【第十三話】
「土曜日かー。凛はどっちだと思う?」
僕達は金曜の夜ご飯を食べながら明日の事を話題にしていた。何気に僕も気になるのは気になる。凛ほどではないけども。
「んー。一発逆転、若葉ちゃん」
「え?まじ?なんで??」
「だっていつもの学校で見る小野寺姉妹は良い感じなんでしょ?三木谷ちゃんは好みなのかもしれないけど、今まで話したこともないわけじゃない?」
そういう考察もあるのか。しかし、そうなるとおとなしい感じの方が好みってことで双葉ちゃんが出てくる可能性がないか?
「何考えてるの?」
「あ、いや。大人しい感じが好きなら双葉ちゃんも絡んでくるのかなぁって」
「なによ。洋介もトレンディードラマ好きみたいね」
「そう言うわけじゃないけど。若葉ちゃん、多分双葉ちゃんと一緒に来るんでしょ?もしもの話だよ」
「でも双葉ちゃんは洋介が好きだったんでしょ?」
「そうみたいだけど」
傷心の女の子は落としやすい。そんなことを神谷君が考える可能性は低いと思うけどね。
そして運命の土曜日の朝。
「さて。出掛けるとしますか!」
「え。見にいくの?」
「え?行かないの?こんなに楽しそうなのに」
あ、本音が出たな。他人の恋愛は楽しい。それは分かるけども。こうも正直に言われるとねぇ。
「あんまり趣味悪いことするなよ?で、行くならどっちに行くの」
「うーん。それよねぇ。ね、神谷君ってどこに住んでるか知ってる?」
「お前、後をつける気じゃないだろうな」
「そ、そんなことないわよ?」
目が泳いでいる。クロールしてるまである。分かり易い。
「知らないし、知ってても今の凛には教えられないな。個人的にはこのまま家に居て、三木谷ちゃんからの連絡を待つ方が良いと思うけど。一応、連絡してくれるらしいから」
「えー。つまんないー」
こう言う時、凛はなかなか言うことを聞かない、ということが最近になって分かった。わがままってやつなのかな。思い通りに行かないと気が済まないみたいな。だからこそ、現場に行かせると自分の推す方を神谷君に押し付けるような気がしてならない。それは流石にマズイだろうし、フェアじゃない。
ピンポーン
「ん?誰だ?凛、誰か来るとか約束とかある?荷物とか」
無言で顔を横に振られた。誰だろう。
「はい。どちら様でしょうか」
「あの、神谷です。ちょっとご相談がありまして」
「はいはいはーい。ちょっと待ってて。すぐに開けるから!」
凛が待ってましたとばかりにとっとっとと弾んだ足音を立てながら玄関に向かった。
「よく来てくれましたー。で?相談ってなんなの?あ、こんなとこじゃなんだし上がって?」
話がどんどん進んでゆく。しかし、僕の家なんてどうやって知ったんだろうか。
「いきなりすみません。ここは昨日お二人が入っていくのを偶然見まして……」
偶然、ねぇ。まぁなんとなく想像はつくけども。それはそれとして、相談ってやっぱり今日のことだよなぁ。
「ね、ね。相談ってやっぱり今日の事よね?どっちに行くのか決めたの?どっちどっち?」
凛がテーブルの向かいから身を乗り出して神谷君に聞いている。僕はその勢いに若干引いている神谷君を見てフォローを入れた。
「差し当たりどっちか決めたけども、それで良いのか、で迷ってるって感じかな?」
「……はい。今日は三木谷さんの方に行こうかと思ってるんですけど、振られるのが怖くて。小野寺さんの方は確実じゃないですか。三木谷ちゃんに振られた後に小野寺さんにまだ好きって言われたら僕はどうすれば良いと思いますか?」
これは……。分かるけども、あまり分かりたくないな。まるで小野寺さんが予備みたいだ。それは小野寺さんがあまりにも可哀想だ。
「神谷君は仮にそうなったとして小野寺さんにそう言われてらどうするの?」
「正直迷ってます。悪いのは分かってるんですけども、自分を好いてくれてる人が居て、三木谷さんに振られた後も好きって言ってくれるならグラッと来てしまうような気がしてまして」
「それは最初に判断しておいた方が良いと思うよ。片方がダメならもう片方、と言うのはあまりに都合が良すぎると思う」
「ですよね……。分かりました。もう少し考えます。変なことを伺いまして申し訳ございませんでした。それでは……」
「ねぇ、ってことは三木谷ちゃんのところに行かない可能性もあるってこと?小野寺さんにも分があるってこと?」
「それは……それも含めて考えさせてください」
考えるったってもう十一時だし。待ち合わせは十三時だし。二時間で考えるのか。
凛が神谷君の相談に乗るとか言い始めたので、神谷君には早々に引き取って貰った。しかし、神谷君も神谷君だ。ここに来てどっちにするか決めかねてるとか。そりゃ成功率の高い方が気になるのは分かるけども。
「ね。どっちが〜、とかじゃなくて単純にお茶飲みに行かない?」
「三木谷ちゃんのところはダメだからね」
「分かってるから」
「それなら良いけど。どこに行くの」
「へへ……」
と怪しい笑みを浮かべた凛に連れてこられたのは駅ビルにあるコーヒーショップ。窓際でパソコン開いてる人は何をしてるんだ。今日は土曜日だぞ。仕事してるのか、ただドヤってたいのか。そんな僕を他所に凛は二人分のカフェオレを注文して窓際の席に行こう、と顔で指示を出してきた。何も気を止めることもなくそこに行くと……。
「あ!」
「へへへ……」
窓からは駅前がよく見える。待ち合わせの場所が。
「くっそ図ったな?」
「そのくらい見破ると思ったのに素直についてきた洋介の負けだ。はっはっは」
なにを偉そうに。しかし。こうなったのは仕方がないのだ。そう考えて僕も席に座った。
「なぁ、凛はどっちに来ると思う?」
「私?私は昨日も言ったけども若葉ちゃん。今朝の感じからしても振られるのは怖いのかなって」
振られるのが怖い、か。僕にはそんな経験が幸にして無いから分からんが、確かにショックなのはわかるような気がする。
「あ。三木谷ちゃん、来たわよ。まだ十五分もあるのに。して?神谷君の姿は?」
凛がキョロキョロと駅前を探すけども、その姿は認められない。これはマジで若葉ちゃんの方に行ったのか?
あと五分。まだ神谷君の姿は見えない。そんなギリギリまで考えてるのかな。もしくはもう若葉ちゃんの方に行ってるとか?
そして約束の十三時。結局、神谷君は三木谷ちゃんのところに現れなかった。
「よし!フォローフォロー!行くよ!」
凛が勢いよく立ち上がって僕の手を引いた。そして駅前に立つ三木谷ちゃんの元へ。
「三木谷ちゃん。どうだった?」
どうだったも何も。見てたし、今も居ないんだから神谷君は来てないに決まってる。
「振られちゃった?っていうのかな。こういうの」
「んー。三木谷ちゃんの立場だとなんて言うのかな。確かに分からないわね。振り回されたっていうの?まぁ、なんにしてもこれで良かったんでしょ?神谷君のこと知らないしいきなり言われても困ってたでしょ」
僕はそう思って素直に意見を述べたら三木谷ちゃんの瞳には涙が浮かんでいた。
「あれ?私なんで……」
「あ……
僕の脳裏にあの日の三木谷ちゃんが脳裏を過ぎる。雨の中傘も差さずに泣いていた三木谷ちゃん。あの日は大好きだった先輩に振られた日だった。僕は知っている。だってその先輩は僕のことだから。知っていてあんなことをしたんだ。僕はズルい。でも今日だって僕は……胸に飛び込んできた三木谷ちゃんのことを突き放す事が出来なかった。それを凛は何かを感じ取ったのか腕組みをして静かに僕の胸で泣く三木谷ちゃんを静かに見ていた。
「よし!じゃあ、その酷いことをした神谷の野郎を見に行こう!」
凛が急にそう言って僕の胸で泣いていた三木谷ちゃんの手を引いた。まだそんな気分でもないだろうに。しかし、三木谷ちゃんは涙を手で拭って素直にその手に従って歩き始めた。チラリと振り向いたその顔は、あの日の三木谷ちゃんの顔と同じだった。
「たのもぅー。あ、待ち合わせです」
珈琲店の店員さんにその挨拶はないでしょうに。なんにしても神谷君を探さないと。僕も凛も店内を見回すと、小野寺姉妹の髪の毛を見つけた。
「あ、凛、あそこ」
「え。あ、本当だ。居た。で?神谷君は?」
ここからではよく見えない。もうちょっと近づかないと……って。そう言う野次馬根性の凛を止めたのは自分じゃないか。と、凛を静止したが、その横を三木谷ちゃんが進んでいった。
「小野寺さん」
「あ、三木谷さん」
髪留めも何もしてないからどっちが若葉ちゃんで、どっちが双葉ちゃんなのか分からない。でもその前には神谷君は座っていた。
「へー。やっぱり小野寺さん、にしたんだ」
凛は敢えて「小野寺さん」と言ったような気がする。
「あ、いや。そう、ですね。三木谷さん、本当にご迷惑をおかけ致しました」
「神谷君、どっちが若葉ちゃんなのか分かってるの?」
「それが……」
これは分かってないな。と言うよりも小野寺さんの方が分からないようにしているように感じる。なんでそんなことをしているのかは、なんとなくは分かるけども。これは一種の試験なのだろう。区別もつかない位で好きとか言ってもらいたくないという若葉ちゃんのプライド。でもこれ、仮に双葉ちゃんを選んじゃったらどうなるんだろう。ハズレだから付き合わないとか?
「もう!ハッキリしなさいよ。若葉ちゃんのところに来たんでしょ?そのくらい見分けが付かないで今後どうするつもりなの」
凛が言う通りである。でもまぁ、喋りでもしないと僕もよく分からないから、ここはヒントって事で会話に加わろうと思う。と言うよりも僕もなんだかんだ言って気になる。野次馬根性。
「小野寺さんはここでしっかりと当ててくれたら神谷君と付き合うの?ってか、絶対に渡さないって宣言してて自分の所に来てくれたのになんでこんなことしてるの?」
この答えは若葉ちゃんしか持っていない。だから話すのは若葉ちゃん、だと思うけど。
「なんか違うって思ったんですよ。本当はこっちに来てくれたので、それでって思ったんですけど、三木谷さんの事が好きって言ってた人がこっちに来たんですよ?なんか勘繰って申し訳ないのですけど、成功率の高い方に来たというかなんというか……」
あ、僕と同じことを考えてるな。やっぱり。そんなので付き合うのはやっぱり間違ってるよな。ってか、この返答があったってことはこっちが若葉ちゃんなのだろうか。いや、双葉ちゃんがそう思っててもおかしくない。なんにしてもヒントにはなっただろう。僕は神谷君の方を見た。凛も同じく目線を向けた。三木谷ちゃんは腕組みをして、ため息をついていた。
「さ。選んでください。若葉はどっちか」
神谷君はまだ分からないと言った顔だが、選ばざるを得ない状況になってきて焦りが見える。僕はそこまでして手に入れるものなのかって思うけどもね。
「僕は……すみません。選べません」
「は?」
思わず声が出てしまった。選べない。小野寺さんも選ばない。分からないから選ばないと言うよりも、今回の話は無かったことに、の方だろう。流石にそれは無責任すぎやしないか。
「そうですか。若葉、これでいいの?」
あ、そっちが若葉ちゃんだったんだ。さっきまで話してたのは双葉ちゃんだったのね。ささやかな引っ掛けってワケだったのね。でも若葉ちゃんはそれで良いのかな。
「えー。ここは神谷君が三木谷ちゃんも若葉ちゃんも選ばなかったと言うことで振り出しに戻りました。それで、神谷君と付き合いたいと思う人は挙手願います」
凛がそんなことを言い始めた。確かに振り出しに戻ったけども。ここで若葉ちゃんは挙手するのか?顔を見てみたら複雑な顔をしている。当たり前というかなんというか。
「私は挙手出来ません。ごめんなさい」
若葉ちゃんが断りを入れた。あとは三木谷ちゃんだけども……。逆の立場で考えたらここで挙手したら元々好きだって言われてたんだから成功率は限りなく高い。けど、プライド的にはどうなのかって思うけども。
「三木谷ちゃん、どうする?」
「どうするもこうするも。私も挙手出来ません」
あー。やっぱりそうなるのか。神谷君は何も手に入れる事ができずに終わるのか。と思った時だった。
「あの……」
双葉ちゃんがおずおずと手を挙げた。マジで。なんで。双葉ちゃん、ぼくのことが好きなんじゃ無かったの。なんかショックだわ。なんて、そんな事よりも、本当かな。一応確認してみようか。僕がそう思って確認するよりも前に凛が身を乗り出して双葉ちゃんに迫っていた。
「して!その心は⁉︎」
「えっと……。私、彼氏とかいた事ないので少し興味がありまして……」
興味。好きとかじゃないのか?
「好きとかそう言うのは少し置いておきまして、男性の方とお付き合いしてみたいなと」
これはなかなかのパンチ力。あなたの事は好きじゃないけども試しに彼氏彼女ごっこがしたい。そう言うこと?
「と、申しておりますが神谷選手!」
凛はもうご機嫌である。確かに波乱めいた展開で凛の好みな気はするけども、正直、僕は気に入らない。自分の事が好きと言っていたからとか、そう言うのではなく双葉ちゃんの考え方が気に入らない。
「双葉ちゃん。そう言うのって……」
と僕が話し始めたのに若葉ちゃんが被せてきた。
「お友達から始めましょう。ってことよね?双葉」
「え?あー、そうとも言います。だから神谷君、すぐに別れる可能性もあるけど、それでも良ければ……」
肝が据わってるのは若葉ちゃんかと思っていたけど、普段は大人しい双葉ちゃんの方が肝が据わってるなこれは。などと思っていたら神谷君にどうしたら良いのか、みたいな視線を送られた。知らんがな。
「神谷君の考える通りで良いんじゃないかな」
でも一応は答えてあげた。正直、僕はどちらでも構わなくなっている。興が覚めたともいう。
「洋介、つーめーたーいー。もっと男性陣としてちゃんと考えてあげなよ」
そう言われましてもですね。うーん。もう帰ってもいいっすか。
「洋介は神谷君の立場だったらどうしてた?」
「僕?それは今の状況?もっと前の状況?」
「前の状況」
「そんなの成功率がどうのこうの関係なく三木谷ちゃんのところに行ってたんじゃないかな。それで失敗して若葉ちゃんに何か言われたら、それこそお友達からなら、って感じかな」
個人的には百点満点の回答、をしたつもりだったんだけど、凛はちょっと違うようだった。
「私だったら、最初から双葉ちゃんを選んでたかな」
「なんで?」
「なんでって。いきなり好きです付き合ってくださいって言われても、それに快諾する女の子ってあまりいないと思うのよね」
「その人のことが好きでも?」
「私はねー。恋は盲目って言うけども、私はじっくりお互いを知りながら付き合いたいかなぁ」
何言ってるんだ。凛は僕のことをどれだけ知ってて……。ってことは?
「凛、ちょっと聞きたいんだけど、僕と凛とはどう言う関係?」
「うーん。今の状況だと友達以上、恋人未満って感じ?まだまだよく分からないし」
偶然再会したら付き合おう、じゃなかったのかよ。あれは友達として付き合おうってことだったのかよ。自分が気が付いてなかっただけで。
「だそうだ。神谷君。参考になったかな?」
「はい。そうですね。もっとお互いのことをよく知ってからですよね。双葉さん、よろしくお願い致します」
「よろしく!」
ん?んん??
「あ!」
カバンに例の髪留めが挟んであったのを見つけて僕は声をあげてしまった。
「こっちが若葉ちゃんか!図ったな⁉︎」
なんでこんなややこしいことをするのか。結局、なんだかんだ言って若葉ちゃんは神谷君のことを手に入れたワケだ。これは神谷君、さきが思いやられるぞ。早急に小野寺姉妹の見分け方を見つけた方が良いと思うぞ。
と、こうして話は決着を迎えたワケだけど、一番の被害者は三木谷ちゃんだよな。好きって言われたり振られたり。駅まで行ったと言う事はそういう事だったのだろうし。僕は三木谷ちゃんを家に招いてちょっと話を聞くことにした。




