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魔族の卑劣な罠により冒険者パーティを追放された俺だが、独りになっても敢えて魔族の罠に挑む! 別に相手が女かもしれないとかそんな事は一切関係ない!

 俺の所属している冒険者パーティは、無骨で逞しい男だけで構成されている。いや、“漢”と書くべきか? 全員、軟弱な女など過酷な冒険の旅には必要ないという非常に男らしいストイックな思想の持ち主ばかりだ。

 決して、全員モテないからではない。

 飽くまで、思想だ。

 間違いなく。

 本当に。

 ――俺達はその揺るぎない信念により力強く結束した類まれな冒険者パーティだと言えるだろう。

 その結束力によるチームワークで、俺達は当に無敵のパーティだった。「女連れの連中などに負けてなるものか!」という真摯な想いから発せられる純粋で美しい友情パワーは他の追随を許さない。

 これは決して嫉妬ではない。

 飽くまで、思想だ。

 間違いなく。

 本当に。

 ……がしかし、俺達の結束力を恐れた魔族は、卑劣な罠を仕掛けて来たのだった。それは俺達の結束に水を差すように仕組まれた巧妙な作戦だった。

 

 「なんだ、この手紙は?!」

 

 そうリーダーのエロオッツが言った。奴の手には俺の許に来た手紙が握られていた。その手紙は魔族の文字で書かれてあった。可愛い筆跡だった。女からのものであると思えなくもない。否、素直にその文面を解釈するのなら、女からのものであると判断するのが最も妥当だった。

 “一度会って話をしたい”

 要約するのならば、その手紙の主はそのように俺に訴えていたのだ。

 しかも、俺に憧れているとも書いてある。

 もちろん、男だって俺に憧れる事もあるだろう。俺は勇猛果敢で優秀な戦士で、今まで何度も男の命だって救っているのだし。だが相手が魔族となれば話は別だ。魔族の男を助けた記憶は俺にはない。つい最近まで、魔族と人間は敵対していた。いや、和解が成立したとはいえ、今だって互いに快くは思っていないはずだ。だから男なんか絶対に助けない。女なら別だが、男なんて…… 大体、男なんか本当は人間でも助けたくない。否、嫌っているとかそういう話ではない。男なら自分で勝手になんとかしろと言いたいだけだ。心の底からそう言いたい。女だったら致し方ないが。だって可愛いし。

 断っておくが、別にそれは女にモテたいとかそういう話ではない。

 時々、本音が漏れているとかそういう事もない。

 飽くまで、思想だ。

 間違いなく。

 本当に。

 

 「落ち着け。99%、魔族の罠に決まっているだろう?」

 

 怒りで震えているエロオッツに向って俺はそう冷静に言った。すると、魔術師のクーガーがこう尋ねて来た。

 「なるほど。では、無視すると言うのだな?」

 「ふっ」と俺は笑う。

 「――否、行ってみようと思う」

 それを聞くと、クーガーは筋肉を隆起させて震え出した。血管も浮き出ている。

 クーガーは魔術師だが無骨だ。魔物を殴り倒したのを見た事もある。時々、本当に魔術師なのか俺は疑っている。

 「罠だと言っておきながら、魔族の誘いに赴くとは、まさか貴様、相手が女だと期待を…… いいや、魔族と手を結ぶつもりかぁ?!」

 「落ち着け。1%は本当に女という可能性に賭けてみたいとか、そんな事は少しも思っていない! 敢えて相手の罠にのるという作戦だ」

 が、俺の説明に奴らは納得しなかった。

 エロオッツや他の連中は口々に言う。

 「そんな話、信頼できるか! 魔族と手を結ぶつもりだろう?! 断っておくが、女に誘われたお前に嫉妬している訳では断じてない! 絶対だ!」

 俺はそれに激昂した。

 「何故、俺を信頼しない! 今まで共に闘って来た仲間ではないか! 魔族と手を結ぶつもりなどない! 断っておくが、別に女に会いたい一心でそう言っている訳ではない!」

 

 俺は真摯な気持ちで熱い魂の言葉を奴らにぶつけたのだが、不思議な事に奴らには全く通じなかった。

 そうして、俺は冒険者パーティを追放される事になってしまったのだった。今にして思えば、手紙自体が予めこうなるように仕組まれた魔族の卑劣な罠だったのかもしれない。

 ……だが、例え独りになっても、魔族から逃げる訳にはいかない。俺は魔族が待っているという川沿いのベンチに向かった。

 

 約束の時間に行くと、そこには既に角の生えた魔族の女が待っていた。ベンチの上で体操座りをしている。地味でやや不健康そうな外見をした痩せた女だったが、充分に“有り”だった。全然、オーケーだ!

 俺の目からは何故か自然と涙が流れていた。別に1%の賭けに勝ったとか、そんな事を思っていた訳ではない!

 断じて違う!

 本当だ!

 

 「あ、どーもー」

 

 魔族の女は俺を見ると、そう言って軽く挨拶をして来た。「うむ」と俺は応える。ベンチに腰を下ろした。

 「良かったぁ。来てくれたんですねぇ」

 魔族の女はそう言った。

 「来てくれないかと思ってぇ、心配していたのですよぉ」

 「まあ、俺は“漢”だからな。頼まれれば断れん」

 それを聞くと魔族の女は笑った。

 「嬉しい。実はわたし、皆さんに憧れていてぇ」

 俺はその“皆さん”という言葉が気になった。

 「ん? 皆さん? 俺ではなく?」

 「はい。皆さんです」

 「では何故、俺だけを呼んだのだ?」

 「だってぇ、詳しく話を聞くのに、皆さんだと話し難いかと思ってぇ」

 女は何故か頬を赤くした。

 「ほらぁ、皆さんって、男ばかりの冒険者パーティじゃないですかぁ? きっと色々としていると思ってぇ、夜とかぁ」

 ――なんだ? この女は何を言っているのだ?

 俺の頭は混乱した。

 が、次の女の言葉で理解をする。

 「逞しい男同士の恋愛って素敵ですよねぇ。わたしぃ、そういう本とかって書いててぇ」

 

 なぁぁぁぁぁ!

 

 「お前はそーいう趣味の女かぁぁ!」

 俺は思わず絶叫した。

 その俺の絶叫を受け、女は無垢な笑顔を見せる。

 「はいー。だからぁ、是非ともお話を聞きたいと思ってぇ」

 俺の頭は真っ白になった。つまり、単なる勘違い…… いや、この女の思い込み。俺個人に興味がある訳じゃない?

 

 そんなおぞましい漢の花園が、俺達の間で展開されていて堪るかぁぁぁぁ!

 

 断っておくが、これは魔族の罠だと思って覚悟で挑んだのにただの勘違いだったと分かり、肩透かしをくらっているだけに過ぎない!

 決して、やっと女と付き合えるとか、そんな夢と希望が打ち砕かれた事にショックを受けている訳ではない!

 間違いない!

 本当だ!

 

 そんな俺の様子には気付かず、女は無情にも機嫌良さそうに語る。

 「他のみんなもぉ、絶対に聴きたいって思っていると思うのですよぉぉ」

 が、そこで俺は止まった。

 “他のみんな?”

 「おい」と俺は声をかける。

 「なんですかぁ?」

 「お前みたいな趣味の女が、他にもいるのか?」

 「はい。いますよー、たくさん。みんな、とっても仲良しですぅ」

 

 “それだぁぁぁぁ!”

 

 と、俺は心の中で叫んだ。

 「その女達を俺に紹介してくれないか?」

 女は一瞬止まったが、直ぐに笑顔を見せると言う。

 「はいー。良いですよぉ」

 俺はガッツポーズを取る。

 “それだけたくさんの女がいるのなら、一人くらいは引っ掛かる! 一人くらいは引っ掛かるぅぅぅ!”

 

 そのタイミングだった。

 

 「話は聞かせてもらったぁぁぁ」

 

 そんな声が響いたのだ。

 見ると、繁みの中から、ポージングを決めたかつての冒険者パーティの面々が飛び出して来ていた。

 俺が女と付き合う事にでもなっていたなら襲いかかる気でいたに違いない!

 「誤解をしていて悪かったな! 同志よ! さぁ、我らが冒険者パーティに戻って来てくれ!

 そして、共にその女達の所へ行こう!」

 そうリーダーのエロオッツが言った。手を差しだしている。握手してくれという事だろう。

 が、

 “ぬぁぁぁにを、虫のいい事を!”

 と、俺は目を剥き、唇を歪めて奴らを威圧した。

 「今更、パーティに戻って来てくれと言ってももう遅いわ! 誰が戻るか! この女の仲間は全員、俺のものだ!」

 「なんだとぉ? お前はどうこの女の話を聞いていたんだ? 何をどう聞いたらそう解釈できる?」

 「やかましいわぁぁ!」

 

 「皆さん、仲良しですねぇ」

 と、そんな俺達を見て、魔族の女は和やかに笑っていた。

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