すれ違い
「俺は、真希ちゃんを守らないと……いけないんだ」
かのん君がくやしそうにそう呟いた。
「かのん君、私なんとも思ってないよ。大丈夫だよ」
「でも、俺のせいで!」
「かのん君といるってそういう事でしょ」
私がそう言うとかのん君はビクッと顔を上げた。
「真希ちゃん……」
「とにかく、大騒ぎしないで……時の経つのを待とうよ。さくらちゃんの時もそうだったじゃない」
「……俺、ちょっと出てくる」
「かのん君?」
「一人にさせてくれ、ごめん」
かのん君は肩を落としてかばんを持つと玄関から出て行った。男の人というものは時に脆くて、だからこの時は一人にしてあげようって思ってたんだけど……私はこの時、無理にでも止めなきゃならなかったんだ。
「かのん君が帰ってこない?」
「……桜井さん。そうなの電話もメールも通じないし……」
「うーん、他に心当たりは?」
「マネージャーさんに聞いたら教えてくれそうな気もするけど」
かのん君はあれから二日経っても帰ってこなかった。連絡もとれないままだ。私は桜井さんに朝から不安を吐き出していた。
「それは最後の手段かなぁ……」
「どうしたの、さっさと連れ戻さないでいいの」
「うん……それじゃまた同じ事になりそうな気がする」
そう、かのん君は私の言葉の何かに引っ掛かったのだ。
「……あ」
私はふと思いついて、スマホからある人にメッセージを送った。
「まったく、私だって多忙なのよねー」
「ごめんなさい」
「で、なに? 痴話げんかの仲裁ならごめんなんだけど」
私が仕事帰りに両国の公園に呼び出したのはさくらちゃん。幼馴染みの彼女ならなにか知っているかもしれない。私はかのん君と少し口論になった事と、それからかのん君が帰ってこない事を伝えた。
「ふーん、実家にでも帰ってるんじゃない?」
「そっか……」
「多分だけど、南がひっかかった部分って……あーいや言うのやめた」
「そこで止めないでよ」
「いーい、南はね。あの通り、メイクしたりネイルしたりマイペースに見えるかもだけどホント気にしいだからね」
さくらちゃんはストンと公園のベンチに座った。私もその横にストンと座る。
「……高校の時、南はもう今みたいにメイクしてちょこちょこモデルもしてたんだけど、そんなんだから男友達が居なくてね。その代わり私をはじめとして女友達は掃いて捨てるほど居たわ」
「うん」
「そしたらクラスのたちの悪い男子が南じゃなくて南の周りの女の子にちょっかい出すようになっちゃって……結局、南はクラスの女子からも距離を置いたの。私は死んでも離れなかったけどね!」
「そうか……」
私は組んだ手を額に当てた。私の言葉が誤解を生んでしまったかもしれない。
「真希さん?」
「よし、かのん君とちゃんと話する」
「……よく分かんないけど、吹っ切れたのね」
「ありがとう、さくらちゃん」
「別に、南のピーピー泣くとこなんて見たくないだけだから」
私は公園のベンチから立ち上がると、駅に向かいながらマネージャーの山口さんに電話をかけた。
「あ、長田真希です。すいませんがかのん君の居場所を教えて下さい」
「かのんなら、今インタビューの最中だけど……分かったわ、事務所の場所教えるから来て下さい」
私はそのまま電車に乗り、かのん君の所属する事務所へと向かった。
「『プリモエージェンシー』……ここか」
「真希さん、こっちです。このゲストカードをどうぞ」
「すいません」
「いいえ、元々の責任はこちらにありますから」
山口さんが通してくれたのは会議室の一室だった。そこで少し待っていると、そとからおつかれさまですというかのん君の声とざわめきが聞こえて来た。
「……どうしよう、ドキドキしてきた」
ここまできて怖じ気づいてどうする。私は一度深呼吸をして扉の方を見た。
「今日の仕事はここまででしょ……真希ちゃん」
「かのん君、迎えにきたよ」
無機質な会議室で、私とかのん君は見つめ合った。




