あの子とスキャンダル
私が駅にたどり着き、スーパーの前で待っていたかのん君と待ち合わせる。なんだか、一緒に外を歩くのは久し振りだ。
「牛乳安かったから買っちゃった。まだあったっけ」
「えー、あるよ」
「そっかー、じゃあシチューにでもしようかな」
「ルーないよ?」
「大丈夫、ホワイトソースから作るから」
凄い。そこから作るんだ。楽しみ。私達はキュッと手を繋いで自宅へと戻った。……それがどんな事態を呼ぶのか何も知らずに。
「あれ? これ山口さん?」
その着信に気づいたのは帰り道の途中だった。かのん君のマネージャーがなんの用だろう。とりあえず、かけ直してみる。
「もしもし」
「あ、真希さん。良かった繋がって。今、どちらにいます? 話したい事があるの」
「もうすぐ家ですけど」
「それじゃあそっちに向かうわ」
そう山口さんは一方的に言うと、電話は切れた。しかたがないので自宅で一人山口さんが現れるのを待つ。お茶くらいは出した方がいいかな、とお湯を沸かしているとインターフォンが鳴った。
『はい』
『山口です』
『今開けます、どうぞ』
玄関のドアを開いて待っていると山口さんがやってきた。
「こちらへどうぞ。コーヒーでいいですか」
「いや、お構いなく。話はすぐ終わりますから……ただ、電話で言う事でもないので」
「はあ……」
山口さんは一度大きくため息をついて、やっと話しはじめた。
「真希さん、ごめんなさい。記事が出ます」
「へ……記事? って私のですか?」
「はい、もちろん真希さんの顔は出ないんですが……」
「私が彼女ってのは周知の事実なんじゃないんですか? わざわざ記事なんて……」
かのん君は彼女がいる事を隠していない。むしろ積極的に公言しているくらいだ。
「かのんが本当に彼女がいるのか、異性愛者なのか……面白半分の人間も多いんですよ。本当なら握りつぶしたい所なんですが……」
そこまで言うと、山口さんはガバッと頭を下げた。
「すみません、力になれませんでした」
「山口さん、頭をあげて下さい」
「でも……」
「私、覚悟できてます。かのん君と居たら好奇の目で見られるくらい」
こうして見ると意外と華奢な山口さんの肩に手をやり、私は微笑んだ。
「だって彼女ですもん」
「真希さん……すみません、あと二人のお家にお邪魔して……」
「いえ、今度ゆっくり遊びに来て下さい」
山口さんはそれからも何度か頭を下げながら帰っていった。……さて、こうなると心配なのはかのん君だ。さぞ自分を責めている事だろう。
『真希ちゃん、お話があります』
丁度いいタイミングでかのん君からのメッセージが届いた。
『山口さんから聞きました。早く帰っておいで』
そうして私はタブレットでホワイトソースの作り方を検索しながら、かのん君の帰りを待った。
「ただいま……」
「おかえり、お腹空いてる?」
案の定、濡れた子犬のようなかのん君が帰ってきた。
「シチュー作ったの。ちょっととろみが上手く出なかったからミルクスープかな」
「……食べる」
とぼとぼとテーブルについたかのん君の前にクリームシチューもどきを出してやる。
「おいしい」
「ホワイトソースって難しいのね。一回失敗しちゃって二回目でやっとそれっぽくなったわ。でも味はOKでしょ」
「うん……真希ちゃん」
「お話はかのん君のお腹がいっぱいになってからね」
しょんぼりとシチューを食べる横で私はコーヒーを飲む。やっとお皿を空にしたかのん君が洗い物をはじめたところで私は切り出した。
「落ち込んだってしょうがないじゃないの。出るもんは出るんだから」
「真希ちゃん、そんな簡単に言わないでよ」
「だって彼女がいるって公言してるんだもの、いつこうなってもおかしくなかったのよ」
「そうだけど……」
かのん君はそう言って、唇を白くなるほど噛みしめた。
「俺は、真希ちゃんを守らないと……いけないんだ」




