ご実家
天ぷらに寿司、煮物……これでもか、という程の料理がテーブルを占拠している。お母さん張り切ったんだなぁ。
「では、その加藤さん。まー一杯」
お父さんがビールをかのん君に勧める。
「あ、運転が……」
「泊ってくんだろ、少しくらい付き合ってくれ」
「はぁ……」
かのん君がグラスに手を添えて、お父さんがそこにビールを注いだ。あ、かのん君てビール苦手だったっけ。
「あ、私飲むよビール」
「真希は黙ってなさい」
私が口を出すと、父さんは不機嫌そうにそう言い放った。
「それでは、乾杯」
「はい、いただきます」
ぐーっと二人してグラスを空ける。
「それで、芸能人だというのはわかったんだが……その、真希とはやっていけるのか」
「私も仕事してるし、今も家賃と光熱費以外は家計は別々で……」
「真希、そういう事言ってるんじゃ無い」
「お父さん!」
私ははっきりしないお父さんの態度に焦れて声が大きくなった。
「タレント稼業ってのは不安定なもんだろ、それに二人ならなんとかなってもこれから増える訳で」
「増える?」
「子供が出来たらどう暮らして行くんだって言ってるんだ」
「ああ……!!」
そうよね、夫婦として暮らしてくんだとしたらそのうち……やだ、ちょっと照れる。
「タレントとしてやっていけるうちは目一杯稼ぎます。いざとなったら、調理師免許とかも持ってるんで」
「私も働くし、私の上司も子育てしながら仕事してるよ」
「そんな時代なのねぇ、ねえお父さん。私達の時代とは違うのね」
「うーん……」
お父さんは渋い顔をしたまま料理をつまんでいる。面と向かって反対こそして来ないが、どうも納得してないようだ。
「あ、この煮物。真希ちゃんと同じ味だ」
「あら、この子料理もちゃんとやってるの?」
「はい、食事は大体交代で……最近は俺が忙しくておろそかになっちゃってますけど」
「そうなのー」
お母さんはかのん君を穴が空きそうなくらい見つめている。そしてお父さんはまだだんまりのままで気まずいまま食事は終わった。
「この近くに温泉があるんだ。行かないか」
「は、温泉ですか」
「歩いて行けるから」
食事が終わると、父さんが突然そんな事を言いだした。かのん君が緊張のあまり、ごくりと生唾を飲むのが聞こえた。
「あらいいじゃない。男同士、お湯にでも浸かってお話してらっしゃいよ」
「お母さん」
父さんはかのん君の同意も聞かずにタオルを持って玄関に立った。
「どうした? 置いて行くぞ。この辺は道くらいからな迷うぞ」
「あ、はい。分かりました」
バタバタと玄関から出発する二人。どんな話しをするつもりなんだろう……心配だな。
「まぁ、お父さんは真希抜きで加藤さんとお話したいんじゃない?」
「呑気だねーお母さんは」
「そういうところは真希に遺伝したのかも……」
お母さん、私不安はないよ。あるとしたら二人に祝福して貰えない不安があるくらい。
「あとは二人に任せましょ」
「うんうん。お母さん、私たちもちょっと飲もうか」
それから私とお母さんで地酒の口を開いて晩酌をしていると、真っ赤なゆでだこの様になった二人が帰って来た。
「ちょっと、飲んでるの? それとも長湯?」
「両方だよ~」
「ちょっとお水持ってくるわね」
私が台所で水をくんでお父さんとかのん君に渡すと二人はごくごくとそれを飲み干した。
「真希。ちょっとここに座りなさい」
「うん? はい」
お父さんの言葉に素直に私は玄関のマットの上に座った。
「……幸せになれよ」
「ありがとう、お父さん」
ようやく、お父さんが結婚を認めてくれた。うれしさでちょっと涙が出そうになった。そして久々の実家の自室。かのん君は仏間に布団をしいて別室だ。
『ねぇ、どんな魔法つかったの?』
私は布団のなかからかのん君にメッセージを送る。
『真希ちゃんの好きな所を百個あげてみろって言われたから、やった』
『うそ、なにそれ』
『でも八十八個目でお父さんが湯あたり起こしちゃって』
かのん君から悲しそうなウサギのスタンプが送られてきたのを見て、私はたまらずに吹きだした。




