【第二話】
「あ!ここ知ってますよ!縁結びの神様のところですよね!」
三木谷ちゃんがスマホで調べながら僕に話しかけてきた。
「そうなの?」
僕もスマホで調べてみたら、どうやらカップルで来る前提でグッズが作られたりしてるようで。もしかしなくてもよりを戻したら行くはずだった所なんだろうな。
「そ!縁結びの神様!これから良縁が見つかりますようにって。そこらへんにうじゃうじゃしてるカップルは爆発四散しろ」
「そんなこと言ったら御利益無くなりますよ……」
樋口さんはしばらくそんな悪態をついていたが落ち着いてきたのか僕にこんな事を言ってきた。
「もし、だけど。今日このあと別れて偶然また会うことがあったら付き合ってよ」
これは判断に困る。恋人としての付き合って、なのか、今日みたいにどこかに行こうよ、なのか。
「洋介先輩はどうなんです?樋口先輩ってタイプなんです?」
「うーん。流石に今日の今判断ってのは難しいな。もうちょっと親睦を深めるというかなんというか」
「あー。それ、悪い癖ですよ?相手に思わせぶりな雰囲気出ちゃいます。男女の友情はないんですよ?」
それを言ったら三木谷ちゃんと僕はなんだったのか、って話になるけど……。あ。
「もしかして三木谷ちゃんって、その……」
「べー、です。手遅れです」
そう言って三木谷ちゃんは舌をチョロっと出してそっぽ向いてしまった。
「ほら、男女の友情はないって言ったじゃない。洋介くんは鈍いの?」
「正直分からないんですよ。好きになるって。仲の良い感じの延長線上のものなのか、もっと特別なものなのか」
「そんなに難しく考えなくても良いと思うよー。あ、この人と一緒にいたい!って位で。軽く軽く。って私が言っても説得力ないか」
樋口さんはおどけて見せたけどもやっぱり尾を引いてるようだ。
「分かりましたよ。良いですよ。偶然出会ったら付き合いましょう」
「洋介先輩、本当ですか⁉︎なんで私の時だけー!」
「なに?三木谷ちゃんも、まだ洋介くんのことが好きなの?」
「今はそんなでもないですけど。ちょこっとは……」
「なになに?それって脈アリってこと?洋介くん、これを見逃してもいいの?」
「見逃さなかったら樋口さんはどうするの?」
「男に二言はない!さっき付き合うって言った!」
「どっちなんですか……」
もう話がしっちゃかめっちゃかになってる。なんか話の成り行き的に三木谷ちゃんにアクション起こしたら彼女になってくれる感じだし、そうじゃなくても偶然樋口さんに出会っても彼女が出来るわけで。これがモテ期か。
「ま、兎に角、こういうときは神頼みで。ほら、お賽銭用意して〜、ほい!」
樋口さんは勢いよくお賽銭を投げ入れて手を合わせている。長い。そんな姿をジッと見ていたのがバレたのか、肩を叩かれてしまった。
「いいでしょ?私だって良い男に巡り合いたいんだから!」
僕は少し小さくため息を吐きながらもお賽銭を投げ込んで……。この二人のどちらかと……。という雑念が頭を過ぎってお願い事がまとまらない。
「で?洋介先輩はどっちでお願いしたんですか?」
三木谷ちゃんに聞かれて僕はこう答えた。
「良縁に恵まれますように、って。どっちが良縁なのかね」
「うっわ。ズル!神様ー、この人ずるいですよ〜」
樋口さんはそんなことを神様に報告している。実際どっちが良縁なのか分からないからお願いしてるのに。
「じゃあ、次はおみくじ!」
そう言って樋口さんは僕らを置いておみくじ売り場に先に向かっていった。と言っても振袖姿だからちょっと追いかければ追いついたのだけれど。
「じゃ、せーので開くよ」
樋口さんの掛け声で皆一斉におみくじを開いた
「大吉!」
「小吉」
「凶、だな」
おみくじで凶とか初めて引いた……。書いてある内容を見たら散々な結果で。「待ち人 来ないでしょう」って。待ちぼうけ食うのかよ。他にも何もかも否定されてて。病気にもなるらしい。
「うわ。先輩ひどいですねそれ。でももし病気になったら看病してあげますよ?」
「こらこら。人を病人にするな。で、大吉の樋口さんのはなんて書いてあるの?」
「ん?全てがハッピー!でもそれに浮かれて転ばないように気をつけろってさ」
「良いじゃないですか。凶を引いた僕からしたら羨ましい限りで」
「でも高いところに登っちゃったから、あとは転げ落ちるしかないじゃない。凶は登っていくんだよ?」
「まだ大吉があるから大丈夫でしょ」
おみくじ談義は続く。こういうのはいくら話しても飽きないものだ。他人の幸不幸は他人目線からだと楽しい。
「で?その待ち人っていうのは誰のことなの?」
樋口さんが覗き込んでくる。
「これ?来ないんだから誰だか分からないんじゃないのかな」
「完全なボッチってこと?」
「そんなの分からん。神様に聞いてくれ」
「なんで?私が来たじゃん。予想外だったんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。もしかしたら他の誰かなのかも知れないな。来ないから分からないけど」
実際問題、このおみくじを引く前に樋口さんに三木谷ちゃんと出会ってるから待ち人が来なくても別に構わないと思ってたりする。意外と今の状況に満足しているのかも知れない。
「樋口さんの待ち人はどうなってるの?」
「ん?私?なんか、もうそばに居るでしょう、だって。洋介くんの事なんじゃないのこれ。ここ縁結びの神様なんでしょ?三木谷ちゃんじゃないでしょ多分」
なのかも知れない。でもさっき、この後に偶然出会ったら付き合おうって約束したばかりだし、今からやっぱりっていうのは、こっちからだとがっついてるみたいだし、そもそも恥ずかしい。
「三木谷ちゃんは?」
「私ですか?私の待ち人は……。もうすぐ現れるでしょう、ですって。先輩はもう表れてるから候補じゃなさそうですね」
「そうだな」
正直、三木谷ちゃんが中高生時代のいつからなのか分からないけども、僕のことを気にしていることに気が付いていたら、もっと違った学生生活になったかも知れないな、なんて今になって思う。まぁ、手遅れなんだけども。なんにしても二十歳になっても彼女の一人や二人居たことがないってのはどうかと思うし、ちょっと考えたほうがいいかも知れないな。