夜光虫、ラムネ、魚
ラムネのビー玉を取るのに瓶を地面にたたきつけたら君の目に入ってビー玉も割れてしまった。血と涙にガラスが浮かんできれいだった。痛いと言って泣くからごめんね、ごめんねと言って僕の目も痛くて君が泣くのが悲しくて一緒に泣いた。すぐに中学生が気づいて駄菓子屋のおばちゃんを呼んでくれて病院までついていって、あんまり泣くので僕も怪我をしたのかと心配された。駆けつけた君のお母さんはスーツの襟元ひらひらさせて、君と同じつり目がちの綺麗な人だった。
でも僕は人の目をつぶした悪い子になったから学校にも居場所がなくてお父さんとお母さんはどうして僕がこんな風に育ってしまったのか毎日泣いたり怒ったり忙しくて、とうとう僕をおじいちゃんとこに預けてしまった。おじいちゃんとおばあちゃんはそのことを聞かなかったけど、やっぱりあの子が心配だと言って僕はずっとひとりだった。
僕は高校生になって広い畳の家にばあちゃんと二人暮らしている。友達ができて勉強はする必要もなくて絵を描いては先生に怒られ、諦められ、漫画研究会に入り浸って小説を読んでいる。遠いはずの僕のクラスに片目を布で覆ったポニーテールの女の子もいる。ポニーテールの彼女と、バイト終わりの僕は夜、二メートルくらい空けて堤防の上によく座っている。一ヶ月くらいしてぽつぽつ話し出した。ガラス玉みたいな涙も見た。瞳の奥も。
――それから君は夜の海辺に立つと夜光虫が見えると言うようになった。僕に見えるのは砂浜とそこに打ち付ける波頭だけなのに、目のなかに埋まった破片のせいだろうか。
一年生の終わりが近づいた日に深海魚が一匹打ち上げられて以来、君のポニーテールはばっさり切られてどこかに揺蕩っている。