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首斬りの鬼  作者: 青梅薄荷
4/11

小刀/白鞘 四

「……がっ」


 竜崎が脱力した。死んだのだ。


「よくもまあ、俺の生徒を殺してくれたな」


 竜崎の体を地面に転がし、日本刀を携えた1人の男が姿を現した。長髪を後ろで括った男である。

 他の敵と同じく黒衣くろこのような服を着ていて、顔の下半分を黒い布で隠している。


「気を付けろ。私の盾を斬ったのはヤツだ」


 腹の傷を押さえつつ、三谷(さんや)が上半分だけになった盾を構える。銃――MP5(サブマシンガン)は戦闘の途中で紛失したらしい。


 長髪の男がニヤリとわらい、駆けた。上段から三谷を斬るつもりである。

 栄治は、その動きに反応していた。対して、三谷の判断は間違っていた。

 腹に傷を負っているにもかかわらず、自分から敵に向かっていったのである。年少の栄治を護ろうとしたのだ。


 振り下ろされた刀を、三谷は盾で受け止めた。しかし、三谷は首を斬られていた。

 不可解な事であった。はたから見ていた栄治にも、何が起こったのか理解できなかった。


「むっ」


 暗闇に火花が散った。長髪の男が、何かを斬ったのである。

 何を斬ったのか。それは、銃弾であった。


「朝田君。ソイツはESP(エスパー)だ」


 木のかげから出てきたのは、誠一だった。

 誠一は、グロック19という拳銃を握っていた。


 そのグロックには、一般的なものより短い減音器(サプレッサー)と、ドットサイトが付けられている。B&T・ハッシュパピーというキットを使ったカスタムがなされているのである。


「花村さん!」

「俺が動きを止める。隙を見て、仕留しとめろ」


 誠一が、グロックのスライドを引いた。


 竜崎や正木が使っていたオートマチック拳銃では、銃弾を撃った後の空薬莢(やっきょう)は自動的に排莢はいきょうされ、同時に次弾が装填そうてんされる。

 通常のグロックであれば同じように動作するのであるが、誠一のグロックにはスライドをロックする機能があった。

 この機能により、手動で排莢と次弾装填を行わなければならないが、代わりに薬莢をその場に残さずに済むのである。


 一長一短。メリットとデメリットは表裏一体なのだ。


「伏兵か」


 長髪の男がそう呟き、刀を上段に構え直す。

 三谷の体が地面に倒れ、栄治の目にも男の全体像が映るようになった。

 右上段に構えられた刀とは別に、鏡写しのように左上段に刀が浮いて(・・・)いたのである。


(超能力者……サイコキネシスか)


 栄治も、その存在は知っていた。ただ、このように対峙たいじしたのは初めてである。


 パシュッ……


 耳を澄まさなければ聞こえない音量で、銃弾が発射された。誠一が射撃したのである。


 誠一は亜音速(サブソニック)弾と呼ばれる特殊な弾を使って、銃弾の速度がマッハに達する際の音すら消しているらしい。

 同じく減音器が付けられていた竜崎の銃(SFP9)の発砲音が聞こえ、誠一の銃(グロック)の発砲音が聞こえなかったのは、そういう理由である。


「チッ……」


 長髪の男が、刀で銃弾を振り払う。

 超能力に加え、剣の腕も達人級……恐ろしい相手である。


(この勝負、長引く)


 栄治と長髪の男は、共にそう感じていた。

 彼らの剣術は、高いレベルで拮抗きっこうしている。だが、超能力という一点が、栄治よりも長髪の男を優位に立たせていた。

 しかし、その一点も、誠一の援護により無に帰しているのである。

 つまり、膠着こうちゃく状態なのだ。


(先に拳銃をるか?)


 長髪の男がそう考えたタイミングで、誠一がグロックのトリガーを引いた。


(やはり、あちらの方が厄介だ)


 刀で銃弾を弾いた長髪の男は、誠一から狙うよう決めた。

 その狙いを看破かんぱしたのか、誠一が予想外の動きを取った。長髪の男へ向けて、一目散に近付いたのである。


「……来いッ」


 男は、誠一が近付いてくるのを、


(むしろ、好都合ッ)


 と考えた。

 だがしかし……


「朝田君!」

「はい! 花村さん!」


 別方向から、栄治がせまっていたのである。

 直角に交わるような角度で、2つの方向から誠一と栄治が長髪の男へ攻撃を仕掛ける。

 これには長髪の男も、面を食らった


(ならば、1人ずつ刀でさばいてやるッ)


 そう。長髪の男には、刀が2つある。

 誠一と栄治、片方を手で握る刀で斬り、もう片方は超能力で操る刀で斬ればいい。それが、この男の勝算であった。


「たァ!」


 長髪の男が誠一に袈裟斬りを浴びせるが、誠一は紙一重かみひとえけた。さらに避けざま、銃弾を男の太ももに撃ち込んだ。

 さすがに長髪の男も、只者ただものではない。誠一の射撃を読み、足をわずかに動かして銃弾を回避していた。


 超人同士の読み合いと攻防である。


「ハッ!」


 一連の動作が終わるまさにその時、栄治が横一文字に斬りかかった。

 長髪の男は、栄治に対して横を向いている。勝負あり――かと思われたが……

 栄治の斬撃は、超能力で動く刀で受けられていた。長髪の男の作戦通りである。


「そのまま押せ!」


 誠一の指示に従い、栄治が鍔迫つばぜり合いを始めた。

 宙に浮く刀との斬り結び。世にも奇妙な光景である。

 次の瞬間、長髪の男が腹から折れ曲がった。

 誠一が左拳で、殴りつけたのだ。


「ぐっ……」


 誠一の一撃はすさまじい威力を帯びていた。

 拳の速度は、時速にして70㎞に達していた。常人の技ではない。


「今だッ」

「しまった……っ」


 誠一の拳を受け、長髪の男は超能力を弱めてしまっていた。

 栄治はその隙を逃さず、左手に持っていた鞘を捨て、両手で素早く刀を握り直した。


最大出力(フルパワー)だッ)


 一瞬の出来事であった。

 栄治は全身に力をめると、左から右へ宙に浮く刀を弾き飛ばし、返す刀で男の喉を斬り裂いた。


しい……逸材いつざい……」


 最期の言葉と共に、長髪の男が苔生こけむした地面に倒れ込む。


「見事だ」


 鞘を拾い上げた誠一が、栄治へ手渡しながら言った。


「ありがとうございます。花村さんのサポートがなければ、たおせませんでした」

世辞せじはよせ。それよりも、山小屋の中を確認するぞ」


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