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外国に規制されている小説コンテスト

 今、僕は珍しいアルバイトをやっている。

 小説コンテストの審査員だ。

 もちろん、“審査員”と言っても、そんなに大したものじゃない。真っ当な文章で書かれているかとか、過激過ぎる表現が使われていないかとか、著作権侵害の可能性がないかとか、比較的容易かつ客観的に判断できる内容をチェックしてふるいにかける役割だ。

 知り合いの紹介で僕はそのアルバイトをやる事になったのだけど、初めての経験だったからそのチェック内容に驚かされた。

 

 「兄弟姉妹の恋愛は駄目なんだ。へー」

 

 よく分からないが、多少匂わせる程度ならセーフだけど、血縁関係者間の恋愛は極力低く評価しろとなっていた。

 確か、兄妹同士でエッチする漫画か何かが有害図書指定された事があったから、きっとそーいうのに配慮しているのだろう。同性愛も駄目らしいけど、似たような理由だと思う。一応は納得できる(文句を言いそうな人もいるだろうけど)。

 ただ、どうして駄目なのか、納得できないものもあった。何故か“権力に逆らう内容”を低く評価しろとなっていたのだ。

 物語としては定番の一つな気もするのだけど、どうして駄目なのだろう?

 応募要項を確認してみたけど、そういった作品が駄目だとは一言も書かれてはいなかった。

 まぁ、飽くまで「低く評価しろ」であって禁止されている訳じゃない。だからこれは嘘ではないのだろう。

 もっとも、評価基準から外れていたら上位に入るには難しいだろうから、少々理不尽な気がしないでもない。けど、「どんな作品を好むのか」というのはコンテストによって変わって来るから、これは致し方ないと言えるのかもしれない。上位を狙いたかったら、過去の受賞作の傾向を分析するべきだろう。

 審査基準は、審査する側が決めるのだ。当たり前だけど。

 ところがだ。

 

 「いやぁ…… だけど、過去のコンテストの時は、こんな項目なかったんだよなぁ」

 

 それをこのアルバイトを紹介してくれた知り合いに言ってみたところ、不思議そうな顔をしてそんな事を言うのだった。

 「そうなの?」と僕が尋ねると、「ああ」と彼は頷く。

 「兄弟姉妹の恋愛も、権力に逆らう内容も、別に駄目じゃなかったな。エログロは流石に抑えろって言われたけど」

 「……って事は、今年度から方針を変えたって事?」

 「そうなんだろうけど、なんか釈然としないなぁ」

 

 とにかく、不可解ではあったけど、僕はそのアルバイトを精力的にこなした。小説を読んで点数を付けるだけでお金が貰えるなんて最高の仕事だと思ったし、情熱をもった書き手にはやっぱりそれなりの評価をしてあげたいとも思っていたから。

 「これは良い作品だ。テーマが軸となっているから、登場人物やストーリーに確りと芯がある」

 僕は自分が“高い価値がある”と判断した作品にはその旨を確りと書いた。

 もしかしたら、娯楽作品にメッセージ性やテーマは必要ないと思っている人もいるかもしれないけれど、そんな事はない。

 手塚治虫は娯楽作品の中にも明確にテーマを持たせていた。そして、それによって作品の社会的価値を上げ、マーケティングにおいてもそれが有効に機能していた。

 断っておくけど、ギャグマンガだってこれは同じだ。例えば、天才バカボンにも実はアナーキズムなどのメッセージ性があると言われている。

 想像してもらいたいのだけど、「この作品には、こんなテーマがある」という作品と、「ただ楽しいだけの作品」なら、世間はどちらを高く評価すると思う? そして、それで高い評価を得られたなら、それをプロモーションに活かせもするんだ。

 つまり、その方が“売れる”って事だ。

 まぁ、僕が個人的に、ビジネスの話とかは関係なく、そういう作品が好きってのもあるし、そういう意欲を持っている人を応援したいってのもあるし、その方が世の中にとっても良い影響を与えるのじゃないかってのもあるのだけど。

 

 そんな風に熱心に審査をしていたからだろう。上の方の審査にも僕の審査内容は影響を与えられた。コンテストの主催者達が僕の審査理由に興味を持ってくれたらしい。そして、僕が推した作品とその理由に、上層の審査員達は納得をしてくれたようで、なんとその作品は入賞がほぼ確実視されたのだった。

 僕はそれをまるで自分の事のように喜んだ。きっと、これを書いた人も喜ぶに違いない。作品から熱意が伝わって来るもの。

 

 ――が、

 

 「あの作品ね。駄目になったよ」

 

 ある日、審査員の一人から僕はそう言われたのだった。僕はそれに驚いてしまう。

 「どうしてですか? 皆さん、あんなに高く評価していたじゃないですか」

 「いや、そうなんだけどさ。作品じゃなくて、著者に問題があって……」

 「問題? 犯罪者とかですか?」

 「いや、そういうのじゃないんだ……」

 なんでも、その作品の著者は、小説投稿サイトにエッセイを多く投稿しているのだそうなのだけど、その内容が問題なのだという。

 「そのエッセイが、反社会的な内容って事ですか?」

 「いや、違う。社会的にはむしろ好ましい内容かもしれない。

 インターネットが普及して、ゲームだとか色々とダウンロードできるようになっているだろう? そのダウンロードしたソフトが安全な内容かどうか分からないってのは、まぁ、今の世の中では常識だと思うんだが、あの作品の著者は、

 “そのソフトが作られた国の法律にも注目をして、国際安全基準を設けるべきだ”

 って、主張をしているのだよ。

 仮に製造元の国が自由に自国の企業の情報を利用できるような状態だったら、利用しているサービスを介して、その国が自由に個人情報を利用できてしまえるかもしれない。もっと、恐ろしい罠を仕掛ける事だって可能だ…… だから、警戒をするべきだ、と」

 僕の頭の上にはそれを聞いてクエスチョンマークが浮かんだ。

 「よく分かりません。それの何が問題なのですか?」

 僕の疑問を聞くと、審査員の人は、「いやぁ」と言って頭を掻きながら、

 「ほら、C国って国家情報法ってのがあって、自国の企業の情報を自由に扱えるだろう?

 つまり、C国にとって不都合な内容のエッセイなんだよ、それ」

 などと説明した。

 僕にはまだ分からない。

 「それがどうかしたのですか?」

 軽くため息を漏らして、審査員の人は答える。

 「うちのコンテストで入賞した作品って、よくアニメ化しているだろう? それがうちの強みにもなっている」

 「はぁ、分かりますが」

 「そのアニメ化されている理由って、C国でうちのアニメ化作品が大人気だからなんだよ。

 だから、C国が嫌がるような作品はあまり入賞させたくないんだよ……」

 僕はその説明に目を大きくした。

 「そんな理由なんですか?」

 言い難そうにしながら審査員は頷く。

 その瞬間、僕の頭の中で審査のチェック項目の謎が解けた。

 

 兄弟姉妹の恋愛、同性愛、反権力……

 

 これら内容は全て、C国で規制されている。

 だから、「低く評価しろ」という指示が来ていたのだ。

 僕の表情で察したのか、審査員の人が困ったような表情で言った。

 「まさか、“C国の規制に気を付けろ”なんて応募要項に書く訳にもいかないしさ」

 

 これはもちろん、法律的に強制されている訳でも何でもない。にもかかわらず、ビジネスを通して、実質的に僕らの国がC国に規制を受けているような状況になっている。

 色々と難しい時代になったものだと僕は思った。

 

 “しかし、こんな時代に書くべき作品とは、果たして、どんなテーマを持ったどんな作品なのだろう?”

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