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【第十九話】

「芸能界引退後?」

 僕は楽屋で凛の母親から話を聞くことにした。

「そうです。仕事が無くなったら生活どうするんですか?」

「そうね。知り合いに商社に勤めてる人が居てね。その人の会社にお世話になることになってるわ」

 これはマズい。女子高生を妊娠させた人物を雇い入れてくれるのだろうか。ここでその話を勝手にするのはマズい。隠し通すしかないのか?でも会社って扶養届とか必要だろうし。バレるよね。奥さんの年齢とかで。

「なるほど。そうなんですね。それともう一つなんですけど、今回の計画が失敗して息子さんがそのまま主役を演じることになった場合はどうされるおつもりですか?」

 葉さんは頭を掻きながら一服おいて話し始めた。

「あの子にはこの業界が向いてないのよ。おべんちゃらとか苦手だし。それに……」

「やあ、ちょっと良いかい?」

 楽屋で話していたらドアが開いて谷口が顔を出してきた。僕達は話を中断して谷口の話に耳を傾けた。

「本格的に僕の身体が言うことを聞かなくなってきてね。もう少しは大丈夫だと思ったんだが。それで悪いんだが明日から葉が指揮を取ってくれるか」

「はい。今までお疲れ様です。これから病院に行くんですか?ご一緒します。神谷君、話はまた今度」

「はい」

 そう言って扉は閉まった。どうしたものか。凛は楽観視してるけども、そんなに簡単に事は運ばない気がする。例えば、だ。葉さんにこの事を話したとして反対されたらどうなるのか。堕ろせと言われるのだろうか。それとも応援してくれるのだろうか。なんにしても芸能界引退後のプランは成り立たないだろうから話はうまくまとまらないに違いない。かといって隠し切れるものでもないし……。

 

「なぁ、凛ならどうする?」

「なに?私と子作りしたいの?えっち」

「じゃなくてさ。ちょっと真面目な話」

「そうねぇ。母さんには言うべきだと思うけど。私はそのまま事務所に留まって芸能界のお仕事を続けるのが良いと思うけどね。スキャンダルとかそういう事言われるような有名人になった訳でもないし」

「でも一応は舞台の主役張るんだろ?それなりに有名人になるんじゃないの?」

「そんな有名人の出演する舞台に出る洋介も有名人になる?」

「なる訳ないだろ……」

「でしょ?そんなものよ。一応、足掛かりにはなると思うけど。実績として残るからね。まずは仕事を続けられるように事務所を説得するところからじゃないかな。じゃないと子供を育てる収入が得られない」

「いやに現実的だな」

「真面目な話って洋介が言ったんでしょ。まぁ、だから事務所の説得をするには谷口の力が必要になると思うわ。顔が効くし」

 凛は少し進まないと言った顔をしてるけども、それが現実的なのかも知れない。

「谷口さんは今日から病院に行ってるみたいだから、明日お見舞いを口実に会って話してみようか」

 

「失礼します」

「やあ、いらっしゃい。あれ、凛も一緒なのかい?珍しい」

「一応、僕の彼女ですから」

「ああ、そうだったね。で?凛も来たってことは何か大事な話かな?」

「はい」

 僕は覚悟を決めて話し始めた。

「そうかい。そんな事になってるのか。これは困ったね。なんにしても今回の舞台の後、かな。葉は健吾を降板させたがってたけども、それは実績を残すという事が出来なくなるから事務所との交渉が難しくなる」

「知ってたんですか?葉さんがそうしたがってるのって」

「仮にも元妻だからね。態度で分かるよ。で、これは僕の逆提案なんだが、諸星君の事務所は健吾の事務所よりも彼氏彼女について厳しくてね。諸星君に誰か……」

 三木谷ちゃんが頭に浮かんだのが悔しい。が、それが最適解のような気もする。三木谷ちゃんも諸星君の事が嫌いじゃないみたいだし。

 病室を後にして凛にさっき谷口さんが言っていたプランについて意見を求めた。

「どう思う?」

「うーん。三木谷ちゃんってそんなに諸星君の事が好きなの?話た事もないんでしょう?」

「さあ。でも最近、バイト先の珈琲店に来てくれるってはしゃいでたけども。まさか芽があるとかないかな。そうなってくれると丸く収まるのかなぁ」

「紹介してみたら?諸星君に三木谷ちゃんを」

「そんなこと言っても諸星君のこと、僕は知らないし。って、もしかして凛は知ってるの?」

「一応ね。というより洋介も知ってる人経由よ?溝口さん。バイトで溝口さんの舞台見たんでしょ?」

「あー、そういう。なるほど。じゃあ早速連絡してもらっても良いかな」

 翌日に凛は溝口さんに連絡して諸星君とのアポイントをゲットしたようだ。あまりに事が上手く運ぶので何かあるんじゃないかと思ってたら。

「あの。諸星さん、初めまして新田洋介と申します。こっちは……」

「知ってますよ。本田涼子さんですよね」

「あ、それは芸名です。本名は樋口凛と申します」

「樋口……もしかして……」

「はい。多分想像している通りだと思います。それで今日は折行ってご相談がございまして」

 凛が敬語を使ってるなんて。明日の天気はどうなるんだ?

「相談、ですか?」

「はい。ここからは僕が。実は諸星さんの大ファンがいまして、その子と会って頂きたいんですよ。それで……」

「あわよくば付き合って欲しい、ですか?」

「あ、や……」

「それは僕に事務所を退所して欲しいと言う事ですか?」

 僕と凛は顔を見合わせてしまった。その通りなんだけども。

「正直に言ってそうです。代わりに私が以前所属していた事務所に話を通します」

「そちらも厳しいのでは?」

「そんな事ないですよ。大丈夫です。何組か居ますし。どうですか?ギャラ次第では動いていただけませんか?」

 三木谷ちゃんを挟まなくても事務所を移動してもらえば、健吾君と同じ事務所になるから主役交代させるメリットが何もなくなる。それで一応の目的は果たせるけども。

「洋介先輩!本当にご紹介して頂けるんですね!私、三木谷結菜と申します!諸星さんの大ファンなんです!」

 三木谷ちゃんが我慢できないと言った感じで後ろの席から出て来てしまった。タイミング的に今じゃないでしょ……。と思ったけど、事務所の移動で話がまとまったら自分が出る幕が無くなると思ったのかな。まぁ、なるようになれ、かな。僕達にとってのデメリットはない。

「ありがとう。新田さん、この方が?」

「そうです。僕の後輩なんですけども、この前の舞台を見て一目惚れしたようでして……」

「そうですか。ありがとうございます。僕もこの珈琲店に来るようになって三木谷さんのことを見てましたよ」

 え?マジで?見てたって物理的に見てたのか気持ち的に見てたのか。

「え!本当ですか⁉︎嬉しいです!もしよろしければお友達から始めさせて頂けませんか?」

 三木谷ちゃん積極的。僕はそれを聞いた諸星君の反応を待った。諸星君は僕と凛を一瞥した後に軽く息を吐いてから軽く咳払いをしてからこう言った。

「良いですけども交換条件があります」

「交換条件ですか?」

「はい。溝口さんを今回の舞台に出演出来るように葉さんを説得してくれませんか」

「それは一体……」

「葉さん、溝口さんの演技は評価してるようなんですが、頑なに自分の舞台には出演させなくて。今回の舞台にはとある大御所が見に来るので」

 なるほど。そう言うことか。しかし、諸星君はなんで溝口さんのことを?もしかして……。

「分かりました。母さんには私から話しておきます。代役だと棘が残りますので、新規の役で出演を交渉してみます」

「あのー……。なんか私、居ない方が良かった系の話です?」

「三木谷ちゃんはいいよ。でも良かったじゃない。お友達からなら良いって言ってるんだから」

「そうですよね!諸星さん、よろしくお願いします!これ、私の連絡先です!」

 そう言って手紙を手渡すと、紙ナプキンに自分の連絡先を書いて三木谷ちゃんに返してくれた。

「それじゃ、私このあとバイトに入るので!ごゆっくりしていってくださいね!」

 と言ってカウンターの奥に行ってしまった。それを見て諸星君も「よろしく頼みますよ」と言い残して店を出て行った。

 

「凛、どうするんだ?あんな約束しちゃって」

「大丈夫よ。母さん諸星君のこと欲しがってたから。事務所異動してくれるなら、溝口さんの役立てもしてくれると思う。同時に主役交代の話も流れてくれると思う。明日にでも母さんに話してみる」

 と昨日言っていたのだが。凛からの連絡が来ない。夕方の舞台練習時間になっても連絡が来ないので、稽古場で話を聞こうと現場に向かったのだが、そこではちょっとした揉め事が起きていた。

「どうして私の話を聞いてくれないの⁉︎」

「どうもこうもないわよ。健吾をこの世界に置いておくことは出来ない。そりゃ、諸星君は欲しいけども」

「じゃあ……」

 とまぁ、そんな話の堂々巡りをしているようだった。交渉決裂してるのかな、と思って仕方なく僕も話に混ざった。

「諸星さん、僕の後輩と恋仲になりかけてるんですよ。それで新たな事務所を探し始めてまして。谷口さんにはこの舞台までは出演して頂く、というのはどうでしょうか」

 そう。まずはこの舞台を乗り切ってからじゃないと話が始まらない。若干話を誇張したけども仕方がないかな。

「この舞台まで、ですか。その後は絶対に出ない、という事で構いませんか?」

 子供を育てるには継続的に仕事が必要だ。それでは困るけれど、今、無職になるよりはマシだ。僕は凛の方を見て軽く頷いた。

「構わないわ。だから今回のことはお願いします」

 凛が葉さんに頭を下げた。

「わかったわ。この舞台まで健吾を主役にして、その溝口さんに役を割り当てれば良いのね?」

「そうです」

「それじゃ、この話は交渉成立ということで。溝口さんは明日から来られる?」

「多分、大丈夫だと思うから、母さんは役の割り振りを考えて監督に話を通してもらってもいい?」

 と、一通りのことを楽屋で話して葉さんは出て行った。

「あれで良かったのか?」

「一応のことは交渉できたんだから良いんじゃないの?健吾を今後の舞台には出さないって約束したのは厳しい条件だけども」

 それなんだよなぁ。とりあえずの即無職は避けられたけども、継続して仕事をするなら葉さんを説得する必要がある。

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