3話
「な、なんだ!!?」
咄嗟に、ジオラマから指を引き抜く。辺りは、もうもうとした土煙に覆われていた。
『あ、そうそう。ジオラマに入れた物は全て現実になるからね! もちろん、君の手もだよ?』
--だから、自分で自分を潰してしまわないように気を付けてね♪
明るいはずの音声ガイドの声が、今は不気味に聞こえる。
ごくりと、自分が唾を飲み込む音が大きく聞こえる。やがて、土煙が晴れ……そこにあったのは、クレーターとでも云うべきものだった。
今、おれが指を突き立て場所……そこには、20M程の穴が出来上がっていたのだ。
水源の場所、目の前とかにしなくてマジで良かった……。
「ってか、先に言えよ!? これさせたくて急かしたんだろ、てめぇ!!?」
浮かぶ画面に文句を言った所でどうにもならないのは重々承知だが、とにかく殴って文句を言ってみる。当然、拳はスカるだけだし、返答もない。
結局は、覚えてやがれと引き下がるしかなかった。
あ、試しにもっかい指をジオラマに突っ込んでみたら、確かに空から逞しいお指様が降臨なさいました。おれの指の動きとまったく同じ動きをしていたので、やはりおれの指なのだろう……。
これ、これだけでも十分チートじゃね?
ジオラマと指だけでメテオストライクが可能とか、完全にチートではある。あるが、これだけでは生き残れない……。
「はぁ、気を取り直して水源作るか」
そう考え、おれは小鍋に水の素を一つ放り込む。まずは、水色の個体を熱で溶かし、液体状にする。それを、指で付いた場所に流し込む。もちろん、ジオラマ土台の穴の方にだ。
「やっぱ、現れるよね……」
巨大なのに小鍋とはこれ如何に……太陽の光を完全に遮り、天空より現れ出る小鍋様のお姿。
おれはそちらを気にしないようにしながら、ジオラマへと流し込む。むわっとした熱気を感じるが、無視した。気にし過ぎて手元が狂う方が拙いだろうからね。
お? もう固まった……? 本来なら、流し込んでから硬化するまではそれなりに時間がかかるんだけど……異世界仕様とでも考えておこう。気にしても仕方がない。ぶっちゃけ、便利な分には何の問題ないからね!
お次は、透明な個体の出番だ。これも、小鍋に入れてトーチで温めて溶かし、同じ様に流し込む。それから、ポケットをまさぐり串を取り出し、ちょいちょいと表面を弄り水っぽい質感を出してみる。
『Congratulations! 水源作成のチュートリアルを終了しました!』
『では、さっそく水源へと向かいましょう!』
……えらい絶妙なタイミングで喋るよな、これ……。
じと~っとした目でスキル画面を睨みつつ、ガイドの指示に従い水源へと向かう。まぁ、疑ったところで答えが出るわけでもないし、答えてくれるわけでもないしね……。
しかし、これで本当に水が作れたのか? そう、おれが疑問に思った時だった。
--ちゃぷっ
水面が揺れる音が聞こえた。
おれは、慌てて水源へと向かう。そこには、確かに水があった。そう、水があったのである。
「……本当に、水になったのか」
とにかく、まずは飲んでみよう。起きてから今まで、何も飲んでないからね。意識しないようにはしていたけど、喉がカラカラなのです。
手で掬い、恐る恐る口を近づけて行く……。
『はよ飲めや』
うるせーよ!? まじでどっかから見てんだろ、こいつ……。くそ、飲むぞ! 飲んでやる! この水が元はなんだったかとか考えるな!!
ぐびりーー美味っ!?
なんだ、これ、まったく雑味を感じないぞ? 高級なミネラルウォーター……まぁいつも飲んでる2リットル100円の水とは明らかに違う。
『美味しいでしょう? このように、しっかりとした素材で作れば作る程、実のある成果を得られるのです! なので、しっかりと稼いでショップで買い物しましょうね?』
確かに、これを味わった後だと、その言葉が嘘ではないと思い知らされる。
『では、次のレッスンに参りましょー! 次のテーマは畑です。特典でゲットした畑のキットを使用し、ちゃちゃっと作っちゃって下さい!』
次は畑か……。
えっと、キットの内容は……凸凹のプラダンボールとカラーパウダー、それにフォーリッジ・クラスターか……そのまま置いたら終わりってわけじゃないんだな。いや、模型の出来で結果が変わるっていうなら、こっちの方がいいのか……。
「うし、それじゃちゃちゃっとやるか、とろとろしてたら『はよしろ』とか言い出しそうだしな」
まず用意するのは、木工ボンドに皿、それと筆、後はピンセットっとーーポケットから必要な道具を取り出して行く。どれも、おれが使っていたものばかりだ。
これ、ボンドとか無くなったらどうなるんだろう? やっぱ、ショップで買うのかね……。
『はよしろ』
もう突っ込まんぞ?
とにかく、今は畑を作ることに集中しよう。とはいえ、作業自体は簡単だ。プラダンボールに水で薄めた木工ボンドを塗りたくり、上からモコ〇チばりにカラーパウダーを振りかける。どちらもブラウンなので、それだけで畑の下地が出来上がる。拘るなら緑のカラーパウダーも撒き、雑草の演出などもするのだけど、キットには付属していなかったのでそこまではしない。振りかけたら、余ったパウダーを除去する。ブロアーで吹き飛ばすか、ダンボールの方を逆さにしてやればパラパラと落ちてくるので簡単な作業だ。
それが終わったら、次は木工ボンドを畑の畝に当たる部分に等間隔でちょんちょんっと付けていく。そこに、緑のスポンジのようなものを粉々にしたもの、でわかるかわからないけど、フォーリッジ・クラスターをピンセットで一つずつ摘み、ボンドの上に置き、接着する。これで、青々とした野菜の葉の出来上がりだ。
しかし、これ……何の野菜になるんだろうか?