神獣さまは全力で守ります!!
未曾有な事態にストレス溜まりまくった末、突発的に書いたものです。
ちょっと偉そうな神獣様がめちゃめちゃ喋ってます。
ほんの暇潰しになれば幸いです
「あなた、とぉってもかわいいわ!」
………ふわふわした茶色い髪の女の子に握りしめられてます。白くて丸いモフモフしたわたくしめ、神獣です。ええ。文字の通り神に仕える獣です。生まれたばかりですが、使命も何もかも記憶はあります。前の神獣から受け継いでおりますから!
「ぴ?ぴぴぴ!」
「わたしと暮らしましょ?可愛い…ことり?さん、おねがい!」
神位もあるけれど、生まれたばかりで人間に見つかるなんて…不甲斐ない。しかもこの娘、わたくしめを小鳥の愛玩動物だと思ってらっしゃる。…親に神獣を習わなかったのですか!白い羽とたぶん蒼の目は神の遣いの証ですよ!まったく!!
小さな女の子なのに、何も付いていない黒いワンピースと靴下と靴。よく見たらリボンも何も飾りらしい物がありません。この年頃の子供ならば親に付けてもらっているはずなのに。
「………ちょっと前にね、お母様もお父様も亡くなってしまったの。お友達とも離れちゃったし、あなたが此処で初めて会えた子なの」
「ぴぷ?」
なんと、こんな小さい子が天涯孤独ですか。痛ましい。しかし、その質素すぎる姿なのにどことなく気品のある顔立ちをしてますね。この子供。
「おじいさまが引き取って下さったけど、おじさまとおばさまの言うことを聞かないといけないのですって。おじいさまは、ぼけ?ているからって。……そんなことないのに」
「ぴぴ?」
どうやらとても訳有りのようですね。良いでしょう。わたくしめが君を守ってあげます。
「ぴぴん!」
「ふふっ一緒にいてくれるの?ありがとう」
柔らかい頬に手(人間には羽に見えてるでしょう)を当てて、ピカピカしたものを出します。神様直伝の祝福ですよ!次にわたくしめを握りしめている手に向けてペカペカさせると手の甲に小さな花が咲きました。
「わぁ!!ピピ、あなたまほうがつかえるの?」
「ぴぴぷ!」
どさくさに紛れて命名されてしまっていますが、小さいながらも薔薇の様な形の蕾。色が青と言う事はとても珍しい魔力を持っていますね。この子供。気品のある顔立ちと綺麗な色の魂が見えました。
「わたしは、フィルよ。フィルミーナ・フォン・ローズウェル。よろしくね。ピピ!」
よろしい。とても可愛らしいその名前に免じて神獣ピピとして君を幸せにしてあげます!!
―*――――*――――*――――*
そうあの日誓った。わたくしの愛し子。
闇堕ちしてもおかしくない悪辣な環境にいても彼女のうつくしさは曇ることも変わる事もなかった。
わたくしの愛しいフィルミーナ。美しく、愛らしく、気高く、慈愛溢れるフィルミーナ。17になったあの子は、王家へ迎え入れられるはずだったのだ。なのに!なのに!!
「フィルミーナ、貴様の青い薔薇は呪いだと聖女が言っている!!」
婚約者だったはずの第2王子の隣に、偽聖女がいる。神獣たるわたくしを見ることも、意思を聞くことも出来ない偽聖女が。フィルミーナが悲しい顔をしてはいけない。君が堕ちたら私も堕ちる。堕ちて、このクニを滅ぼしてもいいと思うが!!
「―――――癒しの力を使えるのはわたくしだけですわよ。キース王子」
「ふん。そなたのその力も妹であるリーンから奪い取ったものであろう!!」
妹でもないわ!フィルミーナの親族は実母の妹夫婦の娘であろう。くそ王子め。そして何より、フィルミーナが扱われていた環境を見ればどちらが悪辣なのかなどすぐにわかろうものだが。
「わたくしとリーフィンは、姉妹ではありませんわ。――――姉妹のように、育ったこともありません」
「ひどいですわ!わたしは実の姉だと思っていましたのに!!」
白々しい!フィルミーナを侍女同然に扱い、祖父の公爵が取り決めた王族との婚約。取り決めに従い王家から渡されるフィルミーナの支度金で贅沢三昧していたのはお前だろう。怒りに任せてギャーギャー喚くが、聞こえているのはフィルミーナとあと一人だけ。
「―――――そのような嘘を誰が信じると?」
あの幼い日、寂しげに揺れていた大きな瞳は冷静な光を宿したまま。フィルミーナと血が繋がっているとは思えぬ表面だけ美しく見せた醜い娘は、王子にすがり付きながら何かをわめきたてる。
「聖女はわたしですわ!私には…」
「―――神獣がいない乙女は、聖女ではありませんよ?」
「そういう貴様は純潔ではないだろう」
何を言うか。神はそんなものを基準にしないのです!そして、女性の繊細な問題を衆人環視で言うなんて!!生まれながらの魂の資質に優るものなどないのですよ!!
「………わたくしが純潔かどうかなど関係ないのですよ。歴代の聖女達がなぜ王家と婚姻して子を成しても力を失くさなかったと思うのです?ここにお集まりの貴族の奥様方で初夜を終えてから力が失くなった方がいらっしゃいますか?わたくし達に宿る力は魂の資質だと、習ったでしょう?神獣には特に―――ねぇ?皇帝陛下」
はくはくと息継ぎの出来ぬ魚のような王子より高い位置の玉座へフィルミーナは目をやる。そこに座するのは、まだまだ若い男。
「そうだな。そもそも、愚弟よ。お前、本当にそんなのが聖女だと思っているのか?」
黒い髪、紫の瞳。天使でもなかなかいない美丈夫。とても美しいし賢く逞しい、正にフィルミーナに相応しい男である。何よりコイツはわたくしと言葉を交わせます。ええ。フィルミーナと一緒に。
「兄上!フィルミーナに騙されては皇帝など務まりません」
馬鹿がいます。煽てられ、傲慢になり劣等感を拗らせた愚か者。王家の恥ですね!!
「………おまえの目は節穴だったようだな。この場の貴族でお前に与するのは阿保だけだ」
「な!?」
「いや、だからこそフィルミーナは我が貰う……おいで彼とに。我のもとへ」
「……陛下」
フィルミーナに向けるときだけ柔らかく溶ける表情は、人には目の毒ですね!はい。戸惑いながらもはにかむように微笑むフィルミーナが可愛いです。愛らしいです。しかし、邪魔な奴等ですね。よし、よし!わたくしがとても素晴らしい聖女っぷりを見せてあげますよ!!
玉座まで連れていって差し上げます。フィルミーナを浮かせて、やたらピカピカさせて、神々しく人に見えやすくしてあげます。ええ。とても美しいでしょう?フィルミーナに握りしめられないようにとっても大きくなりましたし!
「………!?」
「…うそ…」
ザワザワと騒ぐのは馬鹿王子に与した阿保たちですね。ええ。孤児院や救済院でフィルミーナが力を使うときは省エネサイズで傍に侍りますから、そういった場所へ協力的な人間達には何度か見えてますよ。
皇帝が広げる腕の中にポトッとフィルミーナを落としてあげます。この場の誰よりも質素に見える紺のドレス。何故か成長するにつれ色素が抜けて亜麻色に変わった髪。
「………ピピ」
低い声で名前を呼ばれました。ひぃ!後でお仕置きされます。でも、とぉっても美しいフィルミーナが腕に落ちてくるのに問題はないでしょう!!えへん!
少し偉そうにフィルミーナのすぐ横に降り立ちます。えへん。敬いなさい。
「―――さぁ、既に我の妃となっているフィルミーナ・フォン・ローズウェル前伯爵令嬢に不服のあるやつはいるか」
不敵な笑みを浮かべる皇帝の顔。魔王っぽいですよね。華奢でありながら素晴らしく女性らしいフィルミーナの腰を抱き、反対側に立つわたくしに目配せしやがる……衆人に聞かせるのって本当は御神託以外だめらしいんですが。ん?特別例外?フィルミーナの頑張りを認めるごほうび?分かりました。神様も怒ってたんですね。ええ。わかりました。
『――――控えよ。人間。ここにいるフィルミーナ以外の聖女など、認めぬ。神すら謀る愚民めが!伏して悔い改めよ!!』
えへん。神様がそういえと言いました。
「………ピピ…何か」
「ノリノリだな。フィーナの扱いに我も怒り心頭だからの。覚悟してもらおう」
そうなのです!この人間の最高権力者と天界の遣いのわたくしめがついているフィルミーナは、今日も可愛く美しく優しい慈愛の聖女です。さぁ!悪者退治を始めますよ!!
フィルミーナ、名前と初めしか喋らなかった…