5話
「と、とりあえずどうすれば!?」
とりあえず、外に出るか……それとも、小屋に籠城するか? いや、ここを壊されるとまずい……。
くそ、どうすれば……!? ジオラマを前に、おれは頭を抱えた。そうこうしている間にも、ゴブリン達の人形はこちらに向かってくる。
「はっ!? ゴブリンが敵対的だと誰が決めた? 新しくご近所さんに挨拶という可能性も……!?」
『ないない。諦めてポイントゲットしましょうね~?』
「いやいや、おれが戦えるわけないだろ!? こちとら、引き籠りのレイアウト職人だっての!!」
くそ、こんな事なら学校の柔道の授業、真面目にやっときゃよかった! いや、そもそも柔道って、ゴブリンと戦うのに有効なのか!? あいつら腰蓑一丁なんだが!!?
だー、そんなことは今はどうでもいいだって! どうすりゃいいんだよ!?
『あの~、ユーザー? あんな言い方しといてなんですが、ユーザーは最強の必殺技がありますよね?』
「は? おれにそんなもんあるわけ……え? マジで???」
『普通に、ぷちっと殺っちゃえばいいじゃないですか~♪』
ぷち……。え? もしかして、アレか? 指先一つでダウンさ~って奴か?
「い、いいのか? それでいいのか!?」
『いいのです、それでいいのですよ~! さぁ、れっつじぇのさいどっ!!』
くそ、なるようになれだ!
おれは小屋のドアを開き、外へと飛び出す。えーっと、どっちだ? ジオラマを確認すると、ちょうど池の向こう側、小屋とは離れた方向から向かってきていた。
まだ、距離はある。しかしーー
『早くしないと接近されちゃいますよ~。接近されちゃったら、ぷちっとする時に自分も巻き込んじゃうかもですよ~?』
そう、この攻撃方法は接近されたら弱い……というか、自分が巻き込まれる可能性がる。
ならば……距離がある内に殺るしかない!!
「くっそぉっ!! 殺さないと殺される……死にたくない。おれは、まだ死にたくない。死にたくないんだよ!!!」
だから、ごめんっ!
おれは、その手をジオラマに向ける。迷よわないように、ゆっくりでは駄目だ。躊躇してしまう可能性がある。なら……思いっきり!!!
--ズドオォォォォォッ!!!!!!
握り締めた拳を、ジオラマへと叩きつけた。
「グギャギャギャッ!!」
ゴブリンは、見慣れぬ小屋に向かい走っていた。
碌な考えなどない。ただ、小屋があるということは、そこに人間が居るかもしれない。人間が居れば殺して食う。ただ、それだけの思考で走っていた。
仲間も居る。食える量は減ってしまうが、確実に食える方が良い。負けたら食えない。勝てば食える。だから、仲間が居る方がいい。
小屋から人間が出てきた。一人だ……勝てる、食える!
だが、その時だーー。
人間が何かおかしな動きをした。手を、何かに向けて振り下ろした。
「ぐぎゃ?」
何をしている? 馬鹿な奴だ。今すぐに食いにいってやる!!
--ゴウッ!!!!!
何かが空気を割く音が聞こた……空が、真っ暗に……何かが降って……。
そうして、ゴブリンは潰されたーー。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
おれは、拳を落としたままの恰好で固まっていた。何か、虫を潰した時のような感触が拳に残っている。
『はい、お疲れ様でした、ユーザー! 無事にゴブリン共を全滅させましたよ~!!』
ナビの明るい声が聞こえる。
その明るさが、今は耳障りに聞こえた。
殺した。殺したんだ……人間ではないが、それでも人型をしていた生物。
しかし、殺さなければ、殺されていたかもしれない……。
「くっそ、最悪な気分だ……」
おれは恐る恐る拳をジオラマから引き抜く。ぱらりと、拳についた土は剥がれて落ちる。ジオラマ内ではそれだけではあるが、現実ではぱらり、などという生易しい音ではない。
『では、ゴブリン共の元に向かいましょう!』
「なっ!?」
今、あそこにある光景をおれに見に行けってのか、こいつは!?
『大丈夫ですよ、ユーザー。今のユーザーに止めを刺すようなマネはしませんよ~、ユーザーが想像しているようなグロ映像は無いので安心して下さい』
……大丈夫と、ナビは言う。だけど、足が動かない。
いや、違うか……単に、おれに動かそうという意志がないだけだ。けど、それでは何も進まない。
「わかった、向かうよ……」
おれは、拳を振り落とした場所、その跡地に向かって歩き始めた。