【第二十八話】
「合格したよ。で、今週末に早速仕事が入った。時給も結構良いし、助かったよ」
「そうですか。それは良かったです」
今週末の仕事。葉さんの依頼事項だろうな。それにしても助かったってどういう意味なんだろうか。まさか金策に困っていたとか?単純にバイトを探していたのか?詮索するような事ではないので触れなかったが、違和感の正体はそこにあったと凛と話て気がついた。
「なんか助かったとか言われたよ」
「バイトのこと?」
「そう」
「やっぱりそうか……」
凛が腕組みして頷きながらそんな事を言う。何か思い当たる節があるのだろうか。
「やっぱりって?」
「いやね、スカウトの件、ギャラの話をやたらと真面目に聞いて来たなぁって。お金に困ってるのかな」
さっぱり分からんが、話をつなぎ合わせるとそう言う線が濃い。なにに使ってるのかまでは分からんが。
「で?スカウトの件はどうなったの?」
「来週には答えを出してくれるって。私の予想では問題ないと思うのよね。今週末の仕事をこなして、相手を欺いて」
「欺くってなんだよ。騙すような必要って、あのバイトで必要か?」
「大いに必要でしょ。相手に合わせて性格をチェンジ!してなかったの?そういうの」
「全く」
僕はやっぱり役者に向いてないのかも知れないな。そんな事を思っていたら件の青山先輩から電話が入った。
「今週末の仕事なんだけど、恋人のフリをして相手の親に挨拶するって内容なんだけど、このバイトってそこまでのことする感じなの?」
電話に出たらいきなり早口でそう言われたので、答えに窮してしまった。しかし、恋人役で相手の親に挨拶なんてかなりの演技力が問われる内容なんじゃないのか。葉さん、やりすぎ。
「僕はそこまでのことはやったことは無いですけども、その依頼内容だとバイト代、はずむんじゃないですか?」
「そうなんだよ。聞いてた基準を上回る内容で。でもこれって相手の親を騙すことになるじゃない?良いのかなって思って」
「そういうバイトなんですし問題ないと思いますよ。でも内容が内容だけに後腐れが無いようにしないといけないかもですね。なので相手に連絡先とか渡すのは厳禁だと思いますよ」
僕の場合は偶然出会ってしまったけども。しかし、葉さんは本気で青山先輩をテストする気でいるなぁ。
「なんだって?母さんからの電話だったの?」
「いや、青山先輩から。内容がちょっとハードで、相談された感じ」
「なるほどなるほど。まぁ、母さんの考えることだからなんとなく分かるけどもねー」
翌週の月曜日にカフェテリアに凛といたら、青山先輩がこの前の取り巻きと一緒に入ってきた。そして何かを話した後に一人で僕たちの元にやって来てこう切り出した。
「新田君、このバイトヤバくないか?」
「一体なにを言われたんですか。僕たちはそんな風に感じたことないですけど」
「結婚を前提にお付き合いさせて貰ってます、っていう内容だった。相手の親に連絡先を聞かれて止むに止まれず伝える事になってしまって。それが依頼相手にも伝わってしまった」
葉さんの手引きだから問題ないと思うけど、それを伝える訳にはいかないし。答えに困っていたら凛が話に入って来てくれた。
「その人、付き纏って来るような感じの人だったんですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけども。でも結婚を前提にって話だったから相手の親からは何か言われる可能性が……。終わった後に別れた事にするからって言われたんだけども」
確かになにも事情を知らなければ「なんで別れたんだ」とか相手の親に言われる可能性も考えるか。僕は凛に小声で「今回の件って葉さんの差金なんだよね?」と確認したら普通に頷いてきたので問題ないと判断しようとしたけども、相手の親の役、葉さんがやってる可能性が高いな、と思ってその後の連絡もして来そうだと想像してしまった。
「新田君は連絡来たらどうすれば良いと思う?」
青山先輩はらしからぬ感じでオロオロしているように感じる。もっとしっかりしてると思っていたから意外だった。
「そうですね。自分からは詳しく話せないから娘さんに聞いてほしい、で良いんじゃないでしょうか。下手に何かを言う方が巻き込まれると思います」
「そうか。そうしよう。ありがとう」
そう言って席を立ってカフェテリアを出て行った。
「凛、葉さん、もしかしてだけど相手の親の役とかやってた?」
「知らないけど、その可能性あるわね。意地悪だから。なので、絶対に連絡入れると思う」
そして案の定、連絡が入ったらしくて、また相談されてしまった。
「何て答えたんですか?」
「いや、娘に別れてくれって僕が言った事になってて、何でだ、っていわれて……」
葉さんもひどいなぁ。にしても青山先輩のイメージが崩れる。もっと毅然とした性格なんだと勝手に思ってた。
「それで、責任が取れないって言ったら、そんな覚悟で娘と付き合ってたのか、って」
「それって母親の方からですか?」
「そう」
完全に葉さんの仕業だ。この話でしどろもどろになるなら役者としてどうなのか、って判断をするのか、フレッシュで良い、と判断するのか。電話を切った後に僕は葉さんに連絡を入れた。
「青山先輩のバイトの件なんですけど……」
「なに?洋介君に相談でも入った?」
「やっぱり……電話入れたの葉さんだったんですか」
「そ。なんか可愛い反応でイタズラしたくなっちゃって」
「それで役者としてはどうなんですか?」
「うーん。それに関しては才がない、かなぁ。残念だけれど。でも台本を用意したらどうなるかな?って。だから次は溝口さんに親にこうやって話て欲しいって行ってもらおうと思って」
相手の女の子って溝口さんだったのか。でも確かに台本があれば何とかなるかも知れない。と思ったのだが、青山先輩はその台本もうまくこなせずに葉さんに突っ込まれてしまったようだった。そもそも相手の反応が決まってない台本なんてあるのか……。
「葉さん、青山先輩をどうしたいんですか。なんか物凄く困ってましたよ」
「困るように仕向けたんだもの。予定通りかな」
「そんな事したら事務所に入ってくれないんじゃないですか?」
「うーん。それ、どうしようかなって思って。洋介君からみて役者として上手く行くと思う?」
正直、難しいと思ったけども、今の青山先輩は今までの青山先輩とは違う。つまり、今までは偽りの姿を保っていたわけで。何とかなるような気がする。そのことを葉さんに伝えたら「へえ」と言われたけどもどうも本気にはしていないようだった。
「なあ、凛、葉さんって青山先輩をどうしたいんだ?」
「なんで私に聞くの?」
「だって母親じゃん。それにスカウト話もそうじゃん」
「そうなんだよねー。母さんからはまだ誘ってて欲しいって言われてるし」
「なんだよそれ」
ホント葉さんは何を考えているのか。などと凛と話ていたらまた青山先輩から電話が入った。もう本当に困ってるだな……、と思って電話に出たら予想外の連絡でこっちが驚いてしまった。
「相手の女の子と本当に付き合う事になってしまった。で、この場合は樋口さんから誘われてる事務所の件ってダメなんだよね?」
「え?事務所の件ですか?」
僕は知らばっくれて答える。だってその話は僕はしらないことになってるんだから。
「ああ、話してなかったね。樋口さんから芸能事務所に入らないかって誘われてて。でもその事務所は恋愛禁止って言われてて」
でも相手って溝口さんなんだよな。コレって何かの台本なのか、二人ともに本気で付き合いたいと思ったのか。それが気になるところだけど……。
「ちょっと電話掛け直しても良いですか」
僕は一旦電話を切って今の件を凛に話した。もしかしたら何か知ってるかと思ったんだけど、凛も何も聞いていないという。そして凛から葉さんに電話を入れて貰ってことの真相を聞いてみたら、案の定コレも設定上の話だという。どこまで青山先輩を翻弄する気なのか。何のメリットがあるのか。僕は電話を代わって貰って葉さんにその事を聞いてみる事にした。
「なんでこんな事してるんですか?」
「うーん。事務所に誘うため?」
「なんで疑問系なんですか。そもそも恋愛禁止の事務所なのに、こんな台本作ってどうするんですか」
「だって面白そうだと思ったから。彼、意外とシャイなところがあって良い感じだわ。ますます欲しくなっちゃう」
言っていることとやっていることが矛盾している。これからどうやって事務所に入所させるつもりなのか。
「洋介、聞いて。私、青山先輩に告白された」
「は?」
いつもの様に晩御飯を食べてる時に不意に言われて変な声が出てしまった。
「だから、青山先輩に付き合ってほしいって言われたの」
「なんで。溝口さんと付き合う事になったんじゃないの?」
もう話が何が何だか。どうなったらこんな話になるのか。
「そうなんだけど、私にも付き合って欲しいって」
「二股ってこと?」
「うーん。現状はそうなんじゃないかな」
「訳わからん」
「でしょー。だから私も流石に断ったんだけど、結構本気だったみたいでさ」
これも葉さんの台本なのだろうか。何らかで話がついて演技で凛に告白させたとか。だとしたら凛は違和感を感じてないみたいだから成功だと思うけども。何にしても葉さんに確認だな。と、僕が葉さんに電話しようとしたら溝口さんから連絡が入った。なにやら忙しいケータイだな。なんて思いながら電話に出たらこれまた忙しい内容で僕の気持ちがついてこなかった。
「なんか青山君に告白されて付き合う事になったんだけど、その日の夕方に他に好きな人が出来た、って言われたの。なんか事情知ってる?」
思わずため息が出た。こんなことをするのは葉さんしかいない。
「今、凛と一緒にいるんですけど、確かに青山先輩が凛に告白したみたいですね。コレって葉さんの差金なんじゃないんですか?」
「私は何も聞いてないのよね」
「そもそもその付き合うって言うのは溝口さん、本気だったんですか?」
「申し訳ないけども、そういう台本だと思ってた。でも酷くない?その日の夕方にとか」
「多分ですけどコレも葉さんの台本だと思いますよ。今度聞いてみて下さい。ちなみに凛は断ったらしいですよ」
「そう、なんだ」
少し残念そうな反応が返ってきてこっちが焦ってしまった。そして電話を切ったと思ったらすぐに葉さんから電話がかかってきた。本当に忙しいケータイだな。
「なんですか。もう。やりすぎですよホント」
「そう?なんか面白い事になってるでしょ?」
「凛も困ってますって」
「凛は分かってるんでしょ?」
声が漏れていたのか凛がスマホを僕から奪って、葉さんに抗議を入れた。
「ちょっと、本当に困ったんだから!」
「あら。洋介君のことが好きだから?」
「なんでそうなるのよ!そもそもこのスカウト話って本当の話なの⁉︎」
ん?どういうことだ?本当の話?
「そう!もう本当は青山君、事務所に入所してるんじゃないの?」
んん?
「あら、察しが良いわね。流石私の娘だわ。上手く騙せたみたいじゃない?」
んんん??
「どこからが演技だったの」
「最初から?」
「だから最初ってどの辺からなの」
「んー。聞きたい?」
すごく聞きたい。今すぐ聞きたい。凛は珍しく怒ったようで語気を強めてる。
「今すぐ話して」
「じゃあ、話すか。えーっとね。凛が痴漢に助けられたって話あったでしょう?」
「話ってなによ。まさか……」
「そのまさかよ。あの件も私が仕組んだんだもの。彼、完璧な演技だったでしょう?」
まじか。痴漢をした人って警察に突き出されたんじゃないのか。そこまでしてくれる人なんているのか。よほどなことを葉さんに握られていたとか?そこは今度聞くとして今は凛と葉さんの話を聞こう。
「実の娘に何してくれてんの……。はぁ。それで?」
「合格。二重丸。娘を騙せたんだもの。でも彼、ギャラに関してはきついのよねー。ね、その件って何か知ってる?」
「わかる訳ないでしょ。ったく本当にもう。切るよ!じゃあね!」
と言って僕にかかってきた電話を切られてしまった。
「洋介、酷くない?私、痴漢されたのよ?あり得る?」
「ないな。普通にない。葉さん、やりすぎだと思うよ。でもあれが全部演技って本当に凄いかも知れない。こっちがドッキリさせられるとは思わなかった」
かくして青山先輩の件はひと段落ついたわけだけども。
「ねぇ洋介。さっきの話じゃないけど、私に好きな人が出来たって言われたらどうする?
「は?」




