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【第十四話】

「ほんと、なんだかなぁ、ですよね。酷いと思いませんか?洋介先輩」

「いやホントそう思う。でも、あんなフラフラする男と付き合わなくてよかったんじゃないの?成功率で相手を選ぶとかないでしょ」

 僕と三木谷ちゃんは神谷君を話の肴に盛り上がっていたら凛もそれで参加してきた。

「でもあれじゃない?あんなのでもなかったら三木谷ちゃん、洋介のこと忘れられなかったんじゃないの?」

 凛はいちいち確信を突いてくるな。僕の胸で泣いた三木谷ちゃんのことをよく見ていたということか。それを見て昔のことも察したということなのだろうか。女の子って怖すぎでしょ。そんなの分かるなんて、エスパーかよ。

「私は大丈夫ですよ。樋口さんがいなくても洋介先輩と付き合うことは無かったと思います」

「あれ。そうなの?」

「ほら、それです。私がいつまでも洋介先輩のこと想ってるワケないじゃないですか。思い上がりっていうんですよ?そういうの」

「あれ。洋介が振られた。よしよし、あとで慰めてあげるねー。と、それはそれとして、あの二人、今後どうなると思う?」

「僕は厳しいような気がするなぁ……」

「なんで?買い物に行った時にそんな感じがしたの?」

「そう。あ、でも作ってる壁を越えられたら変わるかも」

「壁?」

「そそ。心を囲ってる大きな壁」

 人間にはそれぞれ心に壁を持っている。恋人というのはその壁を越え合って初めて存在するものだと思ってる。なので、よくよく考えたら僕の心の壁を凛が越えたのかと言われると確かにな、という感想だ。心のどこかで三木谷ちゃんのことを考えていたし。しかし、凛の心の壁ってなんだろうな。今までの付き合いだと、そこそこ乗り越えてる気がしたんだけども。

「洋介は私の心の壁、越えられてると思う?」

「ん?友達以上、恋人未満ってことは越えられてないんじゃないのか?」

「そう思う?そこそこ心開いてるよー。でも心の壁ってその先にあるものなのかなぁ」

 かなぁ、って。凛自身が分からないのに僕に分かるはずはないだろうに。

「ちょっと聞いても良いですか?洋介先輩は樋口先輩のこと、好きなんですか?」

「ん?それは……好き、だけども」

「それって初めての彼女だから好きがなんなのか分からないだけとかそういうのはないですか?」

 う。それを言われると。凛との付き合いは僕から能動的に動いた結果ではないのは確かだ。だからなんで好きなのか、と言われるとうまく説明出来ないな。

「洋介先輩は万が一にでも私がまだ好きって言ったらどうします?」

「お。三木谷ちゃん、私から洋介を奪う気だな?受けて立とう」

「いや、万が一ですよ。樋口先輩もフラフラするような男は困りますでしょ」

 凛はライバルがいる方が燃える輩な気がする。それで三木谷ちゃんを焚き付けているような気すらする。

「ってか、凛はどうなのさ。僕のことが好きなの?」

「私?私は洋介のことは好きだよ。愛してる」

 軽い。軽いなー。その愛してる。愛してるってもっと重たいもののように思ってたんだけども。

「ふふ。なんだかやっぱりお二人はなんだかんだ言ってお似合いだと思いますよ」

 そうか。他人から見たらそうなのか。ちょっとは自信を持っても良いのかな?なんにしてもこれからの三木谷ちゃんについて考えないと。お節介だけども。

「三木谷ちゃんは誰か付き合ってみたい人とかいるの?」

「え?私ですか?それを今聞くんですか?そうですね……。この前見に行ったお芝居に出てた男の人がカッコいいななって思いました」

 お芝居か。凛も養成所に通って女優を目指してるんだよな。

「そのお芝居ってもしかして『未来から来た君を愛した僕は』だったりする?」

「わ!なんで分かったんですか⁉︎」

「そのお芝居、私も出る予定だったのよねー。この辺でお芝居ってそのくらいしかやってないし」

「例の谷口っていう演出家のやつですか?」

「お。よく覚えてるねクソ谷口のことなんて」

 そういえばそんなことあったな。最近のことなのに色々ありすぎて遠いことのように思えるけど、つい最近のことなんだよな。凛の心の壁はその辺が関係しているような気がするな。

 と、話しているときに僕にバイトの依頼電話が掛かってきた。

「どんな依頼だった?」

「お芝居を一緒に見に行って欲しいって依頼」

「女性?」

「あ、うん。そう。断った方がいい?」

「別にいいよ」

「先輩たち、なんかバイトしてるんですか?」

「そ。何もしない人のバイト」

「なんですかそれ」

 僕は簡単にバイト内容を説明したら三木谷ちゃんも興味を示した。しかし、僕達で募集人員は一杯って言ってたしな

 

「あの。樋口さん、であってますか?」

「あ、はい。溝口さんですよね。依頼頂いた」

「そうです」

「今日はお芝居を一緒に見に行って欲しいという依頼と伺ってますがよろしいですか?」

「はい。ですが依頼内容が少し違ってまして。私の出演するお芝居を見てもらいたい、と言うのが依頼事項になります」

 一緒に見るとは。確かに舞台上からと観客席からと両方から見ることにはなるけれども。しかし、この人、どこかで見たような気がするんだよな……。

 僕達は目的の劇場までやって来た。依頼人の溝口さんは舞台準備があるからと先に入っていって、開場の時間まで僕は三木谷ちゃんの働く珈琲店に向かった。

「洋介」

「なんだ凛も来てたのか」

「今日ってバイトじゃ無かったの?」

「それがさ……」

 事情を話すと凛が激しく反応をした。

「それってもしかして依頼人は溝口さん、って言う人だったりする?」

「わ。なんで分かったの。あ!」

 そうだ。どこかで見たことがある人だと思ったけど、バイトの面接時に見せてもらった女性だ。確か凛の通う養成所の先輩だったような。

「そのお芝居、私も見にいってもいい?」

「別に一般参加客になるだけだし構わないんじゃない?僕とイチャイチャしなければ」

「なに?して欲しいの?」

「はいはい。お熱いのは分かったんで、ご注文承ってもよろしいですか」

 三木谷ちゃんが呆れ顔でやってきた。注文を取り終わってカフェオレを持ってきた時に三木谷ちゃんも一緒に見に行きたいと言い始めた。幸いにしてバイト上がりの時間でも間に合うので、凛と一緒に見に行くことになったのだけれど……。なんかこれはバイトの趣旨と反するのでは。なんかこのバイトは秘密主義の様な雰囲気があるからだ。まぁ、こうなってしまったのは仕方がない。僕が話したって分からなければバレないだろうし。

 

 僕はチケットと引き換えに舞台のリーフレットを貰って席についた。そこで目に入ったのは例の谷口という演出家の名前。この舞台にも関わっているのか。凛が酷い目に遭ってるのを知ってるだけに、この舞台へ偏見を持った見方をしてしまう。

 舞台が始まってすぐに溝口さんは出てきた。リーフレットにも大きめの役柄で書いてあったから主要登場人物のようだ。

 そして舞台終了後に劇場の出口で待っていたら溝口さんが劇場から出て来た。まだ役柄の格好をしたまま。

「どうでした?」

「格好良かったよ」

「本当ですか⁉︎不安だったんです。格好いい女性というのを演じる役柄だったので。お客さんにそう見られてて安心しました」

「依頼内容はこれでお終いでいいの?」

「そうですね。感想も聞けたので。今日はありがとうございました」

 そう言って溝口さんは劇場内に戻っていった。

「これでおしまい?」

「そうみたい。なんかあっけない感じ。これでバイト代貰ってもいいのかね」

「いーなー。私もやってみたいですー」

「洋介はこのお芝居、見ててどうだった?」

「そうだな。悔しいけども演出が良かったな」

「あら、意外と正直」

「正直に答えて欲しそうだったからな。でも例の演出家ってマジで出演者にまとわりつく感じなのか?」

「そーねー。鬱陶しいったらありゃしない。溝口先輩もなにか言われてると思うのに」

 凛は腕組みをして腑に落ちないと言った顔をしている。その溝口先輩ってのも、相応お誘いは断るタチなんだろうか。よく分からないけども凛の反応を見てるとそのように思える。

「それで?三木谷ちゃんはお好みの男優はいましたか?」

「そうですね……。この前の舞台で見た主人公の方が好みでしたね」

「あー、諸星くんのことかぁ。確かに格好イイよねぇ。私も惚れそうだったもの」

「それ、本名なんです?違う名前が書いてあったから。芸名ですか」

「そそ。本名は諸星隆っていうんだ。彼も谷口とは気が合わないって言ってたけどもその辺は大人なのかしらねぇ。主役やってたくらいだからいなしてたのかも」

 しかし、その谷口って演出家はどれだけ嫌われてるんだ。女性だけじゃなくて男性にも嫌われるってよっぽどだぞ。と、この日までは思っていたんだが……。

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