風が心地よくて、星々がキラキラと輝いていて、つい見入ってしまったの。
すると、突然流星群が現れた。
まるで星が一斉に流れ出すかのような壮大な光景だった。
その瞬間、眩い光が私を包み込んだ。次の瞬間、意識が遠のいていくのを感じた。
そして、気が付くと私は夢の中にいた。
周りにはキラキラ光る星座のシンボルが浮かんでいて、その中心には優雅で神々しい女性が立っていた。
「私は、星の女神。アナタは特別な力を持っています。アストリアの国を助けてあげて。そして、12星座の守護があなたを守り、導くでしょう。」
女神の声はとても優しく、でもその意味がよくわからなかった。
なぜ私が…?
その疑問を抱えたまま、私は再び意識を失ってしまった。
白髪の優しい笑顔を放つ魔法使いが、召喚魔法陣の中で倒れているユナを抱きかかえ、国王の目の前に運び
「召喚した少女です」と告げます。
重役と思われる難しい表情をした人たちは口々に囁き合います。
「本当にこの少女が我々を救うのか?」
「ただの普通の少女にしか見えないが…」
「星の女神の使いだというのは本当なのだろうか?」
「異世界からの召喚…これが本当に成功したのかもしれない。」
一方、王太子は冷淡な表情で「これが我々の希望だとは信じ難いな」とつぶやきます。
その声には明らかな疑念が含まれていました。
国民を代表する者たちの中には希望を抱く者もいました。
「彼女が星の女神の使いであるならば、我々に救いの手が差し伸べられるかもしれない…」
様々な感情が渦巻いていましたが、気絶しているユナには知る由もない。
「…ここはどこ?」
目を覚ますと、私は見慣れない天井を見上げていた。周りを見渡すと、豪華な装飾が施された部屋だった。
これって、もしかして夢?でも、なんだかリアルすぎる。
すると、ドアが静かに開いて、一人のメイドが入ってきた。彼女は優しい微笑みを浮かべながら近づいてくる。
「お目覚めですか?お加減はいかがですか?」
「え、ええ、大丈夫です。でも、ここは…一体どこなんですか?私、どうしてこんなところにいるの?」
目の前のメイドに不安げに問いかけた。
「聖女さまは、この国を救うために大魔法使いレオ様より召喚されました…。」
メイドは落ち着いた声で告げました。
「大魔法使い…?召喚された…?」
信じられない言葉に一瞬呆然としてしまった。
だけど、メイドの真剣な表情を見ると、冗談ではないことが伝わってくる。
「詳しいお話は国王陛下より聞けると思います。…さぁ、お目覚めになられたらお連れするように言いつけられてます。」
「国王陛下…?」
ますます混乱する私に、メイドさんは優しく微笑みながら手を差し伸べてくれた。
「どうぞ、お支度を。聖女様、こちらへ。」
彼女に導かれながら、私はこの奇妙な状況に少しずつ順応しようと心を落ち着けた。
国王陛下に会えば、きっと何が起きているのかがわかるはず…。
「聖女さま、こちらへどうぞ。」
メイドさんの言葉に促され、私は部屋を出る。
ドアの向こうには、一人の騎士が待っていた。
彼は立派な鎧を身にまとい、凛とした姿勢で立っている。
「この方が謁見の間までお連れします。」
メイドさんは騎士に軽く頭を下げた。騎士も無言で一礼し、私に目線を合わせる。
「では、行きましょう。聖女様」
騎士は余計な言葉を発さず、静かに歩き出す。
私はその後ろを追いながら、緊張と不安が入り混じった気持ちを抱えていた。
無言のまま進む廊下の先には、豪華な扉が見えてきた。
騎士がその扉を開けると、目の前には広大な謁見の間が広がっていた。
そこで待っていたのは、堂々とした姿の国王陛下と、その息子の王太子、重役たちの姿だった。
ユナは重い瞼をゆっくりと開け、目の前の豪華な玉座を見つめた。
「ここはアストリア王国だ。あなたは私たちの希望の光、聖女として召喚されたのだ。」
国王の言葉に、ユナは困惑した表情を浮かべた。
その時、隣に立つ王太子の冷たい視線に気づいた。彼の冷酷な表情は、ユナの背筋が冷たくなるには充分だった。
「聖女として…召喚された?」
周りの豪華な装飾や厳かな雰囲気が現実感を増す中、私は混乱したまま頷いた。
「でも、私はまだ状況がよくわかりません。」
私は何が起こったのか、まだ信じられないでいた。
「無理もないことだ。君は星の女神から選ばれ、この国を救うために召喚されたのだ。」
「父上、しかし本当に彼女がその聖女なのか、確証はありません。」
王太子の冷たい視線が私を貫いた。
「君にその役目があると、星の女神が告げている。我々には君の力が必要なのだ。」
国王は深く頷き、再び私に視線を向けた。
私は言葉を失った。
こんなことが現実に起こるなんて、信じられない。
「陛下、私にお任せください。」
国王の合図で、白髪の白いローブを纏った老人が私の前に進み出た。
「聖女様、私はこの国の大魔法使いレオと申します。少しの間だけお時間をいただきます。アナタを鑑定します。」
私が戸惑う間もなく、大魔法使いレオは手をかざし、静かに呪文を唱え始めた。
すると、温かい光が私を包み込み、心地よい感覚が広がった。
「…なるほど。」
その言葉に、全員が緊張感を漂わせた。
私はただ見つめることしかできなかった。
「確かに、彼女には星の女神からの加護があります。」
大魔法使いレオは王の目の前で頭を下げながら告げた。
国王の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「これで疑いは晴れた。ユナよ、君にはこの国を救う重要な役目がある。受け入れてほしい。」
有無を言わせない状況に追い込まれ、私はただ頷くしかなかった。
「…わかりました。」
ユナは俯いたまま、雰囲気に押される形で頷いた。
私の答えに国王は微笑み、レオに合図を送った。
「聖女様は召喚され、まだ混乱もあるでしょう。…国王陛下、暫く聖女さまをこちらでお預かりしても?」
レオは白いローブをヒラリと回して頭を下げ、王に進言した。
「ふむ、そうだな…聖女は、お疲れのようだ。…我が大魔法使いのレオに託そう」
国王は有無を言わせない声量で告げる
「聖女様、私はレオ・ド・エルモ…レオとお呼びください。」
爽やかな笑顔はユナの心を少し溶かしていく。
「では、聖女様。…こちらへ。」
レオは優しい微笑みをユナに向け、手を目の前に差し出す。
レオの後をついていく中、私は自分の運命に対する不安と期待が交錯するのを感じていた。これから何が待ち受けているのだろうか…。
レオと共に歩く私は、まだ混乱と不安でいっぱいだった。目の前には豪華な内装の廊下が広がっており、どこもかしこも荘厳で圧倒的だった。
レオが立ち止まり、私に向かって優しく言った。
「聖女さま、こちらが聖女さまが生活するお部屋になります。」
レオはユナを部屋の前に案内し、鍵を取り出し扉を開き微笑みながら言いました。
「お部屋はご自由にお使いください。どうぞ、リラックスなさってください。」
ユナは部屋を見渡し、まだ現実が信じられないながらも少しほっとした気持ちになりました。
部屋の落ち着いた雰囲気と、柔らかな光が、
異世界での不安を和らげてくれるように感じたのです。
その時、ノックの音が部屋に響きました。
ドアが開くと、そこには小柄だが、白髪と青い瞳が神秘さを醸し出す落ち着いた雰囲気の少年が立っていました。
少年の風貌はどこかレオに似ている気がする。
彼は丁寧に頭を下げ、
「はじめまして、私はキャンサー・ド・エルモ、公爵家の次男です。」
彼の声には、どこか安心感を与える柔らかさがありました。
「祖父からお話は伺っています。もしよろしければ、王宮の案内をさせていただければと思います。」
彼は穏やかな微笑みを浮かべながら提案しました。
ユナはその提案にうなずきました。
彼の落ち着いた雰囲気と親しみやすさが、初めての異世界での心細さを和らげてくれたからです。
「ぜひ、お願いします。」
キャンサーが王宮内を案内しながら、ユナに王国の歴史や施設について説明していると、
「こちらが星の間です。この部屋は星の女神に祈りを捧げる神聖な場所で、立ち入りは聖女のみとされています」と紹介した。
ユナはその部屋を見上げながら、心の中で疑問を抱いた。
「この部屋、すごく美しいですね。」
キャンサーは少し考え込むような表情で答えた。
「星の間は、聖女様が1日祈りを捧げる神聖な場所です。」
説明を聞いたユナは、心の中でさらに疑問が募った。
キャンサーが言う「神聖な場所」という言葉が、夢の中で星の女神から受けた言葉とどこか繋がっているように感じた。
彼女の心には、女神の言葉が重くのしかかっていた。
キャンサーの表情には、星の間や王宮の身勝手な側面に対する複雑な感情が色濃く浮かんでいた。
彼の目には、星の間が持つ神聖さと、それに伴う制約の現実が入り混じった暗い影が見え隠れしていた。
彼はその表情を隠そうとするものの、どうしてもその内に抱える葛藤や、王宮の中に潜む闇の一端が現れる。
ユナはその様子を見て、ただ一つの真実が胸に突き刺さるような感覚を覚えた。
彼女は、自分がこの使命を受け入れなければならない理由と、その使命の重さに対する疑問を深めるばかりだった。
キャンサーの言葉と表情が、彼女にとっては一層の混乱をもたらすものとなっていた。
キャンサーは、ユナが感じる不安や疑問を察し、少しの間黙って彼女を見守った後、優しく声をかけた。
「ユナさん、もし何か不安や疑問があるのなら、何でも話してください。僕もできる限りお手伝いしますから。」
その言葉に、ユナは少し驚きながらも、心の中の混乱が少しだけ軽くなるのを感じた。
キャンサーの優しい言葉と気配りが、彼女の不安を和らげ、少しだけ安心感を与えてくれた。
しばらく歩くとキャンサーは立ち止まりアストリア王国の歴史を話始める
「アストリアという名前は、古代の言葉で『星の輝き』を意味しています。星の女神からの加護を受ける国として、この名前が付けられたのです。」
その瞬間、ユナの心に強い感慨が湧いた。
星の加護や国名が、夢の中で女神が語っていた内容とリンクしていることに気づいたのだ。
彼女は自分の役割や使命が、これから明らかになるのだと感じ
ユナは心の中で感謝の気持ちを抱きつつ、まだ解決しきれていない疑問と向き合いながら、一歩一歩前に進もうと決意を新たにした。
キャンサーと共に王宮内を歩きながら、ユナは庭園に差し掛かった。
庭園に広がる花々は色とりどりで、風に揺れる花の香りが心地よく広がっていた。
その芳しい香りに包まれると、ここが夢の世界ではなく、現実の世界なのだと実感させられた。
キャンサーは微笑み口を開く
「この庭園は、私たちの国の象徴的な場所で、王族のために作られたのです。花々が咲き誇るこの場所で、心を癒やすことができます。」
ユナは庭園の美しさに心を奪われながら、キャンサーの話に耳を傾けた。
彼の言葉には、心からの誠実さが感じられ、彼と過ごす時間が少しずつ心を楽にしてくれているようだった。
その後、キャンサーが王宮の図書館について話を振った。
「ここにある図書館は、非常に貴重な書物が保管されている場所ですが、王族の許可がないと入ることはできません。」
ユナは図書館に対する興味を示しながらも、王族の許可が必要であることに少し残念そうな表情を浮かべた。
「そうなんですね…。でも、ここにはどんな本があるんですか?」
キャンサーは考え込みながら答えた。
「多くの歴史的な文献や、星の女神に関する書物もあると聞いています。
しかし、入るには特別な許可が必要ですので、今は少し難しいかもしれませんね。」
ユナは図書館の話を聞きながらも、庭園の美しさに心を癒され、
今後の展開に対する期待と不安が交錯する中で、自分の使命について考えを巡らせていた。
そうして、召喚された日はゆっくり幕を閉じた。
眩しい朝日で早くに目を覚ましたユナは
まだ見慣れない広い廊下を歩きながら、
不安と期待が胸の中で交差していた。
新しい環境に馴染めるかどうか、そしてこれからどんな日々が待っているのか。
そんなことを考えていると、前方に見覚えのある姿が現れた。
「ユナ様、おはようございます。」
あの時最初に出会ったメイド、リリスが優雅なお辞儀をして挨拶してきた。
ユナはホッとした表情を浮かべた。
「おはよう、リリスさん。今日はどうしたの?」
「実は、本日から私がユナ様の専属メイドとしてお仕えすることになりました。何かご不便なことがございましたら、何なりとお申し付けください。」
リリスは深々と頭を下げた。
ユナは嬉しさと安心感で胸がいっぱいになった。
慣れない環境での生活に不安を感じていたが、
この世界に来たばかりの時に優しく語りかけてくれたリリスが専属メイドとして傍にいてくれることで、心強く感じた。
「ありがとう、リリスさん。これからよろしくね。」
リリスは温かい笑顔を浮かべ、ユナの手を優しく取った。
「さあ、ユナ様。今日は王宮をもっと知っていただくために、特別な場所をご案内します。」
リリスは各所で働くスタッフにユナを紹介し、彼女が自然に馴染めるよう配慮してくれた。
「ユナ様、こちらは王宮の厨房です。いつでも美味しいお料理がいただけますよ。何か特別な料理が食べたい時は、私におっしゃってください。」
厨房ではシェフたちが忙しく働いていたが、リリスがユナを紹介すると、みんなが少し緊張した様子で頭を下げた。
「聖女様、ようこそ厨房へ。」
ユナは少し驚きつつも微笑み返したが、リリスはすぐに彼らに向かって言った。
「ここでは敬称はやめましょう。ユナ様が馴染めるようにするためにも、名前で呼んでいただけると嬉しいです。」
シェフたちは一瞬驚いたが、すぐに賛同し、笑顔を浮かべた。
「わかりました、ユナ様。」
「ユナ様、何かお好きな料理はございますか?」
ユナは少し恥ずかしそうに微笑みながら答えた。
「実は、私、パンケーキが大好きなんです。」
シェフたちは笑顔で頷き、ユナに特製パンケーキを作ってくれることを約束した。
リリスが配慮してくれたおかげで、ユナは少しずつ王宮の生活に慣れていくことができた。
周囲の人々も彼女を暖かく迎え、ユナを家族のように感じるようになった。
ユナが王宮での生活に少しずつ慣れてきたある日、
リリスが静かにユナの部屋を訪れた。
リリスは手に持った伝令の文書をユナに差し出し、微笑みながら口を開いた。
「ユナ様、お知らせがあります。王からの伝令がありました。
明日より、マナー教育が始まります。
この機会に、王宮での礼儀や振る舞いについて学んでいただくことになります。」
ユナは驚きと共に、少し不安な表情を浮かべた。
リリスはその様子を見て、穏やかな声で続けた。
「心配ありません、ユナ様。リリスがしっかりとお手伝いしますので、何か不明な点があれば、気軽に仰ってください。」
ユナはリリスの優しさに少し安心し、これから始まるマナー教育に向けて心の準備を始めることにした。
リリスから、講師であるエルサは王太子のフィアンセであり、皇后教育を終了しているという話を聞いたユナの心は複雑でした。
エルサが王太子の婚約者であることは、ユナにとって一層の緊張をもたらし、エルサがどれほど高貴で優れた人物であるかを聞かされると、自分がその教えを受けることに対する期待と恐怖が入り混じる。
ユナは、これからのレッスンがどのようなものになるのかを考えながら、心の中で不安と期待が交錯し
彼女がどれほど厳格で、高い技術や知識を持っているのかと心配しつつも、同時に自分の成長に繋がる機会だと感じています。
王宮の広いレッスン室は豪華な装飾が施され、清潔感のある空間が広がっている。
窓からは優雅な庭園が見え、自然光が室内を柔らかく照らしていた。
ユナはこれから始まるマナー教育に緊張しながらも、少しずつ心の準備を整える。
レッスン場に到着するや否や、エルサの冷ややかな視線を受けると、その心の中で更に緊張が高まった。
エルサの態度が予想以上に厳しく、冷淡であることを実感しながらも、ユナは自分の気持ちを落ち着け、レッスンに臨む心構えをした。
エルサの期待に応え、王宮での生活に馴染むためには、この厳しい指導を乗り越えなければならないと、心に誓う。
エルサは無表情でユナを見つめており、彼女の紫色の髪が整い、気品を漂わせているが、その目には明らかな冷淡さが宿っている。
「ユナさん、立ち姿が不安定です。背筋を伸ばして、肩を引き下げなさい。」
ユナはエルサの指示に従おうとするが、その冷たい視線に緊張を感じる。
エルサはその態度で、ユナがまだ適応できていないことに苛立ちを隠さない。
「この程度のマナーも守れないとは。聖女としての自覚が足りないのでは?」
ユナはエルサの言葉にショックを受けながらも、必死に姿勢を正そうと奮闘する。
エルサの意地悪な言葉に心が揺れる。
「歩き方も同様です。足元を見て、きちんとした歩幅で歩きなさい。見た目だけでなく、内面の品位も重要です。」
エルサの指導は非常に厳しく、時折ユナの出生を嘲笑う発言もする。
エルサの表情は常に冷たく、ユナが苦しんでいる様子を見て微塵の同情も見せない。
ユナはエルサの言葉に傷つきながらも、エルサの態度が彼女の内心から来ているのかもしれないと考え始める。
その背後にある感情に気づく前に、エルサは一貫して厳しい姿勢を崩さない。
「今日のレッスンはこれで終わりです。次回までにもっと努力してきてください。」
エルサは冷たい声で言い放ち、レッスンが終了すると、エルサは無駄な動作を一切省いた、完璧な一礼をユナに向けて見せました。
その姿勢には、まるで自分の優越性を見せつけるかのような冷酷さが漂っています。
その瞳は無表情で、ユナを見下すかのような視線を投げかけました。
冷たい眼差しには、単なる無関心ではなく、確かな嘲笑が含まれていました。
一礼を終えると、エルサは何も言わずに静かにその場を後にした。
その背中には、これ以上の感情を持たない冷徹さが漂い、ユナはただ呆然とその姿を見送るしかありません。
ユナは部屋の隅に座り、レッスンの疲労と心の傷に苦しんでいた。
エルサとの初回レッスンが終わり、その完璧さと冷酷さに圧倒されていた。
彼女は一人、静かな部屋の中で今日の出来事を振り返り、心に傷が出来ていることに気付く。
そのとき、ドアがノックされ、キャンサーが静かに入ってきた。
彼は優しい表情でユナを見守りながら近づいた。
「ユナ、大丈夫かい?」
と声をかけると、ユナは顔を上げて、疲れた表情で答えた。
「キャンサーさん…ちょっと疲れました。」
キャンサーはユナの近くに座り、彼女の手を優しく取った。
「エルサとのレッスンが大変だったんだね。」
彼は心からの共感を込めて言った。
「でも、君が頑張っているのはわかってるよ。」
ユナは彼の言葉にほっとし、涙をこらえながら頷いた。
「ありがとうございます。エルサさんはとても完璧で…私にはどうしようもないと思います。」
彼女は言葉を続けた。
「何より、エルサさんがどうしてあんな態度なのか、わからなくて…」
キャンサーは少し考え込み、静かに呟いた。
「昔、エルサはもっと可愛げがあって…笑顔がとても印象的だったんだ。」
彼は遠い記憶を思い出しながら続けた。
「だけど、どうして今はあんな風になってしまったんだろう。」
彼は再びユナを見つめ、優しく言った。
「でも、君の努力は私が一番知っているし、他にも知ってくれる人は沢山いる。君は君でいいんだよ。」
ユナはキャンサーの言葉に心が温まり、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
「ありがとうございます、キャンサーさん。…少し楽になりました。」
キャンサーは彼女の微笑みに応え、優しく肩に手を置いた。
「これからもずっとそばにいるからね。どんなときも支えていくよ。」
彼の言葉に、ユナはまた少し心の重荷が軽くなったように感じた。
数日が経過し、ユナはエルサによる厳しいマナー教育を受け続けていた。
最初の頃の彼女は貴族のマナーや所作に全く不慣れで、毎回のレッスンで手こずっていたが、少しずつ成長を見せ始めた。
エルサは冷酷な態度で彼女を評価し続けたが、ユナの努力と成長は確かに見られた。
ある日、エルサはユナの練習を見ながら、冷たい目で彼女を観察していた。
「ふん、ここまでできるようになったのは、あなたの努力の賜物ね。」
エルサの声にはわずかな評価が込められていたが、その表情には変わらぬ厳しさがあった。
レッスンが終わりに近づくと、エルサはユナに冷たく言い放った。
「まあ、貴族の真似事ね。ここまでやっと貴族の振る舞いができるようになったわ。」
その言葉には、ユナの努力を軽んじるような冷淡さがにじんでいた。
「ありがとうございます、エルサさん。もっと上達できるように頑張ります。」
ユナは息を切らしながらも、自分の所作に自信を持ち始めたが、エルサの冷徹な言葉には傷つきながらも前を向き続けるしかない。
エルサは冷たい微笑みを浮かべ、無表情で彼女を一瞥した後、部屋を後にした。
その背中が遠ざかると、ユナは深いため息をつき、まだまだ道のりが長いことを実感していた。
ユナは自室の窓からボーっと外を眺めていると庭園側から騒がしい声が聞こえた。
王宮の庭に迷い猫が忍び込んできたという騒ぎが広がり、騎士たちが慌ただしく動き回っている。
ユナはその様子を見て、何が起こっているのか気になり、いつも一緒にいる護衛騎士に声をかけた。
「騎士さん…なんの騒ぎ?」
彼は少し驚いたようにユナを見たが、すぐに自分は名乗っていなかったことに気付き
頭を少し落としながら名を名乗る。
「あ、すみません。私はピスケス・アルヴァ―ド」
少し恥ずかしそうにしながらも、ピスケスは続けた。
「迷い猫が王宮に入り込んでしまい、騎士たちが必死で探しているんです。しかし、なかなか見つからなくて。」
ユナはその話を聞いて、目を輝かせて自分も手伝いたいと申し出た。
「私も手伝いたいわ。どこから探せばいいの?」
最初は渋っていたピスケスも、ユナの熱心さに心を打たれ、一緒に探すことに決めた。
ユナとピスケスは庭の隅々を探している最中、ユナが猫を見つけようと狭い茂みに入り込んでいた。
手探りで穴を広げようとした瞬間、体が詰まり、思わず体が挟まってしまった。
「うっ、どうしよう…」
ユナは困った様子で声を上げたが、体が動かないため、どうしようもない。
その様子を見たピスケスが駆け寄り、驚きと少しの笑いを混じえた表情で見つめた。
ピスケスは笑いをこらえきれず、口元がわずかに緩む。
彼の顔が少し崩れたその瞬間、ユナはドキンと心臓が跳ねるのを感じた。
「ピスケス…!助けてください!」
ユナはこの状況に恥ずかしさで頬を赤くし焦りながらも必死に頼んだ。
ピスケスはすぐに表情を引き締め、ユナを助けるために慎重に体を引き出した。
「すみません、少し手伝いますね。」
彼は優しく応じ、ユナの体を引き出す為、ユナの手を取る。
やがて、ユナは無事に狭い茂みから抜け出すことができた。
彼女はまだ少し息を切らしながらも、ピスケスの手を借りたことに感謝の気持ちを伝える。
「ありがとうございます、ピスケス。助かりました。」
ユナは深くお礼を言い、ピスケスも笑顔で応じた。
ユナの腕の中には丸々と太った白い毛並みが土で汚れた野良の猫が収まっていた。
この一幕で、ユナはピスケスの人間味ある一面を見て、彼に対する印象が少し変わった。
そして、ピスケスもユナの真剣な姿勢と感謝の言葉に、彼女への信頼を深めるようになった。
猫の一件から数日後、ユナは緊張と不安の中、エルサが講師を務めるレッスン室に向かった。
前回のレッスンでエルサから
「次回までにはまともにしてきなさい」
と厳しく言われていたため、ユナは必死に努力してきたが、実際にはほとんど改善が見られなかった。
レッスンが始まると、エルサの冷たい視線がユナに向けられた。
「全く改善されていないとは…」
エルサはため息をつきながら言い放った。
「聖女とは名ばかり…、こんなにも貴族としての素養がないなんて。努力しても結果が出ないなら、意味がありません。」
ユナの心は傷つき、エルサの言葉が重く響いた。
自分がどれだけ努力しても、なかなか結果が出せないことに対する焦りと無力感が募る。
目の前のエルサの冷酷な態度に、ユナは心が折れそうだった。
突然、扉が開き、キャンサーが顔を覗かせた。
エルサは公式なお辞儀をして示すが、キャンサーが口を開く
「僕に公式の挨拶は無用です。」
キャンサーの声は静かだが、どこか強い意志を感じさせた。
「声がしたと思い、覗いてみれば…アナタの避けずむ声が廊下まで聞こえてましたよ。」
「ユナさんがどれだけ努力しているかは私がよく知っています。非難する前に、その努力を認めてあげるべきだと思います。」
エルサは一瞬驚き、その後すぐに冷たい笑みを浮かべた。
「聖女であろうお方なのに、努力しても結果が出ないようではどうしようもありません。キャンサー…あなたの擁護も無駄です。」
彼女はユナに向かってさらに厳しく続けた。
「あなたがいくら努力しても、結局は聖女という特別な立場を利用しているだけ。貴族としての基礎もできていないのに、何ができるというの?」
キャンサーは毅然とした態度でエルサに立ち向かい、
「それでも、彼女が努力していることを否定する権利は誰にもありません。」
と応えた。
彼の言葉には、ユナへの深い理解と支援の気持ちが込められている。
エルサは冷酷な瞳でキャンサーを一瞥した後、再びユナに目を向け、冷たい声で言った。
「さあ、何も変わらないままではこのまま続けるしかないわ。」
キャンサーはユナの側に歩み寄り、優しく彼女の肩に手を置いた。
「ユナさん、心配しないで。あなたがどれだけ、努力しているのか…必ず誰かが見ています。僕もお手伝いしますから、一緒に乗り越えていきましょう。」
ユナはキャンサーの言葉に少し安堵し、彼の温かい手のひらが心の支えとなり
彼の優しい眼差しに、少しずつ希望を取り戻すことができたが、エルサとの厳しい戦いはまだ続くのだと自覚していた。
王宮の庭園は花々が咲き誇り、優雅で静かな場所でユナはひと時の休息を楽しんでいた。
マナーレッスンはエルサの家の事情により1日休みと朝、リリスから聞かされた。
周りの花の香りに包まれながら、ユナはゆったりとした時間を過ごす。
突然、庭園の奥から異様な音が聞こえ、振り返ると、そこには恐ろしい魔物が現れていた。
巨大な体躯と鋭い爪が光を反射し、不気味に光っている。
「な、なに…?」
ユナはここへ来たばかりの時にこの世界に魔物が存在すると聞かされてはいたが初めて見るその姿に恐怖で足がすくみ、逃げることができない。
魔物は咆哮を上げながらユナに襲いかかってきた。
鋭い爪がユナの身体を切り裂き、彼女はその場に倒れ込んだ。
酷い出血と痛みで意識が遠のいていく中、魔物の最後の一撃が彼女に向かって振り下ろされようとしていた。
騒ぎを聞きつけたキャンサーが危機一髪で結界魔法に成功していた。
彼はユナを抱き上げると、その身体は酷く血にまみれており、息も絶え絶えだった。
「まだ…君を失う訳には行かない…ユナ!」
キャンサーの表情は苦悩と悲しみに満ちている。
その時、魔物の力で吹き飛ばされ、ユナの近くに倒れていたリディアが体を起こす。
彼女にも防御魔法を施すと、魔力の消耗が早まるのを感じ、キャンサーはユナの体を強く抱き締めた。
リディアは素早い判断能力で立ち上がり、重症のユナの元へ駆け寄った。
「リディア嬢!君は早く逃げるんだ!」
キャンサーの切羽詰まる声が聞こえる。
リディアは無意識に、ユナの命が危険にさらされているのを見て、心の中で焦燥感が広がっていった。
「私は、リディア・フォン・クライン。
クライン侯爵家の長女です。」
リディアは、震える声で名乗りを上げた。
その、凛とした姿にキャンサーは一瞬気を取られてしまい、結界魔法の崩壊と魔力の減少が襲う。
「私の家系は回復魔法を得意とする医者の家系です!
クライン家の名にかけて、苦しんでいる人を見捨てるわけにはいきません!」
彼女はユナのそばに膝をつき、手のひらをそっとユナの傷にかざした。
光が弱々しく漏れ始め、リディアは自信の無い回復魔法と、プライドだけで宣言してしまったことに恐れはあるものの後悔はしていない。
「ヒール!」
彼女の詠唱と共に微弱だった光がユナの体を包むくらい大きく光り輝き、ユナの傷が少しずつ癒えていく。
キャンサーは全力で結界魔法を維持しながら、魔力消耗と魔物に対抗する。
魔物が迫り、結界が破れそうになる瞬間、その場にいる者はみなもうダメだと覚悟した瞬間、光の矢が魔物を貫いた。
ピスケスが騒ぎを聞きつけ光の矢を放ち魔物を討伐した。
騒動が終息し、場はようやく静けさを取り戻す。
ピスケスは依然、眠ったままのユナをキャンサーから受け取る。
キャンサーはリディアに感謝の意を表し、彼女を称えます。
「リディア嬢、本当に助かりました。あなたのおかげでユナは大事にならなくて済んだ。」
キャンサーは膝をついてリディアの手の甲に優しくキスをした。
リディアはその瞬間、心臓がドキンと音を立てるのを感じた。
「ありがとうございます、キャンサー様。私の父が王宮の治癒師を務めており、私はその教えを受けています。アストル侯爵家が長女、リディア・アストル、です。」
キャンサーは微笑み、
「アナタの苦しんでいる人を見捨てられないというその気持ち、尊敬します。」
リディアは少し照れながらも、自分の役目を果たした喜びと、キャンサーへの淡い感情を抱きながら、その場を見守った。
その頃、ユナはピスケスに運ばれ、王宮の医務室へ向かっていた。
ベッドに横になるユナの流血はリディアの魔法により、止められたものの
意識は失っており、仮死状態であると医務官から告げられる
ユナの意識の中で、現実世界の家族の記憶が夢のように浮かび上がっていた。
家族と過ごした楽しい日々や、家族の優しい顔が次々と映し出される。
しかし、それと同時に彼らの心配する表情が見え、寂しさが込み上げてきた。
「お父さん、お母さん…ごめんなさい…心配してるよね…寂しいよ、会いたい…」
暗い空間に閉じこもったような感覚に苛まれ、ユナは孤独感に押しつぶされそうになった。
すると、
突如、キラキラと光る星のような光が現れ、誰かの温かい手がユナの手をそっと握った。
その手はまるで、ユナを外の世界へ誘うかのようだった。
王宮では眠りにつくユナの部屋では警備を固くし、ユナの部屋は許されたものしか出入りが出来ない中で、
ピスケスは警護の合間を縫い、照れ臭そうにユナの手を握りしめていた。
彼は心配と悲しみの表情の中、気丈に振る舞う口元に微かな笑みを浮かべ、ユナの無事を祈るように
ただじっと交代の時間が来るまでその手を離さなかった。
ユナが目を覚ました時には、ピスケスの姿はなく、ただ温かさだけが手に残っていた。
「あの手…誰だったの…?」
ユナは不思議そうに手を見つめ、夢の中の温かい手と現実の手の温もりに胸の中で何か特別な気持ちが広がるのを感じる。
彼女はまだ完全に回復していなかったが、その手の温もりが彼女の心に大きな影響を与えていた。
しばらくすると、王宮の医務官である、柔らかい物腰の女性が、ユナの状態を精密に確認し、しばらく安静が必要だと告げた。
ユナは体力が消耗しきっていた為、眠ったり起きたりを何回か繰り返しているうちにすっかり日が暮れていた。
コンコン。優しげに扉のノック音が聞こえ
見慣れた顔が見えてくる。
キャンサーともう1人見慣れないユナと同い年くらいの少女が同時に部屋に入ってきた。
「ユナ、大丈夫か?」
キャンサーが心配そうに近づいてきた。
「キャンサー…」
私はかすれた声で応えた。
「聞いたよ…しばらく安静が必要なんだってね。…心配ないよ。僕もできる限りお見舞いに来るからね」
キャンサーの表情は悲痛の中に安心させようとするいつもの柔らかい微笑みが見て取れた。
「紹介するよ、彼女は…」
キャンサーは傍らに立つ少女に目線を移し告げると
「…リディア・アストルです。…ユナさん、初めまして」
リディアが落ち着いた声量で話す。
「彼女はアストル侯爵家長女。治癒魔法に特化した、家系なんだ。」
ユナはキャンサーが女性を紹介している場面を初めてみたのもあるかもしれないが、こんなに活き活きと瞳を輝かせてリディアを見ていることに驚くが、そっと心の中にしまい、彼らの話に耳を傾けた。
「…父は王宮の治癒師を務めておりまして…片眼鏡をかけた冴えないおっさんが、私の父です。」
リディアの話にユナは目を丸くした。
目を覚ました時に視界の片隅でユナの様子を見ていた片眼鏡の男性がリディアの父であったことに驚いたのだ。
「…冴えないおっさんで悪かったね。」
意外な真実に驚く空気を壊す男性の声がした方へ一斉に視線が集中した。
片眼鏡をかけた年配の男性が咳払いをして、傍らにたっていたのだ。
「お、お父様…っ」
リディアはバツが悪そうに下を向いている
「うちの娘は口が少々アレでして…」
やれやれと言った風に首を振るがそこには親バカな愛情さえ滲み出ており、
そんなやり取りを見つめるユナは次第に寂しさや悲しみが小さくなっていくのを感じた。
「さて、聖女様、ここからは真剣な話でございます。今、聖女様は本来であれば致死量の血液を無くされております。幸い、うちの娘が止血したとこのことですが、油断は出来ません。」
リディアの父の発言により、場の空気が変わる
「定期的に治癒師からのヒーリングを受けて頂くことと、血液を増やす薬草、食事にも気を配らねばなりません。」
「1週間から2週間程度で体力は戻ってくるはずです。」
「幸い、こちらは王宮です。…治癒師も食事の心配もいりません。…聖女様は安心してご静養ください。」
リディアの父は子供をあやす様な微笑みで告げると一礼し、仕事に戻って行った。
リディアの父と入れ替えに、ピスケスが入ってくると1番にユナと視線が合い、
ピスケスは耳をほんのり赤くしながら目の前に立つ。
「ユナ、君が無事で本当に良かった」
「ピスケス、ありがとう。あなたのおかげで助かったんだね。」
私は感謝の気持ちを込めて彼に言った。
ピスケスは少し顔を赤らめながら、
「私ははただ、君を守りたかっただけだ。」
と答えた。
その夜、ユナは自分を守ってくれた人たちに心から感謝し、彼らとの絆がさらに深まりを感じ、新たに友人になりえそうなリディアとの出会いに感謝した。
静養期間中、私は王宮の温室でリディアとティータイムを楽しんでいた。
温室の中は、四季折々の美しい花々が咲き乱れ、香り豊かなハーブが漂っている。
ガラスの天井からは柔らかな陽光が降り注ぎ、温かで穏やかな空間を作り出していた。
温室の中央には、白いアイアン製のエレガントなテーブルと椅子が置かれていた。
テーブルには繊細なレースのテーブルクロスが掛けられ、その上には絵画のように美しく並べられたお菓子たちが目を引く。
カップケーキには色とりどりのクリームがデコレーションされ、フルーツタルトには新鮮なベリーがたっぷりと乗せられている。
紅茶のポットは陶器でできており、優雅な花模様が描かれていた。
私はカップを手に取り、温かい紅茶の香りを楽見ながら口を開く。
「リディア、友達になってくれてありがとう。あなたがいると本当に心が落ち着くわ」
リディアは笑顔で応える
「私もユナと一緒に過ごす時間が好きよ。あなたと話していると、いつも元気が出るの」
その言葉に、私はさらに心が温まる。
「最近、マナー教育が本当に大変で…エルサとも上手くいかなくて」
私はため息をつきながらマナー教育での悩みを打ち明けた。
リディアは私の手を優しく握り、
「ユナ、本当に大変そうね。でも、あなたの努力を知っている人は私も知っているし、キャンサー様や…ピスケス様も知っているわ」
彼女の眼差しや笑顔に私は少し胸が暖かくなった。
誰かが自分を理解してくれる、それだけで心が軽くなる気がした。
温室の中で過ごす時間は、私にとってかけがえのないひとときだ。
リディアと共に過ごすティータイムは、私の心に安らぎと力を与えてくれる場所だ。
その後、庭園を散策していると、リディアがふとため息をついた。
「実は私、ある人に恋をしてしまって…」
彼女は顔を赤らめた。
「それって素敵ね。お相手は誰?」
ユナは少し驚いたが、微笑み尋ねる
リディアは照れながらも「まだ秘密よ」と答えた。
私はリディアが私と同じように恋や悩みを抱えている普通の女の子であることに親近感を覚える。
静養の間、リディアの父による定期的なヒーリングと苦い薬草茶のおかげで、少しずつ体調が回復していき、
治療を受けながらも、リディアやキャンサー、そして警護の合間を縫ってやってくるピスケスがお見舞いに来てくれることが心の支えになっていた。
庭園を歩いていると、騎士たちの訓練場でピスケスの姿を見つけた。
彼の真剣な眼差しと広い背中に心がときめいた。
「ピスケス様、本当に素敵ね」
とリディアが言った。
私は彼の一生懸命な姿を見ると、胸がドキドキした。
広い背中に何度も助けられたことを思い出し、心の奥底で彼に対する特別な感情が芽生えているのを感じた。
「ええ、彼の一生懸命な姿を見ると、励まされているように感じる」と私は頷いた。
静養が終わる頃には、ユナはリディアとますます仲良くなり、彼女との友情が深まって行くのを感じる。
リディアが私にとって初めての同性の友達で、彼女も同じような気持ちを持っているに違いない。
これからも彼女と一緒ならこの異世界でもやって行けると思った。
ユナは現実世界でも、大の読書好きであったため、リリスにその事を話すと、王に伝わり王宮図書室の使用の許可が降りた。
王宮図書室に立ち寄ることができるようになった日、私はレッスンの合間を縫って一人で訪れた。
図書室は広く、天井まで届く本棚が並んでいた。
古い革表紙の本や、色鮮やかな装丁の本がずらりと並び、見ているだけでわくわくする。
私は歴史や魔法に関する書物を探しながら、足元の絨毯を踏みしめて歩いていた。
広大な図書館は高い天井と壮麗な装飾が施されており、数千冊の本が並ぶ本棚が彼女を迎えてくれた。
ユナは、この世界の知見を広げるため特に歴史や魔法に関する本を探した。
1冊の魔法書が目に入るが棚の一番上にあった。
手を伸ばしてみたが、私の身長では到底届かない。
少しジャンプしてみたが、それでも届かない。
「どうしよう...」
つぶやいたその時、突然後ろから大きな影が覆いかぶさった。
「何をしている」
低く、冷ややかな声が耳に届いた。振り返ると、そこにはアルシオン・セシル・アストリア王太子が立っていた。
彼の金色の瞳が冷たく私を見下ろしている。
「えっと、その、本を取りたくて...」
ユナはは緊張しながら答えた。
アルシオンは黙って棚の上に手を伸ばし、難なくその本を取り出して私に手渡した。
彼の手が私の手に触れる瞬間、冷たさと同時にどこかしら優しさを感じた。
「ありがとう、ございます」
「ふん。」
と、アルシオンは冷淡に言い放ったが、その瞳には一瞬の興味が宿っているように見えた。
「何を読もうとしていた?」
彼は私が受け取った本のタイトルに目をやりながら尋ねた。
「ええと、魔法の歴史についての本です。アストリア王国の歴史をもっと知りたくて...」
と私は言いかけたが、彼の視線が本のタイトルに止まっていることに気づき、少しうつむいた。
アルシオンの眉がわずかに上がった。
「攻撃魔法を覚えてどうする」
彼の声音はとても冷たく響いた。
本を強く握り私は少し戸惑いながらも答えた。
「魔物に襲われた時、キャンサーやリディア、ピスケスに助けられて…助かりました。でも、いつも守られているばかりで申し訳なくて...。自分も強くなりたいと思って。」
アルシオンは一瞬考えるように目を細めたが、すぐに冷たい表情に戻った。
「今持っている本は、今の君には難しすぎる。諦めろ。」
その言葉に、私はショックを受け、グッと手の力が入り、俯いてしまった。
しかし、彼の次の言葉に驚かされた。
「だが、簡単だが、多少の攻撃ならできる魔法を教えてやる。」
「王太子自らですか…?」
と、私は驚きと喜びで声を上げた。
「…その程度の魔法なら私にも使える。…王太子から直々に教えてやるっていうんだ。ありがたく思え。」
ユナはアルシオンの言葉に驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべた。
王太子が直々に教えてくれるなんて、思ってもみなかった。
彼の冷たい口調とは裏腹に、その瞳の奥にほんの少しの親切さが垣間見えるようで、心が温かくなるような感覚がした。
アルシオンは高い背を伸ばし、まるでユナの期待など意に介さずに、自分の姿勢を正していた。
彼の言葉がどこか冷たく、上から目線だったとしても、その真意に触れた彼女は、少しだけ心の中で感謝の気持ちを抱いた。
ユナは深呼吸をし、王太子の方へ視線を向けた。
「よ、よろしくお願いします!」
ユナは深くお辞儀をし、少しずつ自分の弱さと向き合う覚悟を決めた。
その背後で、王太子の冷ややかな表情が、わずかに柔らかさを帯びていたことに気付かないまま、彼女は一歩前に踏み出す準備を整えた。
キャンサー、ピスケス、リディアと談笑している時にユナは王太子が簡単な攻撃魔法を教えると言ってくれたことを、不安な面持ちで打ち明けた。
彼女の声には、王太子から魔法を教わることへの戸惑いと、また上達できるのかという不安がにじみ出ていました。
リディアは最初は驚いたものの、王太子が直接教えるという言葉に感心し、ポジティブにユナへ語る。
「それは素晴らしい機会ね、ユナ。アルシオン様が直接教えてくれるなんて、あなたにとっても貴重な経験となるわ。」
一方、キャンサーとピスケスの表情には微妙な影が差しました。
「王太子は若いながらも、ほとんどの魔法を習得していて、魔物討伐もこなせる腕前があるんだ。実力を持つ人物なのは間違いない…」
ピスケスも同じ意見で頷きました。
「キャンサーの言う通りだよ。アルシオン様は本当に優れた魔力の持ち主、信頼できる存在だ。」
キャンサーとピスケスの心情には、ユナが王太子に近づくことで感じる不安も含まれていた。
しかし、彼らはその感情を隠し、ユナのために最善を尽くそうと決意した。
リディアはそれに気づき、明るい声でユナを励ます。
「心配しないで、ユナ。アルシオン様との関係がどうなるかはわからないけれど、今は彼から学ぶことに集中すると良いかもしれないわ。私たちはいつでもユナの味方よ。」
ユナはリディアの言葉に少し安心し、心を落ち着けながら、王太子からの教えを受けることに決意を新たにしました。
リリスがユナに用意したのは、エレガントでありながら動きやすさを兼ね備えたスポーツウェアで
深い青色のジャケットと、同じく深い青のブリーチズ、そしてシルクのタイツがセットになっている。
ユナはその美しい服を身にまとい
王太子との約束の夜、ユナは騎士訓練場に向かった。
騎士たちの訓練が終わり、静けさを取り戻した広場に王太子の姿を探していた。
王太子アルシオンが、軽装で現れる。
彼は無駄のない動きで、どこかリラックスした雰囲気を醸し出していた。
「王太子殿下、本日はよろしくお願いします」
ユナは一礼しながら丁寧に挨拶した。
アルシオンは少し眉をひそめ、ぶっきらぼうに答える。
「無駄な挨拶はいい。…アルシオンと呼べ。」
その冷たい口調に、ユナは少し驚きながらも、気を取り直した。
「さて、まずはお前が魔法を使えるのかどうか見てみる。」
アルシオンは言い、ユナをじっと見つめ魔力の流れを見る。
彼の目が鋭く、しかしどこか優しさを含んでいる。
魔力の流れを探るうちに、彼の顔に少しの驚きが浮かんだ。
アルシオンはユナの魔力の中に、一般的な魔力とは違う、星の恩恵を受けている流れを見つけた。
「お前、魔力量は少ないが、星の恩恵を受けているようだな。」
アルシオンは静かに告げた。
「…流石、聖女ってところか。…簡単な魔法なら使えるだろう。」
ユナはその言葉に少し驚きつつも
アルシオンが見せる冷徹な態度の裏には、どこか温かいものが隠れているのかもしれないと感じた。
「まずは、俺の魔法を見ておけ。」
アルシオンは、ユナにそう言うと、騎士たちが訓練に使用する木製の的の前に立つ。
アルシオンは少し距離を取って、的に向かい合うと
彼は右手をゆっくりと上げ、その手から微かな光が放たれ始めた。
その光は次第に強まり、まるで星のように煌めいて見えた。
ユナはその光景に目を奪われ、息を呑む。
「ルミナリス!」
アルシオンが声高らかに呪文を唱えると、彼の身体から眩い光と強力な魔力が放出された。
その光は一直線に木製の的に向かい、瞬く間に命中した。
その瞬間、的は激しく揺れ、まるで爆発するかのように木片が飛び散った。
アルシオンの使った魔法は簡単な攻撃魔法だと言っていたが、その威力は想像をはるかに超えていた。
ユナはその場で立ち尽くし、目を見開いたまま、その光景に見とれる。
「どうだ、こらが攻撃魔法の初級だ。」
アルシオンは淡々とした表情でユナに言ったが、その目にはどこか誇らしげな光が宿っていた。
ユナはしばらく言葉を失ったまま、その場に立ち尽くす。
彼の魔法の力、その光の美しさ、そしてその背後にある圧倒的な威力。
ユナは初めて、アルシオンがどれほど強大な存在であるかを実感した。
「すごい…本当にすごいです!アルシオン様…」
ユナはようやく口を開き、その素直な感想を伝えた。
「この世界では誰でも使うことが出来る魔法だ。お前にも、少しずつだが教えてやる。」
アルシオンはそう言って、ユナに微笑みかける。
その笑顔に、ユナは再び心がときめいた。
彼の冷たい態度の裏に隠された優しさと力強さに、ユナはますます惹かれていくのを感じた。
そして、これからの魔法の訓練に対する期待が、胸の中で膨らんでいった。
魔物が王宮に現れてから静養期間は終了したものの、念のために治癒魔法を受け続けている。
キャンサーの祖父であるレオが、私に癒しの力を注ぎながら優しく語りかけてくれる。
「ところで、ユナ様。王太子のアルシオン様が魔法の特訓をご一緒していると聞きました。」
レオの言葉に、私は驚きと喜びを隠せなかった。
目を大きく見開き、口元が少しほころんでしまう。
「ええ、そうなんです。でも、まさか王太子…いえ、アルシオン様が私に魔法を教えてくれるなんて、夢にも思いませんでした。」
自分でも感じるほど、瞳がキラキラと輝いているのがわかる。
頬には薄っすらと赤みが差し、期待と不安が交錯する中で、私の表情には希望と興奮の色が漂っていた。
「それは素晴らしいことです。アルシオン様は生まれながらにして優れた魔力をお持ちですから、彼の教えを受けられるのは大変名誉なことです。」
私はうなずきながら、アルシオンの教えを思い出す。
「アルシオン様の魔法は本当に驚きました。彼が放つ光と魔力の強さに圧倒されて、私には到底及ばないと感じました。」
ユナの不安と期待、そして葛藤する表情を察したレオがユナの手をそっと握った。
「焦らないでください、ユナ様。魔法の習得には時間がかかります。
この国のものは幼少期の頃から初期魔法を学びますが、一昼一夜で習得する者は稀です。
あなたには星のご加護があります。それをうまく活用すれば、必ず力を発揮できるはずです。」
「ありがとうございます。…レオ様。」
私は少し安心しながら答えた。
「でも、やっぱり自分の力が不安で…」
レオ様は優しく微笑んで言った。
「ユナ様、魔法は初めて触れるものですので不安もあるでしょう。
しかし、魔法には無限の可能性があります。
焦らず、自分のペースで学んでいけば、きっと素晴らしい力を手に入れられますよ。
星の加護を受けているアナタならきっと大丈夫ですよ。それに…
キャンサーやリディア嬢、そしてピスケスも、あなたを支えています。」
その言葉に、私は再び頷いた。
たくさんの人が私を支えてくれている。だからこそ、私はもっと強くなりたいと心から願った。
ユナは王太子アルシオンからの魔法指導を受けた後、自室で魔法の勉強を始めることにした。
教わった内容を復習しながら、自分でも少しずつ魔法を使えるようになりたいと思っていた。
その日の午後、ユナは自室で魔法の書を広げ、集中して呪文を読み上げていた。
すると、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
「どうぞ。」
ユナが返事をすると、扉が開き、ピスケスが顔を覗かせる。
「ユナ、ちょっと散歩に行かないか?」
ユナは一瞬、魔法の勉強を続けるかどうか迷ったが、ピスケスの優しい笑顔に誘われ、少しの休憩も悪くないと思い立った。
「うん!行こう。」
二人は庭園に出て、爽やかな風に包まれながら歩き始めた。
庭園には色とりどりの花々が咲き誇り、鳥たちのさえずりが響いていた。
「最近、魔法の勉強を始めたんだって?」
ピスケスが口を開く
「うん、アルシオン様から教えてもらったんだけど、なかなか難しいわ。でも、少しずつ頑張みる。」
ユナは照れくさそうに指先をクルクル回した。
「素晴らしいね。僕も何か手伝えることがあれば言ってくれ。」
「ありがとう、ピスケス。」
彼のハニカム笑顔を見ると自然と心が落ち着く。
歩いているうちに、二人は庭園の奥にある池のほとりにたどり着いた。
ピスケスの周りに小さな水の妖精が浮遊していた。
「ユナ、これは水の精霊だよ。彼らは上質な水を与えるととても喜ぶんだ。」
ユナは目を輝かせて精霊を見つめた。
「わあ、綺麗…。」
ピスケスが優しく笑いながら続けた。「君も試してみるかい?簡単な水の魔法なら、きっと使えると思う。」
ユナは勇気を出して、ピスケスから教わった呪文を唱える。
すると、小さな水の流れが手のひらから現れ、水の精霊がその流れを喜んで踊り始めた。
「できた…!」
ユナは嬉しそうに笑い、ピスケスも満足げに頷いた。
「星の女神の加護を持つ子ね。…美味しいお水をありがとう」
ユナの体の周りを浮遊していた水の精霊がユナに語りかけた。
ユナは初めての経験に驚きと、少しの不安を抱きながら水の精霊を見つめていると
「ちゅ。星の愛し子に蒼き水の加護を与えます。…水は時に心を映し出す。きっとあなたが良い方向へ行く手助けをしてくれます。」
水の精霊はユナの頬に優しくキスをし微笑むと宙を一回転し、姿を消した。
「君はやっぱり素晴らしいよ、ユナ」
ピスケスの声には興奮の色が現れていた。
「ピスケス…これは…」
ユナは一連の出来事が夢のように感じて水の精霊が口付けた頬を優しく摩る
「精霊自ら加護を与える話はあまり聞かない。…いたとしても1つの属性だけだ。全属性の妖精からの加護を授かったのは初代聖女様だと聞いたことがある」
初代聖女…星の女神から加護を受けた初代国王の傍で祈りを捧げ、恩恵を大地へ広めた人
王宮の図書で初代聖女様について書かれていたことがあった。
ユナは次第に聖女として物語がスタートしていることを実感する
魔法の勉強を続ける中で、ピスケスとの絆も深まり、
彼の優しいサポートに感謝しつつ、ユナは自分の力を信じて前に進む決意を新たにした。
ユナは夜の静けさの中、自室の窓辺に座りながら、これまでの出来事を心の中で振り返っていた。
「異世界に召喚されてから、あっという間だったな…」
彼女はアストリア王国に来た初日を思い出した。王宮の豪華な生活に驚き、突然聖女だと明かされたこと。
厨房の人たちとの交流。特に美味しかったパンケーキの味が鮮やかに蘇る。
その温かい交流は、彼女の心に深く残っていた。
エルサからのマナー教育も、最初は厳しかったが、少しずつ慣れて次第に自信を持てるようになった。
また、王宮で迷い込んだ猫との出会いや、ピスケスの意外な一面に触れたことも、彼女にとって楽しいひとときだった。
猫との交流で、ピスケスの温かい一面に気づいたのは、心に残る出来事だった。
王宮に現れた魔物との遭遇は、キャンサーが必死に守ってくれたことで、彼の頼りがいを感じるとともに、リディアという友人ができたのは大きな収穫だった。
そして、王太子アルシオンからの魔法の訓練を受けたことで、自信を深め、
ピスケスとの池でのひとときでは、水の精霊から加護を受けるという貴重な経験を得た。
「…これからが本当の始まりなんだ…」
ユナは、自分の成長と変化を実感し、聖女としての使命が確かに始まったことを感じていた。
ある日の夜、ユナは静かな自室でこれまでの出来事を思い返していた。
異世界に召喚されてからの出来事が、昨日のことのように鮮明に蘇る。
王宮での生活に馴染むためにリリスが厨房の人たちを紹介し、たくさんの人との交流や、美味しいパンケーキ、
エルサからの厳しいマナー教育に加え、
魔物が現れた日には死をさまよった。
キャンサーのお陰で大事には至らなかったが、リディアという同性の友人も新たにできた。
王太子からの思いもよらない提案で魔法の訓練を受けられることになり、自分自身の中に星の女神の加護が流れていることや魔法の基礎を知ることが出来た。
庭園でピスケスと過ごした日々、池で水の精霊から加護を授かった瞬間も、ユナの心に深く刻まれている。
どれもこれも、新しい世界での貴重な経験であり、彼女が聖女としての歩みを始めるための一歩だった。
しかし、そんな穏やかな日常が突如として中断される。
国王からの突然の召集令が届いたのだ。
王宮の広間での面会が求められており、そこには王太子も同席するという。
広間に足を踏み入れると、重々しい雰囲気がユナを包み込む。
煌びやかな装飾に囲まれた部屋の中央には、国王と王太子が厳しい表情で待っていた。
その表情からは普段の穏やかさが消え失せ、何か重大な話が待っていることを感じさせる。
「ユナ、来たか。」
国王の低い声が広間に響く。
その声には、単なる召集以上の意味が込められているように感じられ、ユナは一瞬、胸が高鳴った。
「お前に伝えなければならないことがある。」
その一言が広間に響き渡り、ユナの心は一層重くなる。
王太子の冷静な瞳の奥に知られざる計画があるのでは無いかと思った。
何か重大な決定が下される予感がするとユナの心臓に警鐘が鳴り
ユナは深く息を吸い込み、これからの展開に対する不安と期待が入り混じった気持ちで、ただ静かに待つしかなかった。
広間の重苦しい空気の中で、ユナの聖女としての物語は新たな章へと突入するのだった。