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4話

 おぉ、ふっさふさだ。


 おれの目の前には、風にそよぐ緑の葉がわっさわっさと揺れている。これ、なんの野菜の葉だ?


 水源の設置と同じように、指で摘まんでジオラマにそっと畑の模型を置く。もちろん、現実ではとんでもない光景が広がっていて、そっと置いたつもりでも土煙が凄いことになっている。その土煙が引いた後、そこには立派な畑が広がっていた。


『さぁ、さっそく野菜を抜いてみよう!』


 ナビに急かされるまでも無く、おれは畑に近づき葉を掴み引っこ抜く。すぽんっ、と割と軽い感触ですっぽぬける野菜。そこには、薄い赤色の二等辺三角形の形をした……人参の姿があった。


「人参? いや、生でも食えるし……」


『水で洗って、食べてみれば~?』


 そうだな……早速、水で洗い一口齧ってみる。


 思ったより、ゴリゴリしないな……もっと固いかと思ったのだが、意外にシャクシャクをした食感だ。しかも、瑞々しくて美味い。人参特有の風味ももちろんあるが、甘みも強く感じられる。


「これが、スキルで作った人参の味か……普通に美味い!」


『でしょう? だから言ったじゃないですか~。しっかりとディテールに拘った作品は、それだけ現実で実のある存在になると!』


「……お前、さっきから普通に会話してないか?」


 本当になんなんだろうか、このチュートリアルナビ……いや、この際何でもいい。むしろ、小生意気でもなんでもいいから、会話相手になる存在が欲しい。


『してますね~。なんというか、無感情なナビの真似が面倒になってきまして』


「……無感情なナビ?」


 どこに、そんなものがあった?


『ですよ~。まぁ、わたしのことはナビとでも呼んで下さい。わかりやすいですし~。異世界に来たばかりのあなたのサポート役になります。よろしくお願いしますね!』


「あぁ、それじゃ早速聞きたいことが……」


『あ、わたしはスキル関係以外は答えませんよ? ここがどこかとか、なんでここに来たとか、そういうのは全部まるっと禁則事項ですので、お口チャックですからね~?』


 つ、使えない……いや、でも何もわからない状況で、スキルに関してだけでも教えてもらえるのは素直に有難いか……それに、さっきも言ったけど、こんな場所で話が出来る相手が居るだけでありがたい。


「はぁ~。まぁいいか……んで、次のチュートリアルはなんだ? つっても、後はこの小屋くらいだろうけど……」


『はいはい、その通りですよー。さっさと組み立てて置いちゃいましょう。ポイントを稼いで新しいキットが買えるようになるまでは、それがあなたの拠点になるので綺麗に作って下さいね!』


「わかったよ、えっと、キットの内容はと……お、ラッキー。着色済みキットか……キットの他には、シールか、あぁ窓なんかの小物はこれ貼れってことか」


 となると、必要な道具はセメダインとシールを張るためのピンセット、それにニッパーとヤスリだな!


 作り方は簡単だ。ニッパーでキット本体をランナーから切り離す、切り取った際にできる余りの部分をヤスリで削り、綺麗に整える。それからシールを張り、セメダインを付けて接着しながら組み立てれば完成だ。


 よし、出来た! 猟師小屋だ。これが、おれの住処になるんだな……感慨深いというか、早くもっといい家を作りたいよな……。


『ささ、はよ設置して下さい。設置! 巻きいきましょう、巻きで!』


 はいはいっと……おれはジオラマ台に猟師小屋を設置した。場所は、畑に近く、水源ーーもう池でいいかな、池から離れたところに設置した。池から離した理由は簡単で、猟師小屋となると便所が無い可能性が高い、あったとしてもどうせぽっとん便所とかいう奴だろう。だとしたら、飲み水の側で致すのはなんとなく嫌、というだけだ。


 まぁ、汚染とか色々あるだろうし、離しておくに越したことはないはず?


『ふぅ、もう驚かなくなっちゃいましたねー。あー、つまらないなー』


 そりゃ、まぁな……これで、空からの巨大な贈り物を見るのは四回目になる。さすがに、もう慣れたよ。いや、未だに訳が分からないって気持ちはものっそあるけどね。


「それにしても、これは……見事なボロ小屋だな……」


 設置した猟師小屋を見上げながらの感想だ。いや、でもディテールというか、出来は凄い。凄いのだが……悪い方に凄いというか……うん。


『うふふ~。住めば都といいますよ? それに、野宿よりはずっとマシですよね~』


「まぁ、それもそうか……夜になったら寒くなるかもしれないしな……」


『そうですそうです! それに、初回特典は、無料! 無料なのですよ! 無料に多くを期待しちゃ駄目ですよ~? 最初に貰える最高ランクレアなんて、すぐにゴミなのですよ、ゴミ!』


 いや、知らんがな……ってか、こいつソシャゲ知ってんの? まぁ、スマホの中に居る(?)くらいだし、知っててもおかしくないのかな?


『とりあえず、中に入ってみましょうよ。大切なのは外じゃありません! 中身です、中身!』


「まぁ、それもそうだが……」


 簡単な骨組みに、木の板を釘で打ち付けただけのような小屋。その小屋のドアを開き、中に入る。


「お、ちゃんと閂で閉めれるようになってるのか」


 ドアの内側には、木の棒を差し込んでつっかえにできるような構造が取り付けられていた。って、内装があるのか?


 キットは組み立てるだけの簡単な物だった。内装までは無かったはずだ……。


「これは……外と比べて、中は割といいんじゃないか?」


 中に入ると、まずは土間がある。ここで靴を脱ぐのか……土間から上がると板張りの床があり、部屋の中央には囲炉裏があった。例のあれもある、名前知らないけど鍋とか引っ掛けるあれ。それに、鉄鍋もしっかりと引っ掛かってある。あとは、壁に蓑? 藁のような物で出来た外套みたいなのと、笠があった。これもまたありがたい……ちゃんと使えるのかわからないけど……。他には、壁際に薪が積まれている。それと、煎餅だけどちゃんと布団もある。木の床にそのまま寝るとかきっついから、素直に嬉しい。


『ほぉほぉ、これはなかなか~。しばらくの拠点としてはいいじゃないですか! それにほら、鉈もありますよ。さすがに鉄砲は無いみたいですけどね~』


 うん、鉈もあるね。鉄砲は……あっても、使い方わからないしいいか……。


「はぁ~。とりあえず、これでなんとかなりそうかな? あ、そういえば畑の世話とか必要なのか?」


『それはもちろんですよー。設置したものは模型じゃなくてちゃんとした実物になるんですから、ちゃ~んとお世話しないと駄目ですね~』


 そうかぁ……畑ってどう世話したらいいんだ? こんな事なら、無人島やらで生活するような番組みときゃ良かった……。


「……ん~なぁ? ナビ、ちょっと聞いてもいいか?」


『はい? スキルに関することならいいですよ~?』


「いやさ、ジオラマに設置した模型が現実で実物になるんだったら、そいつをジオラマから取り出した場合はどうなるんだ?」


『……あらら、気が付いちゃいましたか……気付かない方が面白かったんですけどね~』


 なんか、ナビがあからさまにがっかりした声を出してやがる……ってことは、つまり……。


『ジオラマから取り出したら、全部模型になっちゃいますね~』


 ってことは、畑の世話をするよりも、模型を整備する方が楽なんじゃね?


「お前、なんでそれ黙ってんだよ……」


『だって、慣れない作業に右往左往する姿を見たいじゃないですか~? それに、ちゃんとお世話しないとすぐに素材使い切っちゃいますよ? まぁ、こちらとしては、どんどん使ってもらった方がありがたいですから、何の問題も無いんですけどね~』


 本気で言ってるなこれ……愉快犯なナビってどうなんだ?


「はぁ~、まぁいいよ。気付けたんだし……それで、次のチュートリアルは何なんだ?」


『はいはい! ついに最後のチュートリアルになりますよ!! これが終われば、きっとあなたも異世界ジオラマスキルマスター! さぁ、最後のチュートリアルはこちら!!!!』


 ーー何だ、これは……ナビの明るい声を聞きながら、おれはジオラマに注目した……表示範囲の端、そこに何かが姿を現した。小さく、はっきりとは見えないが……それは、緑色をした人の形をしたものだった。


 これって、ファンタジー御用達のあれか……まさか、ゴブリン?


『最後のチュートリアル。ポイントゲットの方法……さぁ、はじめましょう? ユーザー……』


 ナビの明るい声が、今は不気味に聞こえた……。

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