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【第三十話】

 翌週までに話が出来なかったらおしまい。凛がそう言ってから一週間が経過した。今日まで夕飯の時にはこの話題は出してなかったけど、今日で一週間だし聞いてみようか。

「なあ凛、例の……」

「桜井さん!話してくれたよ!」

「へ、へぇ。何の話をしたの?」

「んーっとね。結構色々と。あれとこれとそれと」

 指折りしながら話をしている。こう言う時の凛は大した話をしていない。今回は、今の言い方だと二、三、話をした程度だろう。でも話を出来たことは事実なわけで。おしまいにはならない。僕は少し焦りを感じていた。凛は何かあれば突っ走るところがある。彼女が居たとしても、その時が来たら一直線に動く可能性がある。そうなったら止められそうにない。唯一止められるとしたら桜井さんの彼女になるわけだけど、誰だか分からないし。やっぱり青山先輩に聞いてみるか?と思っていたのだが、予想外なところからその答えはやってきた。

「新田君、今日って時間もらえる?」


 葉さんから電話が入ったのが今日の午前中。そして十四時に約束して、今は十七時。僕の目の前には溝口さんと桜井さん、隣に葉さんが座っている。

「あのね、溝口さん。先日の一件があってから事務所の意向で男女交際は禁止にしてるって知ってるでしょ?」

 さっきからこの話をしているがなかなか前に進まない。桜井さんが半分黙秘しているからだ。

「桜井君も。あなた達なら何かの間違いはないと思うけど、若い人たちに説明がつかなくなるでしょ?」

 この話をし始めた時に僕はいつ凛と僕の関係について突っ込みが入るのかとおもってビクビクしていた。凛も男女交際は禁止されていると言う事になるからだ。

「あなた達、友達以上、恋人未満、みたいな関係じゃ満足しないの?」

「葉さん、それならオーケーなんですか?」

 僕が葉さんに聞いてみたら「新田君が凛とそんな関係でしょ」と言われてしまった。一応黙認されてるんだ。一安心。でもそれ以上の関係になれないことも確実となってしまった。

「わかったわ。あなた達の考えは良く分かったから来週にはもう一度話をするから。それまでにあなた達も話をしておいて。それじゃ、私は先に帰るから」

 そう言って葉さんは席を立って行ってしまった。僕は席を立つタイミングを無くして二人の前に座っている。

「溝口さんはどうするんですか?」

 一応聞いておく事にする。さっきの感じだと諦めないという答えを予想したが。そして僕の質問に溝口さん小さく息を吐いてから答えた。

「友達以上、恋人未満。それなら問題ないって言ってたし、それで満足するほかないんじゃないかな」

 以外と現実的な答えが返ってきた。しかし、この事態を凛はどう考えるのかな。少なくとも桜井さんには彼女は居ないことになるけども。そもそもこの話を凛にすべきかどうか。と考えながら帰っていたら途中で凜と駅前でばったりと出会った。

 

「ね、ね。今日ね、溝口さんと桜井さんが一緒に居るところを見たんだけど、なにがあったのか知ってる?」

 また答えに困る質問だな。僕たちと同じような関係になっているとでも言うのか?でも凛のことだ。そういう回答をしたら、ますます興味が湧くに違いない。

「葉さんとかと一緒に話しをしててな」

「ん?洋介も一緒に?」

「そう」

「何の話?」

 ええい。もう流れに任せるしかないか。ここで隠しても後から分かることだし。

「なんか溝口さんと桜井さんが付き合うとかなんとかで、葉さんがそれに釘を刺した」

「なんでその場に洋介がいるの?」

 ほんと、なんでだろうな。単純に葉さんに呼び出されたから?そもそもなんで呼び出されたのか。ここは正直に答えるのがベストだろう。

「正直よくわからん。呼び出されて行ったら溝口さんと桜井さんがいた。んで二人が付き合うとかなんとかで葉さんが釘を刺したって話かな」

「え?桜井さんと溝口さんってそういう関係だったの?意外。でもそれじゃ私が声を掛けたら溝口さんに悪いなぁ。でも気になるのよねぇ」

「その気になるって言うのは彼女になりたいという願望なのか、単純に友達になりたいという願望なのか、どっちなんだ?」

 もうストレートに聞くのが一番早い。真意を聞いて僕はそれに対処すれば良いだろう。

「恋愛感情かぁ。どうだろう。私は今の洋介との関係に満足してるし」

「そうなの?満足してくれてるんだ。だったら……」

「ほら一応、事務所的に恋愛禁止じゃない?」

「禁止じゃなかったら?」

「どう思う?」

「こうして毎晩、家に来てくれて晩ご飯を一緒に食べてる間柄だしな。個人的にはこのままの関係からもう一歩進みたいところだ」

「あの日みたいに?私を押し倒す?」

 懐かしいな。あの日が嘘みたいだ。そんなに時間は経ってない気がするのに、凛との距離は縮まってないような気がしてならない。いっそ振り出しに戻った方が良いのかも知れないな。

「凛はまたお天気お姉さんとかやりたいの?」

「なんでその話しが出て来るのよ」

「いや、あの時からやり直しが出来たらどうなるのかなって思ってさ。正直、今の凛は僕の事をどう思っているのか分からない」

「やり直せば自信があるの?」

「さてどうだろうな。でも少なくとも桜井さんは居ないから」

 そうだ。あの時はライバルみたいなのは居なかった。二人とも一人で過ごしてたし。やはり振り出しに戻る方が良いのかな。

「そうねぇ。桜井さんが居なければ話しはかなり違ったかも知れないわね」

「って事は、今でも芽がない訳ではないと受け取ってもいいのかな?」

「私が迷ってる内はね」

「でも桜井さんには溝口さんがいるじゃない?」

 そこはどう思ってるんだろうか。奪おうとでも思っているのだろうか。凛なら考えかねない話しだ。

「その辺はその……ほら。分かるでしょ?」

「はっきりは言わないのな。少しズルい気がするけども、なんとなく分かるからいいや」

 僕は凛の口から桜井さんが好きだ、という言葉を聞きたくなくて会話を打ち切った。そして全く違う話題を切り出してその日の夕御飯は終わって、凛は家に帰っていった。

「略奪愛、かぁ。僕の事は本当にどう思っているんだろうか。やはり友達以上、恋人未満。これなのだろうか」

 お風呂に入りながら言葉にすると、否が応でも実感が湧いてくる。

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