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【第二十三話】

「あの。話って何ですか?」

 なんでこんな事になってるのかと言うと、若葉ちゃんと健吾君が一緒にいるのを見かけてしまったからだ。遠目に見たら双葉ちゃんと見分けがつかなかったけども、二人の様子から見て若葉ちゃんと判断して声を掛けたのだ。

「まず。ちょっと聞いておきたいんだけど、健吾君は、この子が双葉ちゃんじゃないのは分かってるよね?」

「えっと。はい。流石に」

「若葉ちゃんは双葉ちゃんのふりをしたりしてないよね?」

「え?はい。してません」

 それを聞いて凛も僕も頭を抱えてしまった。

「それじゃ聞くけども。今日、二人でどこに行ってた?」

「え?ちょっと相談事があって食事に……」

「その前」

 凛が切って出た。

「その前に行っていた場所」

 そう。その前に行っていた場所が問題なのだ。まさかホテル街で見かけるような事になるとは。凛がそろそろねぇ、とか言って僕をホテル街に誘って来たまでは良い。が、そこで目撃してしまったのだ。健吾君と若葉ちゃんの二人がホテルから出てくるところを。

「いや……その……」

 健吾君の歯切れが悪い。若葉ちゃんも下を向いてしまった。こんなところで僕たちが詰問するような事じゃないんだけど、ここまで関わってしまったからには大人の役目を果たすべきだろう。

「健吾君は双葉ちゃんがそういうことをしたから自分もって思ったの?」

「そう言うわけでは……」

 じゃあ、どう言うわけで、と追撃しようとしたけども凛に遮られた。

「若葉ちゃんはどういうつもりで健吾とやっちゃったの。自分の姉妹の彼氏よ?普通する?流石に私もちょっと思うところがあるけど。健吾も健吾よ。なんでこんな事したの?」

「……」

 まぁ、そうなるよね。僕は大きくため息をついてからこう言った。

「近いうちに双葉ちゃんから健吾君に大事な話があるから。それを聞いてから今回のことを考ええれば良いんじゃないのかな」

「大事な話ですか?」

 どうやらまだのようだ。まぁ、聞いた上での行為なら意趣返しの面もあるかも知れないと思ったのだが。純粋な行為なら、より邪悪だ。

「そう。大事な話。かなり大事な話になると思うけど。その時に今回の一件を双葉ちゃんに伝えるのかどうかは任せる」

 隠し通すならそれはそれだ。嘘も隠し通せば真実になる。しかし、今回は事情が違う。

「それで、私たちが仲立ちしても良いんだけども、どうする?」

 凛がそんなことを言い始めた。仲立ちって。面倒なことに首を突っ込んでどうするんだ……。まぁ、ここまで知ってしまったんだから仕方のないことかも知れないけれど。

「で?仲立ちってどうするのさ」

「簡単よ。全員で会って洗いざらい話せばいいんじゃない?そこに私と洋介も一緒に居るから」

 という、なんとも乱暴な方法で凛は解決させようとしているけれども。ただ別れるだけなら良いけども、今回は子供が絡んでくる。それをどうするのか。少し考えただけで胃が痛い。

 

「いらっしゃいませー……」

 三木谷ちゃんはただならぬ気配を感じ取ったのかトレーで顔を半分隠して出てきた。そしてお席はご自由に……。と言ってバックヤードに早々に下がっていた。

 さて。ここからが本番な訳だけども。健吾君と双葉ちゃん。その正面に僕。僕の横には新葉ちゃんと凛が座っている。どこから話したものかな。

「さて!全員が揃ったので懺悔を始めます。まずは約束になっているらしい双葉ちゃんから堅健吾君への懺悔」

 そう。これが一番の懺悔なんだけども、今回はその後の若葉ちゃんとの一件が本題のような気がする。

「あの……。私……実は……」

 ここで声が止まってしまった。まぁ、そうだよね。諸星君以外とも関係を持っていたなんてどうやって説明するのか。と思っていたら凛が助け船を出した。

「健吾君は浮気する彼女ってどう思う?」

「えっと。あまり良い気分ではないですね」

「今回の一件は子供が居なかったら別れてた?」

「かも知れませんが……。諸星があんな感じなので僕が責任を取りたいと思ってます」

 やっぱり健吾君はよく出来た子だ。それなのに新葉ちゃんは、それを裏切る行為をしていたわけで。

「双葉ちゃん、自分から話せないなら私から話すけどもいいの?」

 双葉ちゃんは小さく頷くと深くうなだれしまった。

「双葉ちゃん、どうしたの?」

 そりゃそうだろう。ここに来てあんな話しが出て来るとは思わないだろうし。凛は大きく息を吐いてから。もう一度若葉ちゃんに確認をしてから話し始めた。

「私はごちゃごちゃしたことが嫌いだから結論から先に言うね。あ、若葉ちゃんも良いわね?」

「分かりました」

 若葉ちゃんは観念したという感じで声を出した。そしていよいよ事の真相が語られる事になる。

「まず。双葉ちゃんは諸星君以外にも関係を持ったことがあります。それでも健吾君は双葉ちゃんと結婚することを考えますか」

 まずもなにも。全部話してるじゃないか。僕は健吾君の反応を待った。健吾君は理解が追いつかないと言った顔をしている。当然だろう。一気にそんな情報が流れてきたのだ。僕でも混乱する。

「えっと。ことのつまりは双葉ちゃんの子供は諸星君じゃない可能性もあるってことですか?」

「話しを整理するとね。で、どうする?」

 そんな話し、ここで答えを出すなんで出来ないだろうと思ったら健吾君はあっさりと結論を出してきた。

「僕は……。流石にそこまでは責任は取れません。大変申し訳ないけれども……」

 まぁ、そうだよね。僕でもそうする。最初の諸星君との一件で庇うことすら僕には出来なかっただろう。それを聞いた双葉ちゃんは泣き始めてしまったが、凛は「泣くのはあなたじゃないでしょう?」と鋭い口調で釘を刺した。

 それで。次は若葉ちゃんと双葉ちゃんの一件になるわけだけども。って、答えは出てるし、これは姉妹の話だから関係ないのかな?と、険悪を通り過ぎて暗黒のオーラを放つ僕らのボックス席に一人の男がやって来た。この人は確か……。

「話しは聞かせて貰った。凛さんの言うことは本当なのかね?」

 その男の問いに双葉ちゃんは小さく頷いて反応をした。

「そうか」

 男は小さくため息をついてから電話を取りだしてどこかにかけ始めた。

「例の話しなんだが、キャストは変更で頼む。そうだ。急な話で申し訳ないが」

 そう言って電話を切ってから男はゆっくりと話し始めた。

「健吾君、次の仕事の件だけどね」

「はい。分かってます。イメージ先行の内容ですし。こういった話が表沙汰になればスポンサーに迷惑がかかりますので」

「そうだな。次に諸星君。君には事務所を退所してもらいたい。あの事務所にはクリーンな人材を集めておきたいんだ」

 クリーンねぇ。彼氏彼女付きの俳優っていいのかな。その辺も今後は厳しくなるのかな。なんて思っていたらその男からその件についてもはなしがあった。

「このような事が起きたからには今後、事務所に所属するには男女関係を絶ってもらいたい。健吾君もそれでいいね」

「はい」

 この返事は双葉ちゃんにとっては死刑先行のようなものだ。自分のしたことの重さに押し潰されそうな顔をしている。

「それで?まだ何か話がありそうだが。私も聞いて構わないのかな?」

 この男。そうだ思い出した。以前舞台を見に来ていた大御所と呼ばれていた男だ。着物を着ていなかったので気が付かなかった。しかし、これから話すことは健吾君も事務所を退所するきっかけになるやも知れないことだ。僕が凛の方を見ると、大きくため息をついてから話し始めた。

「あの。これから話すことを大河内さんが聞いたら健吾君も事務所を退所してもらう事になりますけど、それで良いですか?」

「なるほど。そう言う話かね」

「はい」

「分かった。聞こう」

「健吾君もいいわね」

「それは僕から話してもいいですか?」

 あのことを自分から話すのは勇気がいることだと思うが……。本当に話せるのだろうか。僕は黙って健吾君が話し始めるのを待った。

「僕は……若葉さんとホテルに行きました」

「え……」

 反応したのは双葉ちゃん。若葉ちゃんは押し黙ったままだ。

「しかし、ホテルでの出来事は皆さんの思っている内容とは異なります。僕は若葉さんと体の関係を持つためにホテルに入ったわけではありません」

 そんなことが信じられるのか。現に若葉ちゃんは押し黙ったままだ。後ろめたい事がなければこんな反応をするはずがない。

「それでは健吾君。君はなぜホテルにこの子と入ったのだね?」

 大河内さんが至極当然なことを聞く。

「信じて貰えるかわかりませんが、次の舞台の役柄で浮気をする役に挑戦するのは大河内さんもご存知ですよね?実際に浮気をするわけにも行きませんし、それならホテルに別の女の子と入る、という行為で浮気の気持ちが分かるような気がしたのです。なので若葉さんには僕は一切手を出してません」

 このような話が信じられるのか。誰しもがそう思った時だった。

「動画があります」

 健吾君が見せて来たのはホテルに入る前から出るまでの動画だった。内容はホテルに入って飲み物を飲んだだけで外に出てくる、というものだった。それなら若葉ちゃんの反応は何なのか。

「若葉ちゃん、これ本当なの?」

「はい。でもホテルに入ったのは事実ですし双葉にはなんて言えばいいのかと思いまして……」

 そう言うことか。若葉ちゃんには下心があったってことか。普通逆だろうに。「それで?浮気の気持ちは分かったのかね?」

 大河内さんが聞く 

「はい。良くわかりました。後ろめたいような……でもどこか期待するような。それと、浮気される気持ちも先ほど分かりました。人生の上ではこの上ない体験だったと思います」

 この上ないって……。役に立ったとでも言うのか。しかし、さっきの話が本当だとしたら、この中の当事者で唯一のクリーンな存在になる。若葉ちゃんも事実上はクリーンな訳だけど、双子姉妹の関係としては気まずいものがあるのだろう。

「あい分かった。健吾君には事務所に残ってもらう。諸星くんには私から連絡しておく。しかし、このことは葉は知っているのかね?」

「一部は。ママはそれが分かったことで諸星君の処遇について考えてると思います。招聘したのはママなので、事務所の件はママから諸星君に連絡でもいいですか?」

「分かった。ところで、この双子さんはどうするのかね?聞けば諸星君以外にも関係を持ったようだが。出来ればその相手を聞きたいものだが」

 流石にそもまではプライベートに関わる部分かとおもったが、大河内さんは関係した所属俳優の排除を考えているのか、目が本気だ。そしてメモとペンを出して双葉ちゃんに書き出すように言った。そして三人の名前が書かれたメモを大河内さんに返した。

「なるほど。ところで君はその子供、産むのかね」

「あの、大河内さんはどこまでご存知なのですか?」

「私か?さっき君たちが話していた内容までだが」

「子供の件は話してなかったと思いますが……」

「話の流れ、雰囲気からその辺は大人には分かるものだよ。それで若葉さんはどうするつもりなんだい?何にしても関係を持った諸星君その他三人には慰謝料を支払うようにするつもりだ。それとも鑑定をして誰なのか確認するかね?」

 ひどく冷酷だが、現実的な内容だ。しかし、今この場で決めるような事でもない内容だ。一人の命がかかってるんだ。僕がそのことを双葉ちゃんに言おうとした時だった。

「私……この子は産みません。産んだとしても幸せに出来る自信がないです」

「若葉ちゃん、そんなに急いで結論を出さなくても良いんだよ?」

 僕は思わずそう言ったが、結論はいつかは出さねばならないことだ。今回の事象は早くしなければ手遅れになる可能性がある。

「分かったわ。あとは私たちが対処するから双葉ちゃん以外は退席してもらっても構わないわ」

「私も残って良いかね」

「大河内さんも残られるんですか?しかし……」

「彼女のご両親にお話をする事が出来たのでね」

 凛が分かりました、と言うと同時に若葉ちゃんと健吾君は席を立った。

「それで?彼女のご両親は来て頂けるのかね?」

「大丈夫だと思います」

 双葉ちゃんはそう答えて電話をかけ始めた。そして三十分は経っただろうか。

 双葉ちゃんのご両親がやってきた。


「あのこちらは……」

「初めまして。私は大河内と申します。業界の責任者、とでも言いましょうか……。今回の一件、まずは私から謝罪させて欲しいのです。本当に申し訳ありませんでした」

 双葉ちゃんのご両親は突然の謝罪にビックリしていたが、話を飲み込めたのか父親がこう返答した。

「そう言って貰えると心が若干ですが軽くなりました。やり場のない怒りがありましてね」

「そうですか。それと、今回の一件に関わった者たちからは当然の報いとして慰謝料をお支払いさせて頂きます」

「関わった者たち?」

 しまった……。若葉ちゃんが複数の男と関係を持ったと言うことはまだ知らなかったはずだ。大河内さんにはそのことを伝えておくべきだった。と、ここで凛が助け舟を出した。

「双葉さん、私の所属する事務所の数人から言い寄られて断れなかったようなんです。責めないであげて下さい」

「本当なのか?双葉」

 双葉ちゃんは顔を両手で覆って泣き始めてしまった。それが答えと受け取った父親は息を吐いて目線をどことでもなく向けて話し始めた。

「双葉。今しがた聞いたことが本当であるなら私たちは双葉を勘当しなければならない」

 娘を勘当する。高校生の娘を。しかし、誰が育てるというのか。健吾君という船は無くなってしまった。そこへ一隻の船が現れた。

「私が育てましょう」

「え?」

「業界の起こした事は私が責任を持ちたい。代わりに双葉さんを私たちの業界に入ってもらう事になりますがよろしいですか?」

 思わず声を出してしまった。大河内さんが双葉ちゃんの責任を取るというのか。助け舟にしては大きすぎる。僕は凛を見たが、同じような顔をしている。

「そうですか。見ず知らずの方のお申し出、通常であればまずはお時間を頂戴したいところですが、本件に関しましてはお願いしてもよろしいでしょうか?親として恥ずかしいところですが……」

「いや。実は私も同じようなものなのですよ。実際の父親を知らない。だから双葉さんの事が他人事には思えないのです」

 大河内さんも同じような境遇……。なんだか芸能界の闇を見たような気がした。

「それでは大河内さん、大変お恥ずかしいところですが、娘をよろしくお願い致します」

 凛はこんなにも簡単に娘を手放す事が気に入らなかったのか、双葉ちゃんの両親に詰め寄ろうとしたけども、それを大河内さんは止めに入った。

「凛さん。言いたい事は分かるけども、これは仕方のない事なんだ。君も親になれば分かる」

 

 その日の夜。凛はまだ納得していない様子で僕にあれやこれや言ってきた。

「仕方ないって。それはないんじゃない⁉︎今まで大事に育ててきた娘でしょ⁉︎そんなに簡単に……」

「いや、事前に考えていたんだと思うよ。高校生で子供を産む。この事自体が大きな事だと思うし。最初は健吾君という存在があったけど、あのままでも多分同じような結論を出していたような気がする」

「でも……」

 結局、今回の一件では健吾君は高校生と関係を持った事実があるので、次の仕事を失った。諸星君も同じく。若葉ちゃんは健吾君に協力しただけで無実、という結果になった。それにしても諸星君には退所してもらうって言ってたけども、健吾君は次の仕事を失っただけで済むのは何故だろうか。葉さんへの気遣いだろうか。

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