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首斬りの鬼  作者: 青梅薄荷
2/11

小刀/白鞘 二

 黒い大型ミニバン――トヨタ・アルファード――に乗った誠一らは、諸川の運転によって有楽町から西へ移動していた。


 車に乗っているのは、由美を除いた全メンバーである。

 運転席に諸川、助手席に正木、2列目に竜崎と三谷、3列目に栄治・理央・誠一という席順である。


「どこへ向かってるんだ?」


 という竜崎の問いに、


高尾山(たかおさん)だ」


 諸川は端的に返した。


「そこに、何があるんです?」

「私も気になります」


 正木と理央が訊く。


「山小屋だ。とある組織の息が掛かった……な」


 竜崎がニヤリと笑う。うつむいていた三谷も顔を上げた。


「その組織の名は、『百足(むかで)かい』」


 その名前に、諸川以外は聞き覚えがなかった。


「百足の会は、複数の暗殺者を飼う組織だ。つい最近まで目立った動きもなく、その存在は浮上してこなかった」


 諸川が話を続ける。


表沙汰おもてざたになっていないが、1ヶ月前に暗殺者が捕らえられた。その者の口から出たのが――」

「百足の会」


 ぼそり、と栄治が言った。


「推察の域を出ませんが……百足の会というのは、暗殺者たちの斡旋あっせん業者ではないのですか?」

「その通りだ。花村君」


 車内でずっと黙っていた誠一が、手を挙げつつ言う。


「それで、俺たちは何をすればいい?」

「強襲だ」

「山小屋を、ですか?」

「そうだ。山小屋に、何人かの暗殺者が待機しているという情報も引き出された。我々のミッションは、それを確認しに行く事だ」


 諸川の言葉に眉をひそめたのは、竜崎と三谷だった。


「俺たちは斥候せっこう役かよ」

「情報が間違っていれば撤退、合っていれば強襲。便利な駒だ」


 竜崎に続き、無口なはずの三谷も、


(思わず)


 という風に口を開いた。


「そう言わないでくれ。私も上から命じられたんだ。それに、強襲が成功すれば、このチームは正式に認められる」


 三谷は閉口したものの、竜崎は納得がいかない様子である。

 一方、正木は便利な駒という扱いに諦めを抱いていた。


(僕はどうせ、爪弾つまはじき者だしね)


 正木という男、複数の女性と関係を持ち、同僚たちからも煙たがられていた。

 それでも、


(女性は人生のいろどり)


 という考えを捨てない、ある意味では芯の通った人物であった。


「難しい話はやめて、単純に考えましょうよ。ミッションを達成したら、私たちの懐にお金が入ってくる。そういう事でしょ?」


 理央が明るい口調で言う。車内のムードを変えようとしたのだ。

 決して、彼女が一連の話を理解できていなかったわけではない。理解した上で場をなごませたのである。


「上野君の言う通り。私も含め、君たちは与えられた仕事をこなせばいい。単純明快な話だ」


 諸川がそう締めると、他の面々は誰も喋らなくなった。


「なんだか、みんな怖い雰囲気だね。誠一くん」


 そんな中、ヒソヒソ、と理央が誠一に耳打ちをした。

 理央は、おとなしそうな誠一に好感を持っていた。みなの前では名乗っていない、下の名前(・・・・)を聞き出すくらいには。


 実は、これまで理央にちゃんとした(・・・・・・)恋人はいなかった。仕事上、一歩手前(・・・・)まで行った男はいたが、あくまで手前止まりだった。

 今年で23歳になる理央としては、


(そろそろ恋人が欲しい)


 のである。

 その候補として、誠一はちょうど良かった。特に、マジメそうな点が理央の心を掴んだのだ。


(成人しているようだし、未成年淫行にも引っかからない)


 という点も、恋人候補にした理由の1つであるようだが。


「そうですね。みなさん、緊張しているんでしょうか」


 自身の方が緊張していそうな声で、誠一が理央に耳打ちを返す。

 その様子が、理央の目には、


(カワイイ……)


 そう映ったようである。

 もしも誠一が、年上である理央と会話する事にドギマギとしているなら、彼女にとっては嬉しい事であった。


(……)


 そのような会話が繰り広げられる横で、栄治はただ静かに瞑想めいそうしている。

 理央と誠一の声を鬱陶うっとうしがっているのではない。戦いにおもむく前の、ルーティンなだけである。

 それはつまり、栄治が戦いを予感している事を示していた。


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