表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/100

月夜さん

 月夜に、月夜さんに話しかけた。

 だけど月夜さんは、私の話に耳を傾けてはくれない。私を無視して、そのまま歩いていってしまう。

 そうなのだ。

 月夜さんは何故だか機嫌を悪くしてしまっているのだ。さっきから、全く口を利いてくれないでいる。私には、それが何故だか分からなかった。今の彼女は私にはまるで理解ができない。まるで追いかけても追いかけても近付くことのできない月のよう。

 月夜さんを怒らせてしまった会話はこんなだった。


 「やぁ、月夜さん。満月がとっても綺麗ですよ。うさぎが餅をついている」

 「ええ、とっても可哀想ですわ。あんな狭そうな場所に、うさぎが閉じ込められている」

 「ははは。そんな真面目に考える事はないでしょう。月にうさぎがいるってのは、ただの例え話でシャレみたいなものです」

 「いいえ。とっても可哀想ですわ。シャレだなんて思えるのは、あなたが残酷な人間だからです」

 「それはないでしょう…」


 その会話以来、彼女は口を利いてくれない。私にはどうしても自分に落ち度があるようには思えなかった。彼女は普段は、とても優しいひとなのだが、何故だか、時折、こんな風にへそ曲がりになってしまう。私は釈然としなかった。それで、彼女の後姿に向かってついついこんな事を言ってしまったのだ。

 「あなたは本当に月夜のような方だ。時と共に満ち欠けて、その姿を変えてしまう」

 すると、月夜さんは、私を顧みるとこんな事を言ってきた。

 「いいえ。それは違います。

 月は姿を変えてなどいません。月の満ち欠けは、地球の影です。地球に住む人々は、己の影を見て、月の姿が変わったとそう言うのですわ。本当は自分の影なのに……」

 私はその言葉に合点がいかなかった。つまり、彼女は自分が意地悪く見えるのは、私の気の所為だと言っているのだ。どう考えてもそうは思えない。しかし、それから月夜さんは、私の困った様子を見てか、こんな事を続けてつぶやいたのだった。

 「あなたは、いつまで経っても、ご自分の立場からでしか、私のことを見てはくれないのですね…」

 私はそれを聞いてハッとなった。

 綺麗な月夜。

 月夜さん。

 月。

 月といえば…


 ああ、月の…


 彼女は私が気が付いた事に気付いたのか、少し恥ずかしそうにしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ