2話
眩しいなぁ、もう……。
おれは布団で顔を隠そうともぞもぞと動くが、何かがオカシイ。ってか、掛け布団もなければ、背中にマットレスの感触もない。
寝てる間にベッドから落ちたか?
いやいや、いくら疲れてたとしても、落ちたら流石に起きるだろう。それに、寝室は遮光カーテン閉めっぱなしで太陽の光が差し込むはずがないんだけど、どうなってんだ?
仕方ない、起きるかーー。
「……知らない、青空だ……」
目を開くと、そこには綺麗な青空が広がっていたのだった。
いやいや、可笑しいだろ!? おれはしっかり部屋で寝たはずだ。それがなんで外?
ともかく何時までの寝転がったままというのも駄目だろう。……おれ、大地に立つ。とか言ってる場合じゃないな、ここはまじでどこなんだ?
立ち上がって見回してみると、なんというか平原。見渡す限りの平な土地だった。まるで、何の手も入れていないジオラマの土台のような光景だった。
当たり前だけど、おれの家は無い。何も無い。泣きたい……。
これ、あれか? ひょっとして、異世界転移とか言う奴か? いやいや、有り得ないだろう。あんなのはラノベの中だけの話であって、現実に起こるはずが無い! 無いったら無いんだ!
空に太陽が二個あろうと、無いものは無い……うん、現実を見よう。まず、太陽が二個ある時点で地球では無い。あと、なんか寝巻がシャツとGパンになってる。しかも、作業用のエプロンまで着用済みという至れり尽くせりな状態だ。
これ、誰が着替えさせたんだろう。顔も見れなかったけど、神様とやらだろうか?
おっさんの着替え、ご苦労様でした……願わくば、着替えさせたのが女神様でありますように……。
パンパンと手を叩き、お辞儀をする。
その時であったーー。
「なんぞ、これ?」
目の前に、スマホの画面のようなものが現れたんですけど……えっと、何々?
『異世界を君の好きに創り変えちゃおう! 異世界ジオラマスキル説明書』
……いや、まじでなんぞ、これ?
ご丁寧にもアプリアイコンに『ここをタッチ!』という表示までさている。
何が起こっているのかはさっぱりわからないが、とにかくタッチしてみるか……現状、これしか手掛かりないし……。
『ようこそ! 異世界ジオラマスキル説明書へ! ここでは……』
ようするに、スキルの説明のようだ。胡散臭いことこの上ないが、何も無しで放り出されたんじゃなくて良かった……サバイバルの訓練なんて受けたことなんて無いし、すぐに野垂れ死んでた自信あるもんな……。
ってか、まじで異世界転移って奴なのか、これーー。
説明の内容は、非常に完結なものだった。ようするに、異世界ジオラマスキルのアイコンをタッチする。すると、アプリが起動する。起動したら、目の前にジオラマの土台が現れるので、それを好きなように弄れ、という事らしい。
好きなようにと言われても、何も無いんだけど?
おれの疑問に答えたわけではないだろうけど、そのまま別のアイコンが現れ、それをクリックするように指示される。クリックしてみると、今度は異世界ジオラマ模型店という表示が現れた。
どうにも、ここで色々と買えということのようだ。どれどれ……と確認しては見たが、ほとんどが『Coming Soon』と書かれて黒くなっている。現状買えるのは、『昭和の日本~田舎の情景~』という、昭和初期くらいの田舎の民家や畑などの情景の模型くらいだった。
『ただの模型と思ったそこの君? 甘い、甘いよ! この模型を買って組み立てて、ジオラマに設置してみよう!! なんと、置かれた模型はみんな現実になっちゃうんだ! でも、信じられないよね。では、チュートリアルを始めよう!』
女性の声で説明が流れる。どうせなら、どこぞのゲームのようにナビ妖精でも出てきてくれればいいのになぁ……とか考えてる内に、チュートリアルが始まったようだ。
何々? まずは、『ジオラマの土台を呼び出そう!』か。それじゃ、タッチっと……ジオラマスキルのアイコンをタッチしてみる。すると、ポンッという軽い音と共に、目の前にジオラマの土台が現れた。
「うぉ、すげぇ……」
一辺30cmほどの正方形の土台。そこには、一体の人形と平原が立体的に表現されている。
どうやら、これが今おれの弄れる範囲のジオラマらしい。それと、この人形がおれか……あ、確かに動いてるし、むっちゃ小さいけどジオラマが見える……すげぇ、リアルタイムで動いてるぞ、これ。
ほぉほぉと眺めていると、次の説明がはじまった。
『次は、ショップをタップ! 初回特典をゲットしよう!』
ソシャゲかよ、とツッコミを入れるが、ありがたく頂いておく。何もない状態だからな、今。
肝心の初回特典の内容だけど『水の素Pro』『昭和の日本~田舎の情景~』にある畑のキット。それに、猟師小屋という建物のキットであった。
『まずは、水の素を使って水源を作ろう! 水が無いと、すぐに死んじゃうから急いでね?』
とか脅されつつ、水の素を開封……いや、これ熱で溶かす必要があるだろ? どうすんだよ……。
『どうするんだよ、と思ったそこのあなた! エプロンのポケットを探ってみよう。今、使いたいも道具を思い浮かべつつ、必死にまさぐれ!』
と、言われたので、必要な道具を思い浮かべつつ、ポケットの中に手を突っ込んでみる。『あっは~ん』とか無駄に色っぽい音声にイラっとしつつ、中をまさぐってみると、何かが指先に当たる感触があった。
取り出してみると、それは明らかにポケットに入りきらないサイズの小鍋とガストーチが出てくる。おれのエプロンのポケットは一体どうなっちまったんだ?
出て来た小鍋とトーチを見ると、普段おれが愛用しているものであることがわかる。意味がわからないが、まぁ使い慣れた道具なのは素直にありがたい。
『それじゃ、まずはジオラマに水源を作る為の型を作ろう! さぁ、その指先を今すぐジオラマの大地に突き立ててホジホジするんだ!』
……まぁ、確かに水の素を流し込む為には必要な事だが……急がせるその音声に、何やら不安を感じる。
「水源は、中心にするか……」
早速、指を突き立て穴を開けーー。
ズンッ!!!!!
その瞬間、異世界が……揺れた。