Best Friend
ヨーロッパに移住してから二ヶ月が経った。
ここでの暮らしにも少しだけど慣れてきた。
友達はまだ一人もできていない。
会話をするのも、仕事の内容を話す時かショップの店員さんと挨拶を交わすくらいだ。
幸いにも大家さんは優しい人で、困ったことがあると力になってくれた。
そんなある日、アイスクリームが食べたくなった私は
美味しいと評判のアイスクリーム屋さんへ行ってみることにした。
お店は人気店らしく列に並んで順番が来るのを待つ。
しかし、そんな中、私をジロジロ見る二人の男性が現れた。
日本人がいるのが珍しいから見られるのは当然だけれど・・・。
明らかに敵意を感じる視線だ。
男性1「チッ、アジア人が何でこの店に来るんだよ」
男性2「本当だよ、場違いな奴がいたもんだ」
この二人の男性はアジア人である私をよく思っていないようだ。
他の客は私の存在を特に気にも留めていなかったが、この二人は許せないらしい。
仕方がないことだとは思う。
悲しいけど、自分とは違う人に対して攻撃的になるのは動物の世界なら当たり前なことだし、そういう意見を持つのは分かる。
だからと言ってあからさまに言われれば傷付くし、そういった感情は心の中に止めておくか、もしくは本人がいないところで話題に出して欲しいなとは正直思う。
二人の男性の言動はエスカレートしていく。
男性1「帰れ帰れー」
男性2(冷たい視線)
私は二人の男性に話しかけた。
男性二人は何だよと言いたげな目で私を見てくる。
なつめ「あの、私どうしてもここのお店のアイスクリームが食べたかったんです
買ったらすぐに帰りますから
私がいることで気分を悪くさせてごめんなさい」
店員(40代男性)「・・・」
私が深く頭を下げると、私の言動が意外だったのか二人の動きが一瞬止まった。
周りの人達の目は私ではなく二人の男性に向けられている。
店員「どうやら、帰るべきなのは君達二人のようだね」
男性1「な・・・」
男性2「くそ!」
二人は居た堪れなくなったのかそそくさとお店から出て行った。
その時、私の後ろに並んでいた同い年くらいの一人の男性が拍手をした。
パチパチパチ。
ジャン(30代男性)「君はとても心が綺麗で勇敢な女性だ」
なつめ「あ、ありがとうございます・・・」
順番が来て私がアイスクリームを買おうとした時。
店員「こちらの方こそ気分を悪くさせてしまってすまなかったね
お!そうだ!今日は一つおまけだよ、勇気ある君に僕からのプレゼントだ」
そう言って店員さんはウインクをした。
なつめ「ありがとうございます!店員さんのおかげでとってもいい日になりました」
店員「ははは、いい笑顔だ!色々大変だと思うけど
また来てね」
カラッとした笑顔がとても素敵な店員さんだな。
海が近いしそこで食べて行こう。
お店から出て海に行こうと歩き出したその時、
後ろに並んでいた男性が話しかけてきた。
ジャン「近くの海に行くの?良かったら一緒に食べない?」
なつめ「は、はい」
この人、怖い感じはないし、さっき褒めてくれたのが嬉しかった私はその誘いを受けることにした。
海。
なつめ「美味しー!」
ジャン「君は美味しそうに食べるね」
なつめ「はい、だって本当に美味しいですから」
ジャン「こっちに来てどれくらい経つの?」
なつめ「2か月くらいです」
ジャン「なるほど、だいぶ慣れた?」
なつめ「少し・・・毎日生活するので精一杯です」
ジャン「そうだよね、何かあったら俺が力になるよ」
なつめ「え」
ジャン「俺は今日、君の勇気ある行動に感動したんだ
相手に言い返すことはせず、かと言って自分のアイスクリームを食べたいという信念も曲げなかった
優しさと強さを備えた素晴らしい人だってね」
なつめ「い、いえ、私はそんな大した人間では・・・」
ジャン「いやいや、僕はそう思ったよ」
なつめ「ありがとうございます・・・」
ジャン「俺と友達になって欲しい、もちろん、無理強いはしない」
なつめ「もちろんです、友達になりましょう!」
ジャン「ジャンだ」
ジャンはそう言って手を出した。
なつめ「なつめです」
二人は握手をする。
ジャン「なつめ、可愛い名前だね」
なつめ「ありがとうございます」
ジャン「差別を受けることがこれから先もあるかもしれないけどお互い負けないように生きていこう」
なつめ「え、お互いってジャンさんも何か悩んでいるんですか?」
ジャン「うん、実は俺、男が好きなんだ、心は男なんだけどね」
なつめ「へぇ、そうなんですね」
ジャン「あれ、あまり驚いてないね?引かれる覚悟で言ったつもりだったんだけど」
なつめ「一瞬は驚きましたけど、引いたりしませんよ」
ジャン「やっぱり君は素敵な人だね」
なつめ「あんまり褒められると恥ずかしいです」
ジャン「恥ずかしがることないのに」
なつめ「あの、ジャンさんは恋人いるんですか?」
ジャン「いないよ、絶賛片思い中さ、なつめはいるの?」
なつめ「いえ、いないですよ!」
ジャン「なつめは可愛いからすぐにできそうだけど」
なつめ「ありがとうございます、でも私、恋愛にはあまり興味がなくて」
ジャン「そうなんだ、無理にするものじゃないしね」
なつめ「でも、ジャンさんには好きな人いるんですね
好きな人がいるって素敵なことですよね」
ジャン「ありがとう、俺が女の人だったら迷わず告白するんだけど
なかなか勇気が出なくてね・・・」
ジャンの表情に影ができる。
私は立ち上がった。
なつめ「ジャンさん、また一緒にアイスクリーム食べましょう!
私じゃ力になれることは少ないかもしれないですけど
友達ならば悩んだり辛い時は頼るものですよ」
じか「なつめ・・・ありがとう、やっぱり君は素晴らしい人だ」
こうして私は移住2か月目にして初めて友達ができた。
時々会って一緒にアイスクリームを食べる、そんな仲だ。
私が危なくないようにと夜の飲み会やクラブの誘いはせず、いつもお昼の時間帯に誘ってくれる。
ジャンさんの恋の話、私の生活の話、仕事の話、色々な話をした。
私の収入が低いことを知っている彼はご飯をご馳走してくれる。ありがたい話だ。
私も何か力になれたらいいのだけど・・・。
数ヶ月後、彼の友人達とも交流をするようになった私は友人が増えた。
なつめ「ジャン、今日は誘ってくれてありがとう
楽しかった」
ジャン「俺の方こそ来てくれてありがとう、なつめの楽しそうな顔が見れて嬉しいよ」
ジャンは本当に優しくて頼りになる良き友人だ。
そんな彼にお返しができる日はまだもう少し先のお話。