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首斬りの鬼  作者: 青梅薄荷
5/11

小刀/白鞘 五

 時はさかのり、数分前。

 栄治が、誠一の姿を見失った時である。


(急がないと)


 誠一は走り、来た道を戻っていた。


(敵は、俺たちを挟み撃ちするつもりだ)


 という誠一の考えは、あながち間違ってはいなかった。

 事実、今この瞬間も諸川と理央に危険がせまっていた。


 ここで疑問がある。なぜ誠一は、無線でその事を知らせず、自分の足を使っているのだろうか。

 その答えは、このチーム(・・・)が出来たばかりだからである。

 無線は全員に聞こえるため、不用意に知らせれば、竜崎らにも混乱をもたらおそれがあったのだ。


 結果論ではあるが、誠一が無線を使わなかった事により、栄治が竜崎たちの援護をした。

 仮に栄治が窓ガラスを割って山小屋に入らなければ、竜崎たちはさらに早く殺され、栄治は長髪の男に加えて5人の敵を相手しなければならなかった。

 つまり、誠一の判断は間違っていなかったのである。


「諸川さん! 上野さん!」


 斜面を駆け下り、車道へ出つつ、誠一が叫ぶ。


「花村君?」


 諸川が、怪訝けげんな顔をしている。


「何かあったか?」

「もうすぐ襲撃されます。備えて下さい」

「なに?」

「それから、無線は使わないように。その余裕も、ないかもしれませんが」


 キュルキュル……


(スキール音……)


 誠一が、暗闇に閉ざされた道、そのカーブの奥をにらんだ。

 スキール音とは、車などのタイヤが路面と激しくこすれる際に発生する音のこと。

 そう。今まさに、カーブの奥から車輌がやってきているのである。


「諸川さん。上野さんを連れて、車を移動させて下さい。ヤツらの狙いは、我々の()です」

「逃げられなくして、全滅を狙うつもりか」

「敵が来ます。急いで」

「誠一くんはどうするの?」

「ここで迎え撃ちます」


 誠一の目つきが、鋭くなっていた。まるで人が変わったようである。


(カッコイイ……?)


 理央は、先ほど抱いたのとは逆の感想に戸惑っていた。


(これは、ギャップ萌え⁉︎)


 赤くなる顔を押さえ、理央が誠一を見つめる。


「さあ、上野さんも車に乗って」

「せ、誠一くん」


 心配する理央をアルファード()に乗せ、誠一がスーツのジャケットを開いた。


「任せたぞ。花村君」

「ええ。It's my business. 私の仕事ですから」


 諸川が、車を発進させる。

 誠一はそのエンジン音を背に受け、ジャケットの内側からグロック19(拳銃)を引き抜き。その延長された銃身に手早く減音器(サプレッサー)を取り付ける。


(さて、と)


 減音器の固定を確認した誠一が、人差し指で眉掻く。

 これは、困った時やバツの悪い時に無意識に出てしまう誠一のくせである。


(もう少し、隠しておくつもりだったが――仕方ないな)


 ヘッドライト消した車が、誠一の目の前にまった。

 黒のレクサス・IS。国産のスポーツセダン車だ。


「そのままけば良かったのに」


 誠一がそう言った。車の中から返事はない。

 その代わり、車の全ドアが開き、中から4人の黒衣くろごのような恰好かっこうをした人間が降りてきた。


(男が3人で、女が1人。武器は全員ナイフ。音が鳴らないよう、銃は使わないつもりか)


 誠一の分析通り、黒衣たちは銃を使わずに戦うつもりのようだ。


 パシュッ……


 誠一が、何の躊躇ためらいもなくグロックのトリガーを引いた。

 銃口から飛び出した銃弾が、敵の1人のひたいを貫く。


(動揺しないか。よく訓練(・・)されている)


 仲間がられたというのに、黒衣たちは一言ひとことも発さない。


(冷静とは違う。もっと、人間味のない……不気味な何か……)


 スライドを引いて、誠一が薬室(チャンバー)から空薬莢(やっきょう)を排出、次弾を装填そうてんする。

 その隙に、と敵が一斉に誠一へ襲いかかった。

 誠一は慌てる事なく、横に転がり飛び、攻撃をかわす。そこへすかさず、女の黒衣が追い討ちをかけた。

 立ち上がりざまに、誠一が迫る女の胸の中心めがけて撃つ。

 ところが、女はよろめいただけで倒れなかった。


(防弾性のあるモノを着込んでいる。だったら――)


 女がナイフを突き出すのに合わせ、誠一が跳び上がった。

 高さにして2mほど。ちょうど、女を跳び越えられる高さである。

 誠一は女の頭上に達すると、前方宙返りをしつつ女を跳び越え――

 ――着地の寸前、女の後ろ首、うなじに小柄(こづか)と呼ばれる小刀を刺した。


 カクンッ、と女が膝から崩れ落ちる。

 誠一は女から小刀を引き抜くと、既に再装填を済ませていたグロックを構えた。

 一陣の風が吹く。木々の葉がこすれる音にまぎれて、グロックの発砲音が小さく鳴った。


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