監視カメラに映っている女
鶴橋は高級ホテルで深夜の警備員アルバイトをしていた。始める前は、どんな事が起こるのかと不安を抱いていたが、実際に仕事を始めてみると、ただ毎晩退屈なだけだった。何も変わった事は起きない。しかしその日は違った。
一泊何十万円もする部屋のドアが並ぶ廊下。画面はそこを映し出している。そして、そこには一人の女の姿があったのだった。時刻は深夜二時。その女は白いワンピースを着ていて、明らかに部屋着だった。パジャマかもしれない。ホテルの廊下なのだから、そんな服装でもおかしくはないが、その女はもう30分以上もそこにいるのだ。
女はそれぞれの部屋のドアを眺めながら、廊下を行き来している。自分の部屋を探しているようにも見えない。
「何をしてやがるんだ?」
鶴橋はそう呟いた。監視カメラ越しの映像は鮮明ではなく、その女の顔までは分からなかったが、スタイルはそれなりに良さそうだった。
しばらく考えると、彼はその女を注意しに行く事にした。どうせ暇だし、もし美人だったら良い目の保養にもなる。
ところが、その廊下に行ってみると、女の姿は何処にもなかったのだった。場所を間違えたかと思って他の場所にも行ってみたが、やはりいない。
偶然にも自分が向かったタイミングで何処かへ消えたのか、それとも自分がやって来た事を察して逃げたのか。
鶴橋はそのように考え、また監視カメラの映像が流れて来るモニタールームに戻った。念のため、画面を確認してみたが、やはりあの女の姿は消えていた。
「やれ、つまらない」
そう独り言を呟いて、彼はモニタールームの席に座った。しかし何か落ち着かない。妙な胸騒ぎがする。それで彼はあの女がどのタイミングで消えたのか確認してみようと、監視カメラの映像を巻き戻してみたのだった。
それを見て彼は驚いた。映像では数分前に彼がそこにやって来る姿が確認できたのだが、その時、女はまだそこにいたからだ。
「そんな馬鹿な。さっき、あんな女はいなかったぞ?」
鶴橋は信じられない思いで画面を見つめる。画面の中の自分は、女に気付かず歩いている。目の前にいるのに。女は廊下を見回る自分を不思議そうに眺めていた。しばらくして、数分前の自分はそこに誰もいないと判断すると、その場所を去ろう画面の外に向かって歩き出した。覚えている。これから自分は他の場所も見回ったのだ。
彼が戦慄したのはこの後だった。
画面には、あの女が自分を追ってその場から離れる姿が映し出されていたからだ。
“まさか、あの女は俺についてきているのか?”
そう思った瞬間、彼の耳の傍で「ふふふ」という女の高い声が聞こえた気がした。




