女神の祝福を受けた女の子は…………
2/20ローファンタジーの意味を勘違いしてました。
申し訳ないのですが、ハイファンタジーに変更します。
誤字報告ありがとうございます。
大変助かります(*^^*)
「わあ、ありがとう。アンリお姉ちゃん、すごい! 魔法使いみたいに素敵なお洋服ね」
「そんな、こちらこそ。美味しいサンドイッチありがとう」
私は旅をしている。
お金はそれほどない。
少し違うことと言えば、15歳の時に女神様から頂いた祝福があることだろうか。
昨日まで子爵家の邸に住んでいた。
それは母メリーの生家である場所だった。
私の母メリーは没落した子爵令嬢。
自立する為に、以前伯爵家に働きに来ていた。
侍女ができる程の教育は受けておらず、ランドリーメイドとして。
それでも母は文句なんて言わず、懸命に働いて家に仕送りもしていた。まだ成人前の弟妹もいたから。
ーーーーーーーーーー
《ここから暫く回想の為、母メリーがメリー表記になってます》
メリーは美しくて優しい人だった。
サラサラの亜麻色の髪と新緑の瞳を持った、職場の平民の使用人達にも隔てなく接した気取りのない女性。
家が没落していなければ、きっとたくさん求婚されただろうと彼女をよく知る人達は思った。
なんてことは、本人は微塵も考えてはいないのだが。
だって没落してから、何十年も経っている生家。
メリーが生まれた時から、節約節約の日々。
領地なんて切り売りしてもうないし、執事や侍女なんて勿論いない。初老に差し掛かる先代からのメイドサントマイムと庭師ベロアの夫婦が残るだけ。
その二人にだって給金らしい物は払っていない。
住む場所を提供しているのみ。
でも夫婦はそれで良いと言う。
「住み慣れた場所で暮らせるだけで幸せ」と。
庭には花の変わりに野菜が、更に木々は果物がなる物以外は売却済み。
庭にできた作物や野草をサントマイムが調理し、時にはベロアとメリーの弟オスカーが釣りで得た魚を食す日々。
父は城の文官である程度の収入はあるも、今後の為にと貯蓄していた。メリーや弟妹の為にと思いながら。
そもそも没落の原因は、先代の投資の失敗で借金を背負ったからだ。売れるものは爵位以外すべて売り払い、辛うじて邸と庭、そして裏にある山が残っただけ。
メリーの兄ガイアスは嫡男なのに、貧乏が嫌で同じ子爵家に婿養子に行ってしまう。期待してはいないかったが、子爵家への援助等は一切なかった。
後継と思って教育に多少はお金をかけたが、無駄になってしまったと嘆く母。
「こんなことになるなら、(残る)子供達に美味しいものでも食べさせてやりたかった」
慰める父は母に、
「まあまあ、ガイアスだって大事な息子だ。弟妹達に何かあれば助けになってくれるだろう」と、思ってもいないことを言っていた。
そんな感じで、日々懸命に生きていく家族達。
幸いメリーの弟妹は善良で脳筋だった。
妹のアメリは狩猟技術に優れ、父と共に裏山へ狩りに行く度に経験を積み、罠や弓の名手となっていた。
その頃になると、食卓に自給自足の肉が日々並ぶ。
喜びに沸く家族達。
その噂を聞き付け、辺境伯家の次男から求婚が舞い込んだ。
次男だから家から下賜される爵位は男爵しかないが、それでも良いなら一緒に猛獣の討伐をしないかと色気のない誘い。
アメリは応じた。
貧しくとも生家は好きだが、それよりも命懸けのスリルで高揚する狩りが大好きだったから。
そして今後、持参金等なくてもアメリが良いと言う伴侶に出会える気がしなかったのもある。
女性には淑女としてのふるまいが求められ、狩り等以ての外が常識だったから。
そしてあっさり嫁いでしまった。
そんな感じで、残る子供はメリーと、弟のオスカーだけとなった。
ある日、伯爵家に住み込みで働いていたメリーが、仕事を辞めたと言って戻って来た。
理由を聞けば、父親は怒りで顔を赤くし、母は泣いていた。
伯爵家の当主バラックに、閨に引き込まれ純潔を失ったとことを聞いたからだ。
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だが、当のメリーはそれほど悲壮感はなかった。
職場のメイドに聞けばそんなことは時々あり、金貨を何枚か渡されて内緒にするように言われていたそうだ。
メリーは思った。
(成る程。親のいない外で働くのは、このような危険なことにも対処すべきだったのかと)
閨教育も十分に受けていなかったメリーは、雇い主に「手を貸してくれ」言われたまま部屋に行き襲われてしまう。抵抗したが、あっという間の出来事だった。
さすがに驚愕し同僚にそれを話すと、泣いて慰められ、そして騒ぎ立てないようと囁いた。
「奥様にばれれば、こちらの方が誘ったと罰せられるわ。生家にも迷惑がかかる」と号泣する。
彼女も何度か被害にあっていたが、生家の為に我慢していたそうだ。罰せられたのは前にいたメイドで、否定する当主を見た奥様が紹介状も持たせずに追い出したと言う。
他の貴族家で働く為にも、信用の証として紹介状を持たされる。
即ちそれがないと貴族家で働けないのだ。
既にここにはいない、彼女のことが心配になった。
このメイドも他のメイド達も、メリーが貴族令嬢だったことを忘れていたか、知らずにいた。
入れ替わりの激しいこの伯爵家のメイド達には、自己紹介などきちんとされずじまいだったから。
全く気取る素振りもない彼女を、自然と貴族とは思わず自分達と同じ平民と思い接していたのだ。
あろうことか、当主も知らなかった。
奥様はさすがに知っていたので、まさか貴族令嬢に手をだすまで当主が節操なしと思っていなかった。
当主が知らずに致しちゃったことに、気づいてもいなかった。
襲われて以来、メリーは当主の気配を察知すると逃げ、再被害は未然に防いだ。さすが妹が狩りの名手の血筋である。危険感知がもう少し早く作動しなかったことが、何とも悔やまれる。純潔を失ったことは悔やまれたが、非現実的過ぎて実感がないのが本音だった。
そんな生活が続き、何ヵ月かした頃異変が訪れる。
急激な嘔吐と食欲不振、さらに月経が止まっていたのだ。
いくら生理不順と言えど、3か月は長すぎた。
(弟妹が産まれる前の母と同じ症状だ。見つかる前に逃げなきゃ)
強烈な恐怖に苛まれたメリーは、父が事故にあって心配だからと嘘をついて、お暇を頂き伯爵家を後にした。
同僚のメイド達には、父への心配と別れる寂しさで泣かれ、元気でいてねと送り出される。
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医師の診断は妊娠3か月だそう。
家族からの堕胎の勧めを、メリーは拒絶した。
「1人で働いて育てる。絶対産む」と言う彼女に、家族は閉口する。
今はそう思っていても、良い出会いもあるかもしれないのにと思い。
その為、両親は交換条件を付けた。
メリーがこのまま子供を産めば、伯爵家の後継者問題に巻き込まれるかもしれないから、両親の子として届け出て育てていくことを。メリーが嫁に行かないならずっと一緒にいられるし、嫁に行きたいなら行けるようにしたのだ。
渋々だが条件を受けるメリー。
数か月後産まれた、元気なメリー似の可愛い女の子に文句を言っていた父でさえメロメロだった。真実を知る人も知らない人も歓喜に沸いた。
名前は『アンリ』。
グリーンプラチナの髪で、新緑の瞳を持つ美人さん。
奇しくも子爵家にはいない髪色。伯爵家当主の髪色と同じだった。
しかし顔はメリーそっくりで、グリーンの髪色の者は先祖にいたので違和感なく受け入れられた。伯爵家当主もかなりの美丈夫なので、どちらに似ても美人だったろう。
メリーの38歳の母が本当に高齢出産かと、疑われるのを覚悟して提出した書類も異議なく受理された。
貴族家でも時々あり、平民では40歳を越えてもままあると言う。
夫婦仲が良いと、役所で微笑まれるだけだった。
そしてスクスク成長するアンリ。
メリーは姉としていつも傍らで、刺繍や衣装作りを教える。
結局メリーは嫁には行かず、子爵家で衣類の内職仕事をして暮らしていた。
自分の持つ技術と貯金したお金で、アンリの夢が少しでも叶えられるように、忙しくも楽しい日々を送る。
弟オスカーも成人となり、近いうちに子爵家を継ぐことになった。「家は全員顔だけは良いから、顔で釣れた」と自虐しながらも、性格の良いお嫁さんがオスカーの元に来てくれた。
両親は元気だが、家族のようなメイドサントマイムと庭師ベロアは年齢のせいなのか息子夫婦と暮らすと言いだす。
最期まで看取るつもりでいたメリーやオスカーは、寂しそうにしていた。
今までの倹約で少し蓄えもでき、無理せず他のメイドも雇えているし、介護用のメイドも雇えるくらい余裕はあるとサントマイムとベロアを説得するオスカー。
「何言ってるんですか、オスカー様。せっかく持ち直した家を守らないといけませんよ」
そう言うベロアは、嬉しそうに笑っている。
今も十分元気だけど、もしもの時も心配しないようにと提案しただけだよと慌てるオスカーに、立派になってくれたと涙ぐむサントマイム。
サントマイムとベロアは、ひ孫の面倒をみる為に呼ばれたそうだ。
確かサントマイム達の子供は、母と同い年だったはずだ。私が幼い時に子供連れで来て、時々その子と遊んだ記憶がある。
(あのタリアがお母さんかぁ。時の経つのは早いわね)
なんて微笑むメリーは、老成したような心境だった。
サントマイムとベロアを迎えに来た孫のアーロンと、タリア。
ひ孫となる子はタリアの子で、彼女の腕の中で赤ん坊は眠っていた。傍らには兄のアーロンが、差し入れの荷物を抱えている。
彼はまだ恋人さえいないと、ベロアがからかっていた。
聞けばサントマイムの子らの1人は、大商会の社員から年々出世し幹部となり、その後暖簾分けで子会社をいくつか作り経営して上手くいっているそう。以前からサントマイムとベロアに、そろそろ一緒に暮らそうと声をかけていたらしい。
けれど元気なうちは、恩返ししたいと子爵家にいてくれたそうなのだ。
そうこうしているうちに、一度タリアを手伝ってくるとサントマイムとベロアは子爵家を後にした。
「また、すぐに会いに来ます」
少なくない荷物を持った二人を、一家全員で見送った。
完全な別れじゃない。
いつでも会いに行けば会えるし、来てもくれる。
でも肉親のように近くにいた二人がいない邸は、とても寂しくて。その夜だけは、アンリはメリーと一緒のベッドで眠ったのだった。
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先代が名家であった頃、男爵令嬢のサントマイムが侯爵子息の妾にされそうな時に助けてくれた。先代が、既に口頭でベロアと婚約していると断ってくれたのだ。家格に差がありきっと怖かったろうにと、勇気のある行動にベロアは心から感謝を述べた。平民の自分ではできなかったことをして、婚約者を守ってくれたのだ。足を向けて寝られないと、泣きながら先代にずっと言い続ければ、
「何ともないぞ。当主を舐めるでない」と言って、恩に着せることもなく笑ってくれた。
当時子爵家で働いていただけの、使用人達を助けてくれた先代子爵。頼りないこともあったけど善良だった。だからこそベロア達はここに残り、爵位が残る程度で子爵家も存続している。
身ぐるみ剥がされる者もいる中で、だいぶん恩恵は受けている方だったのに。
ただ申し訳なさで弱った先代は、財産の整理をした後気力が落ちたせいか風邪であっけなく亡くなり、仲の良かったその妻も同じ風邪で後を追った。
栄枯盛衰の貴族社会で、失敗も間々有ること。
誰も先代を責めなかったけど、先代は堪えられなかった。
サントマイムとベロアは、生きて欲しかったと泣いた。
先代と親しかった多くの者も、みんな同じ気持ちだった。
だからせめて先代の子らが自立できるまでは、力になろうと思ったのだ。
没落した頃、サントマイムとベロアの子らは既に結婚も就職もして自立していた。じゃあ心配は無用とばかりに、子爵家を全力で支えてきた二人だ。
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同じようにサントマイムの孫アーロンも、子爵家に便宜を図ってきた一人だ。彼は両親の経営する商会の一つを譲り受け、会長になっていた。平民の自分には不釣り合いと、メリーを密かに思っていたが思いは告げなかった。それでも時々、紅茶やジャム等の差し入れを祖父母を通して行っていく。
理由の半分くらいは、メリーに会いたくて。
挨拶くらいはしていたから、忘れられてはいないだろうと思いながら。
メリーがメイド勤めをしていると聞き、祖父母への差し入れの楽しみも減少していたアーロン。その後にメリーが戻ってきたことで喜び勇んで駆けつけた。
「アーロン、いつもありがとうございます」
「こんにちは。これぐらい、なんてことないよ」
いつもの会話だった。
けれどメリーの体の違和感に、すぐ気づいたアーロンは祖父母に問いただす。
そして、メリーに起きた悲劇を聞いたのだった。
「そ、そんなことって……… 何てことだ。殺してやる!」
爪が刺さるほど両手を握りしめ、悪鬼の如く怒りに震えるアーロン。
祖父母はそれを宥めながら、メリーの為にそれは止めろと言う。
「伯爵家に目をつけられないように、子爵夫婦の子として育てていくのだから、お前も協力しろ。腹くくってるメリーに、お前ができることは復讐じゃない。幸せの形は一人一人違うんだからね。………私達で、飛び切り幸せにしてやろうじゃないか」
「出来ればメリーだけじゃなく、産まれて来る子も幸せにしてやろう。子供に罪はないし、間違いなくメリーの子なんだから」
割り切れない思いの中、腹部が目立つ頃には本人には会わず差し入れだけをしていたアーロン。
サントマイムから無事出産の連絡が来て、メリーが落ち着いてから会いにいけば、赤ん坊を抱いて微笑む彼女がいた。
赤ん坊は、幸せそうに指をしゃぶって眠っている。
「可愛い。メリーそっくりだ」
アーロンは笑いながら、涙が溢れていた。
(メリーが無事で良かった。赤ん坊も元気で良かった)
メリーはアーロンが、事情を知っているかどうか知らされていない。
けれど彼からの祝福は、確かに受け取ったのだ。
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貴族の中では、祝福を受け継ぐ家門が僅かながら存在する。
その祝福はその家にとって、必要なものが与えられる。
例えば、騎士家なら剣技、体力、攻撃力、防御力、素早さ等、所謂バフ能力の向上・強化が付加されるのである。
商科なら、鑑定、計算力、洞察力(嘘の有無、為人、性別等)、処理能力、空間認識力等である。
十年かけて学ぶことを祝福として一瞬で与えられ、その後の努力次第で伸び続ける能力。
15歳の誕生日に女神がその者へ降臨し、直接欲しい能力を渡していく。
その為該当する家門は、子供を幼い時から教育し、生きる為に必要なスキルを教えていく。
女神は気紛れなので、何十年単位で現れるらしい。
恩恵を受けている血筋は、最古に女神と契約をした家門のみで、実際にその能力のお陰で繁栄しているのだ。疑いようがない。
メリーがいた伯爵家もその家系らしく、大司教の信託ではどうやら今年だと天啓を受けたのだ。伯爵家の家門を調査すると、15歳になる子は現在3名で、1名がその伯爵家、1名が別の伯爵家、1名が子爵家だ。
だが彼らの誕生日を過ぎても、能力に目覚めることはなかった。
神殿に3人を伴い、これから発現する者がいるか尋ねるも、いないと返される。
そして天啓は、既に能力を譲渡し終了していると言う。
その子は何処に?
問うも、伯爵家の血筋で間違いないと、大司教は繰り返す。
それからは、てんやわんやだった。
力に驕り女遊びやら無体を女達に強いた、2つの伯爵家当主が過去に関係したその女達のことで締め上げられる。
関係した者の名前と、その後の消息、子の有無などを調査するも、15歳の子供に結び付く者が見つからない。
特に平民だと、何処にいるかさえ特定さえできない状態で、生死・住居を1人探すにも一苦労だ。
念の為にと貴族名鑑に載る15歳を探すも、何れも身持ちの固い女性ばかりで伯爵家とは接点もなかった。さすがの伯爵夫人も、15年も前の50名近いメイドのフルネームは忘れていた。名簿も既に残っていない。平民も多いが男爵や子爵の息女も多く雇っていたからだ。それに伯爵が手を出そうとして、逃げていく子も多くいた。
覚えていたのは、精々侍女くらいまでだった。
だからメリーの母、デイジー・ブロンクス前子爵夫人の娘の『アンリ・ブロンクス』が、探している子供だと気づかないのだった。
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アンリは誕生日の夜、夢の中で女神に出会った。
美しい白い繊細なドレープドレスを纏う、金髪碧眼の美女がアンリに話かけてきた。
「お誕生日おめでとう、アンリ。私は女神と呼ばれている存在よ」
銀製の長いステッキを持ち、その上部には拳より大きなピンクダイアモンドが輝いていた。
ほえーと、女神を眺めるアンリ。
(こんなに綺麗な人初めて見たよ。女神様かあ、素敵だなあ)
立て直したと言うも、元没落子爵家にお洒落を楽しむ余裕はまだなかった。
女性が外出する時の化粧だって最低限。
アンリは化粧さえしたこともない。
服だって同じものを、リメイクリメイクの日々だ。
アンリの知る女性できちんと化粧をした人は、オスカーの妻のシフォンだけだ。そのシフォンとも比べられない程輝く女神様だった。
「こんばんは、女神様。わざわざお祝いに来てくれて嬉しいです。どうもありがとう」
深く頭を下げると、女神様の声が降りてきた。
「貴女は貴族なのかしら? (変ねえ、何にも要求してこないわ)」
「? ええと、一応子爵令嬢です」
う~んと、首を傾げる女神様。
どうしたんだろう?
「アンリは、何か欲しい祝福はないの?」
「しゅく、ふく?」
「そう、何か欲しい能力のことよ」
「能力?」
突然言われたけれど、アンリは特に欲しいものはない。
十分満たされているのだ。
でも、もしできることがあるなら。
「みんなを幸せにしてあげたいわ」
「そう。幸せにしたいのね。どうすれば、幸せにできると思う?」
(う~ん、私にできることは、服を作ったり刺繍を刺すことだけだわ)
「そうなのね。じゃあ、その能力を引き上げてあげるわ」
(ええっ、まだ何も言ってないのに。すごいわ、女神様。でもでも、じゃあさっきの考えてることも聞かれたのかしら? 恥ずかしい)
頬を染めて、手をパタパタと扇ぐアンリ。
「ふふふっ、可愛い子ね。気に入ったわ。アンリの作った服には健康促進、運気向上、盗難防止を付加してあげるわ。勿論、裁断、縫合、刺繍速度の上昇と、見ただけで体のサイズが解る能力も付けるわよ。後は大サービスで、その人がどんな服を着たいか知りたい時も、脳に直接転写してあげる」
女神は、杖をアンリに向けて呪文を唱えた。
「をくふくゅし♪のめおおはにこいいわか♪」
その瞬間、アンリの全身が光輝いた。
そして今まででは考えられなかった、刺繍のステッチの種類や服のパターン(型紙)を作ることが閃いた。先の作業が頭に浮かび、どうしたら良いか迷わず手が動きそうだ。
「すごい、すごいです。ありがとうございます、綺麗な女神様。夢だとしても嬉しいです」
満面の笑顔でアンリは感謝を述べて、やっぱり深く頭を下げた。
女神は優しく頭を撫で、囁いた。
「夢じゃないわよ。そうね。じゃあ、貴女の母親のウェディングドレスを作ってみてはどうかしら? きっと、喜ぶわよ。新郎のアーロンの服もお揃いの素材で作ると良いわよ。じゃあね、頑張るのよ」
アンリは混乱した。
頭を強く殴られたような、強い衝動だった。
「私は………… 私は誰の子供なの? アーロンが新郎って何?」
少し泣きそうになって、目が覚めたアンリ。
「夢、なの?」
でもアンリは、全てが夢だと思えなかった。
そして「着たい服は何?」と、頭で考えながら母と信じているデイジー・ブロンクス前子爵夫人を見た。でも彼女は青のギンガムチェックの、ウエストの楽なワンピースを考えていた。本人に聞けば、どうして解ったのかと驚かれる。
「すごい! 女神様が言ったように、着たい服の映像が見えるわ。でも…… お母さんが着たいのはウェディングドレスじゃなかった」
愕然とした。
夢の内容は本当だったんだ。
それなのに今は、不安しかない。
ただ、みんなの幸せを願っただけなのに……………
でも本当の母親が望むのは、ウェディングドレスだと女神様が言っていた。
着たいのね、ウェディングドレスを。
アンリは躊躇わず、今度はメリーを見た。
女神様が言っていた通り、白いウェディングドレスを来たメリーが、隣にいるアーロンを見て微笑んでいる映像だった。
「何となく解っていたの。気づかない振りをしていただけ。ずるい私を許してお母さん」
ハッキリと突きつけられた現実。
傷つきたくなくて、聞かずに過ごしていた。
でも、これも女神様の天啓かもしれない。
『母を自由にしてあげるように』との天啓。
そう思い、メリーに尋ねることにした。
怖い、とても怖い。
全てが壊れそうに、もう戻らなくなりそうで。
でも…………… 幸せを願ったのは、私なのだ。
だから、
「お母さん。私を産んでくれてありがとう」
後ろから声をかけて、座るメリーを後ろからそっと抱きしめた。
「どうして? 誰がそんなことを?」
動揺するメリーに、アンリは答えた。
「女神様が夢に出てきて、祝福をくれたの。その時にね、お母さんと、お母さんと結婚する人にウェディングドレスと対となる服を作ってあげなさいって。…………アーロンに服を作ってあげなさいって………」
泣くつもりなんてなかった。
私は祝福を貰った幸せ者だもの。
泣くなんて、失礼なことだもの。
「お母さん、お母さん。今までありがとう。アーロンとちゃんと結婚してね。私は幸せになる祝福を貰ったから、大丈夫だから………ひっく、うっ」
我慢しようと思ったのに、涙も鼻水も止まらない。
涙声も堪えようとしても、止まらないの。
そんな私を見て、お母さんは椅子から移動して私を強く抱きしめてくれた。
「私の方がありがとう。騙していたわけじゃないのよ。貴女の身が危険だったから、隠していたの。………でもそれも言い訳ね。ちゃんと話しても、きっとアンリなら理解してくれた筈だもの。ごめんね」
「ううん、良いの。大好き、お母さん。お姉ちゃんの時も、お母さんになっても好き。みんなのことも好きなの。大事なの」
これは本心だ。今朝起きてから、ずっと考えていた。
夢の中でも考えていた。
そんなわんわん泣いていた二人を心配して、家の人が集まって来た。
「どうしたんだ。悲しいことがあったのか?」
「誰かがいじめたのか? 誰か言え、ぶん殴ってくるから」
物騒この上ない台詞だが、オスカーが優しい性格なのを知っているアンリもメリーも苦笑いしてしまう。
直球で言えば、原因は女神様なのよと。
どちらにしろ隠しておけないことなので、サントマイムやベロアとアーロンも呼んでもらい、祝福のことを伝えることになった。
みんな真剣に聞いてくれた。
泣いたり涙を堪えたりと辛そうだったけど、私や母を心配した気持ちが伝わってきて、すごく素直になれた。
そして、何故私に祝福が降りたのかの謎も解けた。
母が私を産んだことで、伯爵家の血が私にも入ったからだ。
どうやら伯爵家では、大司教も巻き込んでてんやわんやらしい。
もし女神様の祝福を持つ子が見つからなければ、浮気を繰り返していた2つの伯爵家当主は、次代に後継を譲り隠居させられるそうだ。繁栄の子を逃した2人が、隠居後に生きていられるかは怪しい所だ。
そしてみんなに、私の祝福のことを話す。
裁縫全般の能力と、相手の一番着たい服が解る能力のこと。
メリーお母さんとアーロンの結婚を、女神様が祝福していること。
その時に、メリーお姉ちゃんがお母さんだと解ったことも伝えた。
それから家族全員の服を作った後、世界を旅して衣装を研究することを命じられたことも。
最後の旅のことは自分で付け加えたけど、きっと女神様は許してくれる筈だ。メリーお母さんには、アーロンとゆっくり過ごして欲しいから。きっと私がいなければ、もっと前に結ばれていたんじゃないかと思うの。
そして今日から、私はウェディングドレスを作成する。アーロンのタキシードも勿論素敵な物を作るつもりだ。
天啓や祝福とお母さんのことをみんなに話せば、全部変わってしまうと思っていたけれど、何一つ変わることはなかった。
より結束が強まった感じだ。
私は何度も、幸せだと感じることが出来て、心が暖かくなった。
丁寧に1年くらいかけて、ゆっくり縫おうと思っていたウェディングドレスは、思うまま丁寧なのにすごいスピードで仕上がっていく。タキシードもそうだった。
3日で仮縫いし2人の体に合わせて貰い、その2日後に仕上がってしまった。
結婚式は商会で準備して、その1週間後に挙げることになり、親しい人達で集まることになった。
2人の新居はアーロンが今住んでいる場所となり、家具等の荷物を準備している。私は今まで通り、デイジーお母さんと暮らすことにしている。
私にはお母さんが2人と、前子爵のガウディお父さんがいる。
アーロンはお父さんと言うより、やっぱりお兄さん感が強いので、お父さんとは呼べそうにない。
勿論オスカーお兄ちゃんは、お兄ちゃんのままだ。
叔父さんと呼ぼうかと言ったら、老けるから止めてくれと断られた。
オスカーお兄ちゃんの子供は、私からすれば甥姪になるのだけど、従弟従妹と呼んで欲しいそうだ。
メリーお母さんとアーロンは、完全にプラトニックだったみたい。
祝福の話をしたその日に、メリーお母さんが「子供もいるのに、私なんかで良いの」と震えながら聞けば、
アーロンは「貴女だけがずっと好きです。平民の自分では何もかも足りませんが、僕で良いですか?」と逆に聞きかえした。
勿論承諾されて、「愛しています、結婚してください」と公開プロポーズとなったのだ。みんなに祝福されたのは言うまでもない。
私はみんなの着たい服をパターンにおこして、1日中服を作り始めた。
自分の予定では、今度こそ1年くらいかけようと思っていたんだけど、祝福のお陰で結婚式までに作り上げてしまっていた。
そして、1週間後。
自分の作ったウェディングドレスとタキシードを着た、メリーお母さんとアーロンが教会で宣誓をして口づけを交わした。
心からおめでとうと祝福できた。
祝賀会を終えた夜中、全員分の衣装を1人分づつ名前を縫い付け布で包んでテーブルに置き、寝ているみんなにお別れの挨拶をして、そっと家を出た。
女神様の天啓なので、出発します。
旅を終えたらまた戻ります。
手紙書きます。
そんな簡単なメモを残して。
起きているみんなには、怖くて挨拶できなかった。
だって、引き止められたら出発なんてできない。
行きたくなんかないのだもの。
でも自分で考えた答えは、そこから離れることだった。
「みんな、ありがとう」
いつかまた戻ってくる。
それまでは修行の日々だ。
私の作った衣装は祝福が掛かっているようで、その服を着ると元気になったり、運気も上昇するらしい。自分自身の服も祝福が掛かっているのか、旅の間中病気もしないし強盗等にあったこともない。
裁縫の道具は自前だが、服を作る時の布や糸は考えるだけで机に降りてくる。これも祝福なんだろう。
旅の途中で解ったのだが、背が伸びても自分の体に合わせて服も大きくなっていた。自分が不要になるまでは着倒せるようだ。節約家系に合うとても経済的な効果だ。
旅の途中に服が盗まれても数分後に戻ってくる仕様で、銭湯で間違って着ても戻るようだ。
もし間違って着た人なら、その場で裸になってしまうので申し訳ないが、盗んで着たなら戒めになるかもしれない。
行く先では、スラム街や病の流行る街もあった。
その時は暫くその地に留まり、全員に行き渡るまで服を作り続けた。
そんな時に着たい服なんてみんな考えていないから、その地域にあった物を作り着て貰った。あげる時にあなた以外が着ても、あなたの元に戻るから人にあげないでと伝えてから。
人に取られるかもしれないと言われたので、着ている状態なら本人以外が脱がせることはできないと伝えたら、嬉しそうだった。
真新しい物は、売り物としてとられてしまうのだろう。
着た人は健康になり運気も上昇し、働く場所が見つかったり孤児なら養父母に引き取られた。引き取られた先でも幸福となり、大事にされたようだ。
流行り病に悩む人にも女神の加護がありますようにと、香り袋を渡して行ったら、症状が軽減していったようだ。
大量に作るので、どうしても服では間に合わないと思っていたら、女神様が降ろしてくれたのが香り袋の道具だったのだ。乾燥したラベンダーも置いてあった。
宿泊した食堂のテーブルで食事をした後、突然布が降りてきてそれを縫い始めたのを見た宿屋の人が、不思議そうに声を掛けてきたので、
「女神様からいただいた布で作った香り袋です。病が軽減する効果がありますので、できるだけ多くの人に渡していただけますか」と伝えれば、快く引き受けてくれた。
よっぽど、布が降りてきたのが不思議だったのだろう。
私の縫っていく速度も、尋常じゃなかったようで信じてくれたみたいだ。
手渡した人が良くなったと聞いて、こちらに貰いに来る人も現れた。金銭を取る商売にしないように、悪心があれば香り袋が全て戻って来るように念じて渡した。全て戻ってくれば、悪心のある人の分も戻るので病気が再発するかもしれないが、女神様の布で商売は許されないと思うので、仕方ないと割りきる。
その地域の人達の症状が良くなってきたので、安心して旅を続けることにした。
宿のおかみさんや良くなった人が差し入れをくれたので、喜んでいただくことにする。布以外出せないので、食料は貴重である。
教会の人や病の良くなった人が、私を聖女じゃないかと言ったが、自分は服を作る能力を貰っただけで聖女ではないと伝えて街をでた。
神父さんはとても感謝してくれていた。
「聖女じゃなくても、救世主です。何かあればお手伝いします」と、若い娘に頭を下げて礼をしてくれのだ。
私も頭を下げて、そこを後にした。
そして旅を続けながら、服を作り売って資金を得た。
ある国で1年間専属で頼みたいと依頼され、服を作ることになった。そこで服を作り1年経ると、自分を気に入ってくれた商会長に店を出さないかと言われ、迷っていると女神様が夢に出てきて、好きにやってみると良いと言ってくれた。
店を出すのは責任が伴う。
不安もあったが後継作りも大切と思い、受けることにした。
女神様の祝福がなくても、自分が得た知識を伝えることで服飾技術が上がると思ったのだ。
それ以前に、そろそろ自分自身が寂しくなっていた。
常に人がいた実家から、常に一人は辛かったから。
店を持つことで定住したので、出すだけの手紙も貰い受けることができるようになった。
デイジーお母さんやメリーお母さんから、毎月たくさんの手紙と野菜が届くようになった。オスカーお兄ちゃんとガウディお父さんとアーロンからも。サントマイムとベロアの言葉は、デイジーお母さんの手紙に書いてくれていた。
みんな心配と応援をしてくれていた。
手紙を読む度に、1人じゃないと勇気がでた。
ここでは服飾や刺繍を仕事にしたい人に、技術を教えていく日々。
その人達が従業員となり、共に作った服を着る人を見るだけで元気がでる。同じ趣向の話で盛り上がると、とても幸せな時間に繋がるのだ。
時には騙されたり景気が悪いと利益が減ったりと、色々な辛い経験もした。生家にいた時に相場で失敗した話も聞いていたので、世の中は大変だと定住してから実感する。
それでも、勇気を出して家を出て良かった。
あの家にいれば、辛いことがないように大事にされただろう。
産まれた時点で可哀想な子だった私は、その影響もあって普通より大事にされていたと思う。
それが解っただけでも大人になったのだ…… と思うことにした。
その後に商会長ネロと食事をしたり、相談をして交流を持つことが時々あった。この国に来て初対面だったのに、どうして契約してくれたのか聞くと、スラム街で引き取られた子供が感謝して私の話を広めてくれたそうだ。偶然耳にした噂と私が合致したので1年雇い、気に入ったので店を任せたと言うのだ。
私は自己中心的にしたことだったので、良いかどうかの判断もついていなかった。それで救われた人がいたなら良かったと思うだけだった。その子の助けで信用して貰い、今の自分がいるんだから不思議だし感謝しかない。
あの時から5年が過ぎて、時々生家にも帰っている。
メリーお母さんに娘と息子が産まれ、私はお姉さんになっている。アーロンもずっと優しく、子供を可愛がるお父さんになっていた。肩車をしたり本を読んだり、私にも同じようにしてくれたことを思い出す。その時と今は、アーロンの感情は違うかもしれない。でもそれで良いと思う。
デイジーお母さんもガウディお父さんも、元気だけど少し老けていた。時々メリーお母さんの子の面倒を見ているが、走ったり抱っこすると腰や膝が痛むと言って苦笑いしている。
私にこちらに戻ってこないの?と、聞いてくれたけど、店があるから難しいと答えた。
少し寂しそうだったけど、「仕方ないわね。経営者になったんだものね」と、微笑んで見送ってくれた。
ブロンクスの長男で婿養子に行ったガイアスさんは、こちらの子爵家と殆ど交流がない。私のことも本当の妹だと思っている。高齢出産なんて恥ずかしいと言っていたことを、人伝に聞いた。
私はデイジーお母さんの名誉の為に否定したかったが、そんなことどうでも良いと笑われた。大事なのはアンリのことなんだからと。
外の世界で多少揉まれた身としては、無条件の愛情は叫び出したい程嬉しい。憎い伯爵の血が流れていても、一緒に過ごした時間が家族にしてくれたんだと、改めて生まれるのを許してくれたことに感謝した。
結局人間は、同情も憐れみも偽善も、全部ひっくるめて生きているんだと思う。それで良いんだと思えるようになっていた。
ガイアスさんは、こちらとは殆ど交流がないから、こちらもそのように接していくんだろう。
メリーお母さんの夫となったアーロンや、その両親だってかなりの資産家だ。オスカーお兄ちゃんだって、子爵家の土地を少しづつ買い戻せるくらい力をつけている。
ガイアスさんは、頼られたくないからこちらを避けているようだけど、こちらの状態に気づいて近づかれたら返って面倒だからそのままで良いと思う。そう思われてしまう感情も、長い時間をかけてガイアスさんがみんなに与えてきたものだ。
こんなに良い家族なのに勿体ないと思う時点で、私はこちら側の人間なのだ。
スラム街の人も流行り病の街も、偽善と言う奇跡(一部自己満足)で、生き延びた人も多い。
それだって受け取り方一つだ。
善にも悪にも転ぶだろう。
与えられた物でどう足掻くかは、少しの勇気が必要だ。
挫けたり諦めたら、足は止まる。
もし止まっても、また勇気を奮って一歩進めば、見える景色も変わってくると思うのだ。
私はまた自分の店のある場所へ戻り、今度は毎日数枚づつ念入りに健康祈願を込めたのベビー服を作ることにした。死亡率の多いこの時代だからこそ、私の能力が少しは役立つだろう。押し付けるつもりはないし、女神の名前を出すこともしない。気に入った人に買われれば良いと思うのだ。
だって祝福のことを話しても、とても全員に作ることはできない。辿り着くのも縁なのだろう。
従業員達には、私が着たい服をリサーチして弾き出したパターンを作成して貰っている。オペラや舞台の役者達の私服が最近のトレンドなので、既製品でもそんなにはずさない筈だ。
従業員達が独立しても、応援していくつもりだ。
今まで自分を応援してくれた思いも乗せて、好敵手として競いあう人生も楽しいと思うから。
私と商会長のネロは、時々食事をする仲になった。
恋人という程ではない。
アーロンの商会とも取引があるらしく、世間は狭いなと思う。
生家へ戻ると、アーロンからぽそっと囁かれた。
「メリーと結婚させてくれてありがとう」と。
私は女神様の言葉を伝えただけだと言うも、それを伝えない選択肢もあったと私の顔を見つめるアーロン。
「私はメリーお母さんに幸せになって欲しかった。私のことだけでなくて、お母さんにも幸福をあげたかったの。アーロンがいてくれて良かったよ」
少し寂しく微笑んだ私に、
「死ぬまで幸せにすると誓う。お前もネロと幸せになれ」
そんな的はずれなことを言われた。
アーロンに仕事仲間だよと言えば、「ええっ、まだそこなの?」と、慌てるのがおかしくて笑ってしまった。
ネロはアーロンより年下で、私より10歳ほど年上だった。
恋愛対象に見られていないと思う。
だってネロは商会長で、イケメンで背も高くて、優しい…………
(あれ? 何これ。最初はちょっと威圧的な人だと思ってたのに。こんなに高評価になってるなんて……)
思わず顔を手で隠すと、アーロンがからかってくる。
「あらら。愛しい人を思って照れてるの?」
何てことを言うの。
抗議するけど、何だかおかしい。
(こんなんじゃあ、まともにネロを見られないよ。どうしよう)
何てことがあり、ネロを避ける日々が続く私。
そのうちアーロンから謝罪の手紙が届く。
「からかって済まなかった。
頼むからネロに会ってくれ。
前回のことを手紙に書いたら、ネロに切れられた。
このままじゃ、うちの商会が潰される。
助けてください。アンリ様」
早朝から変な物を見てしまった。
私がネロに会わないと、潰される商会って!
クスクスと笑いが漏れてきた。
「しょうがない。商会の為に会ってきますか」
照れながらも、手紙を持ってネロに会いに行った私。
ネロにアーロンの商会を潰さないでと言ったら、顔を赤くしてそんなことしないと言ってくれて安心した。
今日はいつもの済ましたネロじゃなくて、赤くなったり青くなったりと慌ただしい。そんな顔を見るのも楽しいなと思っていたら、じっと凝視していたらしく。
「顔に何か付いている?」と聞かれてしまう。
「イケメンはどんな顔も格好良いなと思って」
ぼけっとしていたので、何も考えずに答えてしまい慌てる私、さらに赤面するネロ。
周囲は生暖かく見守り?
私は初恋を自覚したばかりで。
この分だとネロも、まさかだけど恋愛経験値が低そうだ。
穏やかな日和だもの、まずはゆっくりお茶でも飲もうよ。
私達の恋のようなものは、まだ始まったばかりだ。
2/7 日間ローファンタジー(短編)部門 12位でした。
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