マリッジブルー
「それじゃ、身体に気を付けてね」
「うん、こんにゃくもありがとう。家で食べるね」
翌朝、私とかのん君は私の実家を出発した。途中の道の駅で買おうと思っていたこんにゃくはお母さんがお土産に持たせてくれた。
「ねぇ、私……あんま結婚式とかやんなくてもいいかなって思ってたんだけどさ、やっぱりやっておきたいね」
「うん、俺も」
帰り道の車の中で二人、うなずき合った。
「盛大じゃなくても、近しい人だけでもいいからさー。私達らしい結婚式がしたい」
「本当だね。まずは山口さんに相談だぁ」
そうだね、かのん君はタレント。事務所の意向もあるだろう。行きよりずっと軽やかに車は道を走っていった。我が家に向かって。
「……で、なんでそんな死にそうな顔なの」
「うーん、やっぱ結婚式とか大変」
「のろけは受け付けませんー」
ところが、その翌週には私は桜井さんに早速愚痴ってしまった。
「だって、ゲストにかまいたち虹朗が出席するんだよ」
「やった、じゃあ本物見られるんだ。サインとかねだったら怒られるかな」
「それは勘弁して……会場も勝手に決められるしさー」
ああ、これがマリッジブルーってやつか。私の実家への挨拶の後、かのん君が結婚式の相談を事務所と行った。その時はこじんまりと身内だけで、って話だったんだけど……。
「かのん君が結婚の報告をかまいたちさんにしたのね。ほらブレイクのきっかけを作ってくれた人だし。そしたら結婚式に出席するって言いだして、あれよあれよと話が大きくなっちゃった」
「問題は真希の方だよね、バランスってのがあるでしょ」
「ありったけの知り合いに招待状出してる」
幸いタレントとの結婚式という事で、うちの会社も社長まで出席してくれる事になった。あとは会場の装花とか飾り付けはプランナーさんとマネージャーの山口さんにほとんどお任せ状態だ。費用はほとんど事務所持ちなのがありがたいけど。
「自分達らしい式がしたかったのになー」
「あとはー? うーんドレスは? ほらいっそかのん君がドレス着てあんたがタキシード着たら?」
「それもー考えましたー」
なんとか自分達の要素を入れようとかのん君がウエディングドレス姿になるのも提案しんだけど、別に女装はしたくないと却下されてしまった。
「それがさー、衣装が決まんないんだよー」
「ある程度妥協しなさいよ」
「それが……妥協しないのは私じゃないの」
二度ほど行った衣装合わせでかのん君はずっと首を傾げていた。仮押さえしてある衣装はあるものの……。はぁ、結婚で大変なんだなぁ。
「ただいまー」
「あー! 真希ちゃん、やっと帰って来た!」
「なにどうしたの」
家に帰ると、かのん君と知らない男性と女性が立っていた。
「真希ちゃん、こちらタツヤさん。ドレスデザイナーなの」
「あ、どうも……どういう事?」
「ご結婚、おめでとうございます。今回、ドレスとタキシードをデザインさせて頂きます、タツヤと申します。こっちはアシスタントの伊藤です」
かのん君がタツヤさんの自己紹介が終わるやいなやニヤッと笑った。
「真希ちゃん、フルオーダードレスやっちゃおう!」
「えええ!?」
そこからアシスタントの女性に全身を採寸された。
「真希さんはベアトップタイプで鎖骨を綺麗に見せて……このへんのデザインをかのん君のジャケットとおそろいにするのはどうでしょう」
「いいですねー、あ俺このタキシードのこの辺がもたついて見えて嫌い」
「じゃあ少し上目に……うん、足が長く見えますね」
「あ、ハイヒール履きたいや」
「それならズボンの丈も考えないと」
そうして前代未聞のハイヒールの花婿が誕生しようとしていた。うん、良かった自分達らしいところがちょっとでも出せて。




