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死後

 私は死んだ。死んだと思う。

 なにしろ車に思いっきり正面から轢かれて跳ね飛ばされて、地面を転がって、それから身体がピクリとも動かないのだ。

 私を轢いた車の運転席からは、若い男の人が出てきた。気の優しそうな感じの人で、とても慌てている様子。青い顔をしていた。

 私はなんだか悪い事をしてしまったと思う。そんなに気に病まないでくださいな。こんな真夜中に、道の真ん中を歩いていた私も悪いのだから。

 その男の人は、それから優しく私の身体に触れた。私を気遣って、なんとか助からないかとがんばっているよう。もっとも、救護とかそういう方面の知識は全くないようで、不器用でしかも意味がなさそうな事を懸命に繰り返していたけれど。

 私はなんだか少しだけ可笑しくなってしまった。そして、ああ、この人と生きている間に会っていたかったとそう思った。どうして死んでしまったのだろう。生きていれば出会うチャンスもあっただろうに。

 そもそも私は、どうしてあんな場所を歩いていたのだっけ? ああ、そうだ。確か男にフラレタのだった。ツマラナイ男だった。本当は別れても構わなかったのだけど、そこはそれ、それなりにショックを受けたものだから、ちょっとヤケになって、酒を飲んで、それでフラフラと道の真ん中を歩いていたのだ。馬鹿な死に方をしてしまったものだ。

 やがて、男の人は私を担ぎ上げると、そのまま車に乗せてくれた。どうやら、まだ助ける気でいるようだ。このまま、病院まで運ぶつもりだろう。無駄なのに。それよりも、早くに何処かへ逃げてしまった方がいいよ、と私は心の中で思った。こんな事で一生の傷をつくらなくてもいいでしょうよ。本当にこの人は、お人好しだ。前の私の彼氏なら、きっと逃げていただろう。

 だけど、男の人が車を走らせているのを見る内に、私の中にある考えが浮かんだ。私には死後でも何故か意識がある。なんだか分からないけれど、死後の世界というのはあるのかもしれない。

 なら。

 この人を殺してしまえば、私は死後の世界でこの人と結ばれる事ができるのかもしれないじゃないか。

 そう思った刹那、私の手は勝手に動いた。そして、ハンドルを握っている男の人の手を思いっきり引っ張った。

 私を早くに病院へ運ぶ為に、車は猛スピードを出していたから、それで車は高速で回転をして、そのまま壁に激突した。私の意識はそこでなくなった。

 目覚めると、男の人が目の前で倒れていた。思い通りに死んでくれたようだ。しかし、私にとって計算外の事が一つ。なんでか分からないが、私の身体は自由に動くのだ。つまりは私は死んではいなかったという事だろうか。死んだと思ったのは、単なる錯覚だったのだ。しまった。なんという事をしてしまったのだろうか。私は、この男の人を殺してしまった。あのまま病院に運ばれていれば、或いはこの人と知り合いになれたかもしれないのに……。

 私はその場で思いっきり泣き始めた。当たり前だ、死後の世界なんかあるはずがないのだから。


 僕は死んだ。死んだと思う。

 なにしろかなりのスピードを出している最中に、事故を起こして思いっきり全身を叩きつけられたのだから。

 目の前には、女の人が涙をこぼしていた。僕を見つめながら。とても優しそうで、そして悲しげな顔だ。

 誰だっけ?

 そこで思い出した。確か、僕が車で撥ねてしまった人だ。なんて優しい人なのだろう。こんなに酷い事をした僕に、こんな瞳を向けてくれるだなんて。

 ああ、生きている間にこの人と出会ってみたかったと、そう思ってから、僕は待てよとこう思った。

 なんだか知らないが、僕は死んだ後なのに意識がある。どうやら、死後の世界はあるらしい。なら、彼女を殺してしまえば……

 そう思った刹那、僕の手がゆっくりと彼女の首に向かって伸びていった。

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