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うん。分かった。死ぬ。

 ――うん。分かった。死ぬ。

 と、そこには書かれてあった。俺はそれを見て、なんだぁ?とそう思った。それはインターネット上の掲示板に書かれたもので、どうやら俺への返信らしかった。

 俺は某有名匿名掲示板の常連だ。別に何が目的って訳でもないのだが、くだらない不毛な議論を煽るのが好きで、よく書き込みをしている。芸人だとか、政党だとか、ゲームだとか、批判派と擁護派の議論を見つけては首を突っ込む。特に誰が好きで何が嫌いとかはなくても、罵詈雑言が飛び交うような状態に持っていく為に、何かを書く訳だ。馬鹿どもが、それに釣られて熱くなるのを見るのが面白い。からかうのが楽しいみたいなのと似たようなもんだと思ってくれればいいかもしれない。

 口喧嘩が悪化して、泥沼化すると、その状態にしたのが俺自身だという事に満足感を得られる。それが俺の力みたいに思えて、気分が良い訳だ。分からないかな。分かってくれなくても構わないけど。

 もちろん、俺自身だって悪趣味だとは思っているよ。だが、仕事で溜めたストレスを、解消するのには持って来いなんだ、これ。金もかからないし。

 で、

 ――うん。分かった。死ぬ。

 ってな、そんな俺への返信だ。

 時々いるじゃないか。荒れ始めた口喧嘩を治めるような事を書く奴。それを楽しんでいる俺にとっては、そういう奴は邪魔な訳だ。それで、そいつに対して、俺は“良い子ぶってんじゃねぇ、死ね、デブ”ってな書き込みをした。すると、そいつは“――うん。分かった。死ぬ。”とそう返して来たんだ。同じ奴だとは限らないが、何となく同じ奴のような気はする。一瞬、少しビビったが、直ぐにただの脅しだと判断すると、“早く死ね”とそう書いてやった。

 大して気にしていなかったが、次の日、ニュース番組で自殺が報じられていたのを見て、それを思い出した。何でもそいつは家族に「約束したから」と、虚ろな目でそう言って、そのまま首を吊ってしまったらしい。

 誰と何を約束したかは分からないが、インターネットを趣味にしている奴らしく、そこでのやり取りが原因じゃないかとニュースキャスターが言っていた。少しアクセスログを辿れば、どんなやり取りがあったかを見つけられそうだが、そこまで調べたかどうかは分からない。

 それを見た時、俺は“まさかな……”と、そう思った。

 俺はそれからも気にせず、ネット上で煽りをし続けた。もちろん、時には“死ね”くらいは書く。すると、時々だが、それへの返信で前と同じ様に、

 ――うん。分かった。死ぬ。

 と書いて来るのがいた。

 さては、同じ奴だな。俺への嫌がらせか。そう判断した俺は、対抗心を燃やして、更に“死ね”を連発してやった。すると、“――うん。分かった。死ぬ。”とやっぱり返して来る。そのうちに、これじゃ釣られているのは俺の方だと思って止めたが、次の日に驚いた。

 「“約束したから”と、そう言い残して、自殺する人達が増えています。昨日だけでも、実に10人以上の方が、亡くなっており、被害者達は皆、インターネットを趣味にしているという共通点があるそうです。また、自殺の前に様子がおかしくなり、一様に虚ろな目をしている点から、警察は薬物の違法売買を疑い、その方面からも捜査を……」

 その事件を受けて、俺のよく行く某匿名掲示板でも、不用意に“死ね”や“殺す”などの書き込みをしないようにと、警告が出るようになった。騒ぎ過ぎだ、馬鹿馬鹿しい。どっかのアホが勝手に死んだだけじゃねぇか。俺はそうも思ったが、ネットへの書き込みくらいで警察に注意でもされたら、それこそ馬鹿馬鹿しいと判断して、書き込みを止めた。別に怖くなった訳じゃない。実は、他にいいストレスのはけ口を見つけたんだ。

 人件費削減で、長い間、新人を雇ってこなかった俺の職場に、ようやく新人が入って来た。入社以来、ずっと下っ端だった俺に、やっと後輩ができた事になる。しかも、どうやら俺の下に就くらしい。もちろん俺は、そいつをいびってやった。今までの、憂さ晴らしだと思って。これなら、わざわざネットでストレス解消する必要もない。

 ある日、その後輩が簡単なミスをやった。だから俺は「こんな馬鹿なミスやってんじゃねぇ! 死ねよ、お前」と、そう罵ったんだ。すると、次の瞬間、そいつはこう言った。

 「――うん。分かった。死ぬ。」

 俺は驚いて、その後輩の顔を見てみた。後輩の顔からは、生気が抜けていて、その目は信じられないくらいに虚ろだった。

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