デスゲームが成立しない場合
用意した地下室でその高校生達は目を覚ました。全員で11人。状況が上手く飲み込めず、辺りを見渡している。私が彼らを選んだ理由は特にない。敢えて言うのなら、仲が良さそうだったという点だろうか。私は彼らのような仲の良い人間達が、我が身可愛さで醜いエゴを晒していがみ合う様を見るのが大好きなのだ。
修学旅行の途中なのか何なのかは分からないが、彼らは全員制服で列になって歩いていた。私はリーダーらしき女生徒を言葉巧みに説得し、彼らを罠に嵌めたのだ。今、彼らの指には嘘発見器が取り付けられてある。もし嘘を付いたなら直ぐに分かる仕組みだ。それも、彼らの絆を破壊する為に考え出したものだった。
「全員、目を覚ましたようです」
メイドのユアが私にそう報告する。「うむ」と私は応えるとマイクを握った。
「お目覚めかな? 諸君」
声はエコーがかかって地下室内に響いた。
「突然だが、君達にはこれから命をかけたゲームをしてもらう。なに、安心してくれたまえ、誰か一人でも犠牲になると言うのなら、即座に全員を解放しよう」
私のその説明を聞くと、彼らは互いの顔を眺め合った。夢か何か、或いは誰かの悪戯だとでも思っているのかもしれない。構わない。ゆっくりと自覚してくれれば良い。この悪夢が現実であるという事を……
「……誰か一人が犠牲?」
生徒の一人がそう呟くと、それに呼応するように他の者が「犠牲?」と呟き始め、そして、一呼吸の間の後に、一斉に「うおおお! やったぞぉぉぉ!」と歓声を上げ始めた。
私は戸惑う。
――え? なにこれ? なんで喜んでいるの?
「どうしたのだ? お前ら?」
恐怖に耐え切れなくなって発狂でもしたかと思ったのだが、どうにも様子がおかしい。一人が応える。
「犠牲になる事で、名誉ある死を遂げられたなら、神の国“ヴァルハラ”に行く事ができるんだ! これが喜ばずにいられるか!」
「そうだ! そうだ!」と他の者が続けた。
――は? と、それに私。
え? ちょっと想定外なんだけど! かなり怖いんだけど!
そこでユアを見てみる。「噓発見器は?」と尋ねると首を横に振る。どうやら彼らは本気のようだ。
「俺が犠牲になるぞ!」
「ずるいぞ! 僕に決まっている」
「いいえ、わたしよ!」
彼らは競うように手を挙げている。その様を見てユアが言う。
「良かったではありませんか。醜くエゴを晒し合っているのが見られて」
「いや、そうだけど……、私が見たかったのは、こーいうのじゃなくってさ」
そこで女生徒の一人が声を上げた。私が誘ったリーダー格だ。
「皆さん! 素晴らしいですわ! 神聖なる存在の犠牲になろうというその姿勢! きっと神々も評価してくださるはずです。これで魂のレベルが上がりますよ!」
“あいつが元凶かー!”
と、私は思う。
噓発見器は反応しない。どうやらマジで言っている。そしてあの女の言う“神聖なる存在”とは、どうやら自分の事であるらしい。
「彼女は篠崎紗美というようですね。生徒手帳をチェックしました」
ユアがそう教えてくれる。私は思わず声を出していた。
「お前ら、ちょっと待て! なんかおかしいとは思わないのか? 絶対にその女に騙されているぞ?」
“これでもか?”ってくらいに私が言う事ではないのだが、こいつらのこれからの人生が心底心配だ。
篠崎はそれを聞くと笑った。
「あら? このような怪しげなゲームを仕掛ける人間の言葉が信頼できるとでも?」
「それはそうなんだけどさ!」
「皆さん、騙されてはいけません! この声の主はあなた達の魂のレベルが上がるのを邪魔しようとしているのです!」
他の生徒達は篠崎の言葉に「騙されて堪るかー!」、「私は神の国“ヴァルハラ”に行くのよ!」などと口々に反応した。
「邪魔するも何も、この状況を作り出したのはこの私だろうがー!」
私は当然の事を言ったつもりだったのだが、それに篠崎はこのように返す。
「いいえ、この場所にあなた達を導いたのはこの私です!」
「何言ってるんだ、お前ぇ?!」
とんでもない嘘を言うと私は思った。しかし、篠崎の噓発見器は何も反応しないのだった。ユアが淡々と言う。
「確かに声をかけて誘ったのはご主人様ですが、彼らを連れて来たのは彼女なので、嘘ではないという認識なのかもしれません」
「えぇぇぇー?」
思い込みが激しいというか何と言うか。こうなったら他の生徒達を説得するしかない。
「お前ら、よく聞け。導いたなんてのは嘘だ。その女は格安温泉があるという私の甘い話に騙されて付いて来ただけだ」
が、篠崎は即座に返す。
「ほら、騙したとか言ってますわよ? 信頼してはいけません」
「だーかーらー」
私が何を言っても無駄だった。他の生徒達は完全に篠崎を信じ切っているようだった。否、これは信じ切るなんてレベルじゃない。ぶっちゃけ、洗脳されている。
こーなったら最後の手段だ。
私は意を決した。
「これからお前らを解放する! どうだ! これでその魂のレベルとやらも上げられまい? その女がその為にここに導いたという話もデタラメだぁ!」
そうして私は地下室のゲートのスイッチを押した。シャッターがゆっくりと上がっていく。
これ以上の明確な証拠はないはずだ。
篠崎の言葉が間違っていたのは明白だろう。しかし、その様を見ながら篠崎はこう言うのだった。
「ご覧ください、皆さん! 私の力で地上へと続くゲートが開きましたわ」
「まだ言うかー!」とそれに私。が、噓発見器は反応しない。ユアが淡々と言う。
「彼女とご主人様の問答でシャッターが開いていますから、嘘ではないか、と」
「えぇぇぇ?」
しかも、今度も篠崎の信者達はその言葉を信じてしまったようだった。「ありがとうございます! 篠崎さん!」、「流石!」などと口々に言って彼女を称賛している。
「何故、誰も疑問に思わないのだ?」
淡々とユアが言った。
「宗教で予言者の予言が外れると、それで益々信仰心や求心力が高まるという現象が報告されていますから、これもその一つではないか、と」
「うそーん!」
力及ばず。
がっくりと項垂れる。
上がり切ったシャッターの向こうに消えていく彼らの姿を見ながら私は、
“もう二度と、こいつらに関わるのはよそう”
と、思った。




