"神の声"の声優が本場の"神の声"に会う話
この作品を選んでいただき誠にありがとうございます(_ _)
「確かに本場のを聞いてみたいって思ったけど……いきなりこれはないじゃん!!」
目の前に広がるのは地平線まで見ることのできる何にもない草原。この広さだと北海道でもありえないだろう。
いや、さっきのなにもないっていうのは少し語弊がある。
正確にはスライムが一匹ぽよよんと気持ちよさそうに漂っているのが見えた。
どうしてこんなことになっているのか、時は数時間前に戻る。
◆◆◆
この日も仕事帰りで夜遅い帰宅となった。
本庄楓。28歳で声優をしている。
趣味は漫画集めで、好きな食べ物は…………って、こんな話はどうでもいいんだ。
私はもともと漫画が好きで、もちろんアニメも大好きだった。特に漫画や小説からのアニメ化などは欠かさず見ている。
漫画や小説では紙の上でしか存在しなかったキャラがアニメでは動いて喋る。そんなキャラクターに命を吹き込む仕事がずっと私の憧れで、だからこそ声優という仕事が私の夢だった。
声優として活動し始めたのは大学卒業してからだから、、かれこれ5年? くらいにはなるのかな。はじめの頃はなかなか役がもらえなくて苦労したなあ。今は仕事も順調で日々健康……と言いたいところなんだけど、実は悩みがある。
人間一つやニつ悩みは抱えているもの。
そして私が今抱えている悩みは
"イメージができない"
である。
最近では漫画やアニメでも"異世界"ものがよく流行っている。転生したり召喚されたり、異世界に行く理由は様々だけど、そこで一つ共通点があるのだ。必ずしもいると言っても過言ではなかろう"神の声"。作品によって天の声だったり大賢者だったりと呼び方は色々あるけれど、要するにスキルやレベルが上がったときに頭に響くような、例のアレだ。特にチートものとかで聞く。
その神の声、勿論だけれども日本にはない。というか地球には存在しない。ということはイコール想像ができない、なのだ!!!!
あの無機質な感じというか、棒読みな感じというか……想像がつかない分自分がやると言われるとこの上なく難しい。
そしてざんね……とてもありがたいことに先日、この仕事を引き受けてしまったのだ。
なんでも私の声を聞いてこの人しかいないとか思ってくれたらしく。そう思ってくれたら相手の期待以上の仕事をこなしたいのが声優の志というもの。
是非!! といったものの今現在自分のできなささにもがいているところです。
うーん……。なにかいい方法はないものか……。
頭の中に響いてくる声って想像できないし……実際聞いてみたらわかるのかな。いやいや、どうやって聞くって話だし。
と疲れ果ててそのままベッドへとダイブした私。
化粧落とすのは……後ででいっか。ご飯はあんまりお腹すいてないからいらないし、ちょっと仮眠とってから明日のこと考えよう。
この仮眠を取ってしまったのがいけなかったのか。
目が覚めるとそこは…………見知らぬ世界だった。
◆◆◆
え、ちょ、これどうするべき……?
スライムって一応敵キャラだよね……? いやいや最近は魔物、魔族=敵と考えては痛い目を見るのはこちらだ。
ラノベの公式的に動けば、
1、少女漫画風に助けてくれる格好良さげなお兄さんをまつ。
2、自分で死ぬ気に倒しにいく。
3、お友達になる。
……私的には是非1がきてほしいものだけれどそう簡単にいかにのが人生。
しかもこんな広いところ、助けてと大声で叫んだところで誰にも届かないだろう。
じゃあプラン3か? 初めての友達がスライムってどこかで聞いたこともあるような気もしなくはないけれど……まあいっか。
友達になるためにはひとまず近づく必要があると思い、ジリジリと近づいていく。
やあと話しかけようとした瞬間になんとスライムはいきなり飛びついてきたのだ。
べちょっと顔に張り付く。
あ、やばいやばい。これ剥がさないと窒息死する。
一度命の危険を感じ、プラン3からプラン2にかえる。
でいっと力ずくで剥がし、地面へ投げつけるとスライムは液状になって消えてしまった。
これは……倒したと言ってもいいものかね?
『モンスター、スライムを倒しました。スキル、液状体制を会得しました。
条件が一定に達しました。レベル1からレベル2に上がりました』
!?!?!?
突如頭に中で響いた声。これは噂の……神の声、大賢者と言われたやつでは……!!
でもさ、ふーむ。たぶん気の所為だ。そうだ、きっと気の所為だ。違和感はそっと心の中でしまっておこう。
こんなところで突っ立ってても始まるものは始まらない。ひとまずは人がいるところまで歩いていってみよう。
言語が通じるかもわからんしもしかしたらここが地球……ってことはさっきのスライムと神の声でわかったから期待はできないとして。
しかもさっきまでベッドの上にダイブしていたのもあってなんということでしょう、裸足ではありませんか!
ここは気合で乗り切るしかないよねー……。
歩きはじめて数時間、日も落ち始めあたりは暗くなってきた。これは……もしかしなくてもやばいんじゃないか?
こんなだだっ広い草原に真っ暗の中突っ立ってるって襲ってくださいって言ってるようなもんじゃん。
まだまだ道は見えないけれどもうこれ以上痛くて足が動かせないのも事実。
ここで死んじゃうの? こんなどこかも、私の死体を見つけてくれる人がいないかもしれない状況で? 絶対に嫌だ!!
でももしかするとこれは夢だったっていうオチかもしれない。一度寝て目を覚ましたらいつものマイホームにいるのかも。
そういえばお昼から何も食べてないや。
視界が少しずつぼやけてきた。眠気と空腹と痛みがわけのわからないことになっている。
もう、いいや。寝てしまおう。歩いててスライムしか見なかったし痛い思いして死ぬことはないだろう。
全部投げやりになって草原に横になる。
草の匂いが直に感じられこれは夢じゃないんだなとどこか遠いところで冷静な私がいた。
ゆっくり目をつぶっていく。そういえばあの神の声、まだ気になることがあったんだけど………………。
ここで私も意識はできません途絶えてしまった。
◇◇◇
意識がふっと浮上してくる。
あれ? 私、死んでなかったのかな。明るい気がする。朝になった? でも草の香りがしない。
そこでようやく意識がはっきりしてきて目を覚ます。
見知らぬ天井。改めて感じる背中に触れる少し固めの感触。
どこを見ても私の自室ではないことは明らかだった。
「!! お目覚めになられたのですね!? 少々お待ち下さい! 今司祭様をお呼びしますね!」
ばたんと扉の締まるような音がした。おそらくこの声の主が部屋を出ていったのだろう。
…………??
私はいったいどういう状況なの? 体は……動く。声も、あー、あー、、異常なし。
よいしょと起き上がってみる。さっきの声の主は姿が見れなかったからわからないけど、きっと女の子だ。声が可愛かった。私と正反対だからか、とても惹かれるところがある。
部屋をできる限り見渡してみたところ、机と小さな本棚が一つ。中には数冊の本が入っている。それ以外はベッドの横にあるサイドテーブルとこのベッドしかない。
私ってここ来る前まで草原で力尽きてたよね……。服は……変わってるってことは誰かが着替えさせてくれたのかな。
あれこれ考えているうちに扉が小さな音を立てて開き、10歳と少しくらいの女の子と、いかにも人が良さそうなおばあさんが入ってきた。
「おや、もう起き上がれるようになったのか? 少し触らせてもらうね。……熱は、、ひいたみたいだ」
おばあさんがあれやこれやと世話を焼いてくれた。ついでにここはどこだと聞くと、いろいろなことを教えてくれた。
この国はヴァルダ国で日本という国は聞いたことがないということ。
ここはヴァルダ国の小さな教会で、おばあさんは司祭様だということ。(少女、クレアはお手伝いらしい)
私は丸一日眠っていたこと。
どうやら私はヴァルタ大草原というところで死んだように眠っていたようだ。誰が見つけてくれたかというと……
「目を覚ましたって本当か!?」
いきなりパッと見私と同じくらいの青年が、ドアを壊しそうな勢いで部屋へ入ってきた。
「こら! カエデがびっくりするだろう! ただでさえ病み上がりだ。少しは静かにせんかい!!」
そう言われしゅんとなっているのは、きっとさっきおばあさんが言っていた"アラン"という人だろう。
この人が倒れていた私を見つけてここまで運んでくれたらしい。おばあさんとは昔からの顔なじみで一番近い頼れるところがここだったそうだ。
「あの、、アラン……さん。昨日? はありがとうございました。危うくわけもわからないまま死ぬところでした。おかげで助かりました」
そう言って深々と頭を下げる。と同時にアランさんの目が見る見ると見開かれていった。
「おま……どういうことだ……!?」
どういうこととはどういうことだ?
おばあさんやクレアちゃんはやれやれといったような様子で、しょうがないというふうにうつむいている。どうやらこの場所で状況が理解できていないのは私だけのようだ。
「婆さん。カナデ……だったか? こいつあれじゃないか? 十年前くらいに予言されていた"異世界人"……」
「いや、でも確信はもてん……。ただ声が一緒……似ているだけでお告げの異世界人とは限らん」
声。
もしやおばあさん達は私の声にてついて話しているのか? やはり私が感じた違和感は間違いではなかったのだ。
"神の声と私の声が瓜二つである"
一番初めにこの世界の神の声を聞いたときおかしいとは思った。だって自分の声が意図せず頭の中に響いたらビビるだろう。人間、自分の中で響いている声と周りが聞こえている声は違うと言うけれど私だって声優の端くれ。自分の声くらいもう何度も客観的に聞いている。
その声が全くと言っていいほど一緒なのだ。一人だと確信が持てなかったけれど、流石に3人に言われると信じざるを得ない。
それよりも私はさっきアランさんが言っていた"予言にあった異世界人"という方が気になる。私、なにかされるの?
「……ひとまず、国に報告しなければいけない。だがそうしてしまうとカエデはどうなる? 予言にある異世界人だからそう酷い扱いは受けぬと思うが確実に自由はなくなる」
「…………そう、だな。せっかく助けたやつが意図せずそんな生活になってしまうなんて俺が許さねえ」
「カナデはどうしたい?」
おおう、いきなりですね……。
私は今、情報多々で頭がパンクしそうです。でもこうして選択権を私に与えてくれるっていうのはおばあさん達の人の良さが滲み出ているのだと思う。
どう、、しようか。ここにいても今のままだと迷惑になるだけだ。でも自由がなくなるってなんか怖いし……。
「その……お告げ? があったところって教会だったりします?」
きっと私の声と神の声が瓜二つなのにはわけがあるはずだ。教会とかだったらなにかわかることがあるかもしれない。
「教会……ではあるのだがこんなちっぽけなところじゃない。ヴァルタ教会。国一番、いや、世界で一番大きな教会だ」
ビンゴ!
「できればその教会に行くことって可能ですか……? 確認したいことがあるのです。絶対バレてもおばあさんたちが被害を被るようなことはしません!!」
とりあえず押し通す! ここで諦めたら一生後悔するような気がする。
「そこまで言われると……、はぁ。仕方ない。私もついていく。ついでに護身用としてアランも連れて行くぞ。最後にカナデ、お前は絶対に喋るな。少しでも喋ると教会の奴らに気づかれてしまう」
よし、勝った!! そして念には念を入れられ、私は顔がすっぽり隠れるローブまで羽織ることになった。
ヴァルタ教会までは馬車でも軽く2日はかかるそうだ。クレアちゃんはお留守番らしい。
ニ時間後、準備を整えた私達は出発した。
◇◇◇
「こちらでございます」
移動は……一言で言うととても、とてーも長かった。だって約2日かかった上に馬車よ? 車でも相当痛そうなのにそれよりももっと乗り心地の悪い馬車だ。おしりが割れそう。
連れて行ってもらっている身でこんな愚痴はこぼすことができず。一日だけ宿を取って早朝、3人でヴァルタ教会に足を踏み入れた。
案内されるがままに移動し、ついたのは聖堂、椅子がたくさん並んでいて前方中央には大きな女神の像が飾られている場所についた。
ヴァルタ教会では貴族でも平民でも、まず初めに祈りを捧げなければいけない。またまた椅子に座りっぱなし30分だ。今度こそおしり割れるかもしれない。
これは常識なようでおばあさんもアランさんも流れるような動作で近くにあった椅子に座り、手を胸のあたりで組んで目を閉じる。私も見習って同じように目を閉じた、、、瞬間だった。
ふわっとしたなんとも言えない感覚に襲われる。
思わず目を開けると真っ白の空間に私は佇んでいた。頭がはてなマークでいっぱいにうまり、溢れ出てきたところでその人は現れた。
『おお、おお、ようやくきよったか。随分と待ちくたびれたぞ。我が妹よ』
目の前にいきなり現れた美を司ってるって言われてもおかしくない美しすぎる女性。
びっくりしすぎて声が出なくなっちゃった。……ってちょっとまって? 今このヒト、私のこと妹って言った?
「えっ……と、人違いではないでしょうか……。私は生まれた時から一人っ子ですし、申し訳ありませんが貴方様にも見覚えがありま、、せん」
確信が持てないのは、自惚れかもしれないけれど、この美しすぎる顔にどこか私と同じ面影があるということ。それと声が瓜二つというところだ。
『それは仕方のないことじゃ。お主を人間界に送り返す前にすべて記憶を封印したからのう。我は反対したのじゃ。だがどうしてもという他の神たちの意見に逆らえんかった……何故記憶を封印しなければいけないのか、わけがわからぬ』
……ちょっと色々わからないことが多すぎるね。またまた情報多々でパンクするよ?
要約すると、、
私は目の前にいる神様の妹で神様の見覚えがないのは私が生まれる前に記憶を消していしまっているから、、っていうことでいいのかな?
じゃあ私はもともと神様だったっていうこと? そう言われてもすぐにピンとこないけど……。
『我は声担当じゃからな。もともと我らは二人で一つだったんじゃ。それが一人になったらもう大変でのう……。最近は録音したやつを流しておる』
それはきっと神の声のお話だよね? やっぱり神の声はこの神様だったんだ。道理で私の声と似ているわけだ。
録音使ってるって言ってたな。結構ズルな気もするけれどそもそも録音というのがこの世界にある方がびっくりだ。
『ということでの。カナデはそろそろ帰ってきてくれ』
「え、それは無理」
なんでじゃ!? と大声で講義する神。
いやいや、いきなり帰ってこいとか言われても未だに私が元神だったっていうことに違和感感じまくってるんだよ?
『じゃあいつ帰ってくるのじゃ!?』
「いつ……かはわからないけどせめて人生が終わるまでは満喫したいね」
できれば日本がいい。こっちでも親切にしてくれる人はたくさんいたけど、日本にも仕事を残してきている。
『なら、、仕方ないのう。カエデの人生が終わるまでじゃぞ? 人間の寿命は短いからのう……。それくらいは我は心が広いから許してやろう』
意外と素直で物わかりがいい神様だった。
「そういえば、名前は?」
さっきから神様神様言っているけど私も元神何だったら呼び名に困る。そう思って尋ねると少し悲しい顔をして神様は答えた。
「カナデじゃ。次会うときまでしっかり覚えておくのじゃぞ」
と、その言葉と同時に視界がぼやける。
"戻る"と本能で感じた。
そのまま私はかすかに襲ってくた揺れに身を任せるように目を閉じた。
◇◇◇
「確かに日本がいいって言ったけど、、なんにも言わずにこっちに戻ってくるのもどうかと思うな……」
目を開けるとそこは住み慣れたマイホーム。戻ってきたようだ。
……せめておばあさんとアランさんにはお礼言いたかったな。いきなり消えてさぞびっくりしただろう。本当に申し訳無い……。
時計を見るとまだ私が疲れきってベッドへダイブした時間から一時間と経っていない。けれど私の鮮明すぎる記憶と少し薄汚れた服がさっきの出来事を現実だと告げている。
そういえば私、何でこんなことになったんだっけ?
確か神の声の依頼を受けて本場を聞いてみたいって思って……、もしかしてやっぱりそれが原因?
……ま、いいや。色々あったけどちゃんと聞けたし、これでイメージもバッチリできる。私の知られざる過去も知ってしまったわけだけれども結果オーライ、、ということにしておこう!!
♢♢♢
数年後、本庄楓は神の声として多くの人に知られることになる。
「やばい、まじで神の声に適任すぎるww」
「もうこれ聞いたあとだったら他の大賢者の声が偽物に聞こえる問題が発生して草」
などのコメントを数多く残したとか残してないとか。
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