呪いの力への警告
今日も、園上さんが唄枝さんをからかって遊んでいる。
「あんた、また遅刻したのー? 本当にいつまで経っても子供ねー」
「だって、目覚まし時計が壊れちゃってて鳴らなかったんだもん。仕方ないよー」
「嘘言わないの! 何度目よ、目覚まし時計が壊れるの? そんなにしょっちゅう壊れるわけがないでしょーが!」
「だって、本当なんだもんー!」
唄枝さんは外見も反応も子供っぽくて可愛い。困った表情になると更に可愛くなる。少し…… と言うか、かなりSっ気のある園上さんは、それもあって彼女をからかうのだと思う。
因みに、私達もそれを止めない。だって、可愛くて和むから。
ところが、そうして一頻り園上さんが唄枝さんをからかった後、彼女が何処かへと消えたタイミングで、突然、こんな声が聞こえて来たのだった。
「危険よー!!」
声はそんなに大きくなかったが、妙な迫力があって私はちょっとビビッてしまった。園上さんもなんだか気圧されている。
「な、なによ、仏木さん」
見ると、そこにはオカルト研究会に所属している仏木さんという女生徒がいて、鬼気迫る形相で私達を見つめていた。
と言っても、彼女は普段から鬼気迫る形相をしているので、或いはそれは普段通りなのかもしれない。
「危険なのよー!」
再び、彼女はそう言った。
「危険って、あなたの顔のこと?」
などと、園上さんが返す。平然とした様子ですっごく失礼な事を言う。もっとも、皆、それに頷いていたけれど。
「巫山戯けている場合ではないのよ」とそれに仏木さん。「私はいたって真面目だけど?」と、園上さん。構わず仏木さんは続けた。
「あなたはさっき軽々しくあの唄枝奏という女をからかっていたけどね。実は彼女はとても恐ろしい女なのよ?」
「ナイス・ジョーク」と、それに対し間髪入れずに園上さん。平たい表情で。
「ジョークではないのよぉぉ!」
すると、それにまたまた迫力ある声で仏木さんはそう言った。鬼気迫る表情も活かしている感じで。
「あの唄枝奏という女にはね、実は“呪いの力”が宿っているのよ。これは300%当たる私達のドキドキ魔女占いで出た結果だから間違いないのよー」
「1回の占いで3回当たる計算ね」
「そうなのよ」
皮肉が通じない仏木さん。
それから彼女は頼まれてもいないのに、滔々と唄枝さんの呪いについて説明をし始めたのだった。
「唄枝奏には呪いの力があるのよ。ただし、恐らくは彼女自身は気付いていないでしょうけどね。だけど、それでもその力は勝手に発動されてしまう。例えば、誰かを憎んだり、妬んだりといった邪な感情を抱いた時に。
だから彼女をからかうのは危険なのよ。無意識の内にその力が発動して、呪われてしまうかもしれないのよー!」
「ほーん」と、呆れた表情でそれに園上さんは返した。
「なんで、分かってくれないのよー!」
仏木さんはそう叫ぶ。
「むしろ、分かっちゃいけない気がするから」
なんて、冷静な口調で園上さん。私達も一同もそれに頷く。
すると今度は彼女はこんな事を言った。
「断っておくけど、これは唄枝奏の為でもあるのよー?」
その言葉に、初めて園上さんは真剣そうに見える反応を見せた。
「どういう事?」
「呪いの力っていうのはね、自分自身にも跳ね返ってくるのが普通なのよ。特に無意識に発動するような呪いは。
いわゆる呪詛返し。
ネットでも誰かの悪口を書いて、自分達が嫌われているような人達が大勢いるけど、あれも呪詛返しの一種なのよー。
だから、気を付けなくちゃいけないのよ! 適度に吐き出させるとか!」
それを聞いてまた「ほーん」と、園上さん。
「ま、覚えておくわ」
と、そしてそう続けた。
その次の休み時間。
園上さんが唄枝さんにこう話しかけた。
「あんたさ、誰か憎くて堪らない人とかいる?」
唄枝さんはそれにこう返した。
「んー 目覚まし時計かな?」
「目覚まし時計?」
「うん。だって、あいつ、気持ち良く寝ているあたしの事を起こしやがるから」
それを聞き終えると、園上さんは「あー」と乾いた声を上げた。そして、それからこう続ける。
「なるほど。あんたの家の目覚まし時計がよく壊れるって話、信じてあげるわ」
それに唄枝さんは喜びの声を上げた。
「え? どうしたの、いきなり?」
それに軽く微笑むと、「あんたは、あんただってことよ」と園上さんはそう応えた。それを受けて、唄枝さんは不思議そうな表情で首を傾げる。そんな彼女を見つめる園上さんの顔は、なんだかちょっと嬉しそうだった。




