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首斬りの鬼  作者: 青梅薄荷
10/11

科学の弓/透明の矢 三

 その頃、カフェバー『Kanzashi(かんざし)』は夜営業の真っ只中であった。

 店内には何組かの客がいて、騒ぐでもなく、思い思いに語らいながら酒を呑んでいた。


「これ、4番テーブルに」

「はい!」


 給仕服に身を包み、盆に乗せたワイングラスを運ぶのは、美奈である。先日ここに預けられてからというもの、美奈はKanzashiの手伝い(・・・)をしていた。

 その様子を、栄治と理央が厨房からうかがっている。


「イキイキいてるわね。家でもあんなカンジなの?」

「……ええ、まあ」


 美奈の護衛を任された栄治は、一人暮らしをしているマンションの一室で、彼女と寝食を共にしていた。そうはいっても、栄治は真面目な男子であるがゆえに、寝室は分けているようではある。

 そんな生活も、既に1週間が過ぎていた。栄治から見て、美奈は料理などの家事全般を楽しんでいるようであった。いかに効率的に、高クオリティに仕上げるかを試行錯誤しているようにも思えた。

 そのため、


(ここでの仕事は、彼女に向いているかもしれない……)


 と、栄治は感じている。


「ところで、長谷沢さんってどんな子なの?」

「長谷沢さんですか? 学年も下ですし、あまり係わった記憶がありませんが……いい評判も悪い評判も聞こえてきますね。人間関係が、良くないようです」


 長谷沢クレハは、今年で17歳になる高校2年生だ。栄治と同様、私立研宮(とみや)学園に通っている。

 研宮学園には、誠一の弟である景介も在籍しており、クレハと同じく高校2年生である。ゆえに、クレハが景介の存在を知っていても不思議ではなかった。

 ここまで度々(たびたび)名前だけが話題に上がる花村景介という人間、その登場はもう少し先になりそうである。

 しかし、今はその事よりも、栄治と理央の会話(・・・・・・・・・)に戻らなければいけないだろう。


「彼女は、どんな内容でも依頼を引き受けるそうです。しかも、ちゃんと成功させる。ただ……」

「ただ?」

依頼者(クライアント)が女性の場合にのみ、仕事をするのだとか」

「極度の男ギライって事かしら」

「そのように噂されています」


 栄治が語る通り、今回の件も荻野モエという女が関係している。正確な依頼者はモエの父親であるが、彼女が依頼者といっても過言ではない。つまり、クレハが依頼を引き受けてもおかしくないのである。


「だったら、男所帯(・・・)の私たちのチームとは、りが合わないかもね」





 事態が動いたのは、翌日の夜――時間にして午後7時頃の事であった。

 金髪の男の証言から、荻野モエの身に差し迫った危機はないと判断した諸川は、花村誠一と長谷沢クレハに彼女の護衛を任せていた。

 同時刻、諸川を含めた残りのメンバーは別の仕事を行なっていた。釈放した金髪の男の尾行である。

 諸川、上野理央、朝田栄治の3人が交代しながら男をけていくと、とあるマンションに辿り着いた。何を隠そう、杉田が住むタワーマンションである。


「大学生でタワマン住みって、スゴいわねー」

「薄っぺらな感想だな。上野君」


 金髪の男に一度アルファードを見られているため、車での張り込みは厳しいと判断した諸川は、自身と理央を徒歩の状態でエントランス付近に立たせていた。


「じゃあ、諸川さんは何て思うんですか?」

「親の七光りだな、と」

「私と大差ないじゃないですかっ」

『しっ。出てきましたよ』


 別の場所から見張っていた栄治から、無線が入った。

 2人は植え込みに身を隠し、エントランスから出てくる杉田と金髪の男、それに数人の不良を見つめる。

 ツーブロックに剃り込みを入れた杉田は、夜だというのにサングラスを掛け、部屋着のままなのか上下スウェット姿であった。

 その杉田が、不良たちに、


「早く行け」


 と、指示を出した。

 すると、不良たちはおとなしく従い、マンションから離れていった。


「杉田が駐車場に入った。朝田君、頼んだぞ」

『了解しました』


 しばらくして1台のスポーツカーが、駐車場から出てきた。乗っているのは、杉田である。

 公道を走り始めたその車の後ろを、ホンダ・CB650Rにまたがった栄治が、距離を空けて追跡していく。


「よし、我々も行こう」


 それを見届けてから、諸川と理央は離れた所に停めていたアルファードに乗り込んだ。

 発進したアルファードの先では、栄治の駆るCBが走り、さらに先を杉田の乗るスポーツカーが走っている。その向かう先は、とある廃工場だった。

 杉田が廃工場に到着したのは、駐車場を出てから30分後の事である。

 車を道路の脇に停めた杉田は、廃工場の中へと入ると、ひび割れて積み重ねられたガラクタ(・・・・)の山から、1つの金庫を取り出した。

 金庫をよくよく確かめた杉田は、カチリ、カチリ、つまみ(・・・)を回して番号を合わせていく。やがて、音を立てて金庫が開いた。

 そこへ、栄治が暗緑色のコートを僅かに揺らしつつ現れた。


「ひっ……」


 いつの間にか背後に立っていた栄治に驚き、杉田が悲鳴を漏らした。


「その金庫を渡してもらおうか」

「だ、誰だ⁉︎」

「知る必要は無い」


 そう言うやいなや、栄治が鞘の先で杉田の腹を突いた。杉田は、声を発する事もできずにうずくまる。

 栄治は、杉田から金庫を取り上げると、中身を確認した。

 金庫に入っていたのは、金の延べ棒(インゴット)が3本、高級腕時計が2つ、その他にいくつかの宝石類であった。脱税によって得た利益を現金化するためのものである事は、疑いようがない。


「見つけました」


 栄治が左の袖口を口元へ近付け、そう言った。無線で、諸川に連絡を入れたのである。


『分かった。我々が着くまで、そこで待機していなさい』

「杉田はどうしますか?」

『可能なら、拘束しておいてくれ』

「分かりました」


 通信を終えた栄治が懐から手錠を取り出し、うずくまったままの杉田の両手に掛けた。

 湿しめった空気が辺りを満たし、空には朧月おぼろづきが輝いている。事件はこれにて終幕かと思われたが、栄治たちの知らぬ所で、新たな展開を迎えていた。


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