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青のティアラ

「ごめんねー、急にー」


 まるで実家のように原宿のオシャレな美容院の扉を開けるかのん君。店の奥からゆったりと出てきたのは、またこれがゆるウェーブの黒髪が決まった長身のイケメンだった。 


「まったく、せめて3日前には言ってよね」

「えへへー」


 文句を言いながらも多分美容師と思われるその男性は笑顔だ。かのん君も気安く友人のように応じている。


「真希ちゃん、この人、俺の担当さんで紬さんっての」

「よろしくお願いします、あの急にごめんなさい。大丈夫なんですか?」

「ああ、ちょっと調整したから大丈夫よ」


 紬さんは私の顔をじっと見ると、怪訝そうに眉を寄せた。


「ふうう~ん? かのん、どこで引っかけてきたのよ。こんなおぼこい子」

「おぼっ……」

「えー? 家の近所だよ。そんな事よりさ、真希ちゃんの着てる服に似合うようにセットしてよ」


 紬さんの視線がすっと私の全身をチェックする。直線的なこのシャツワンピースには正直私の量産型の茶髪巻髪には似合っていないと私でも思う。


「うーん、セットでもなんとか出来るけど、いっそカットとカラーやっちゃわない?」


 じっと私を観察していた紬さんからそんな提案が出た。


「えっと、カットって……」

「大丈夫、ちょっとだけだから」

「でも予約もしてないし、大丈夫なんですか? それに……」


 かのん君をちらりと見る。カラーとカットなら短くても二時間くらいかかるだろうか。その間、せっかく連れてきてくれたかのん君をほったらかしにしてしまう。


「俺ならその辺でまったりしてるけど? やって貰ったら? 真希ちゃんの変身見たいし」


 かのん君はソファに勝手に座って足を組むと、頬杖をついた。余裕の風格。私はまたもこのオシャレ空間に押しつぶされそうなのに。


「じゃ、決まりね。こっちの個室に来て」

「こ、個室……」


 個室付きの美容室なんて入った事ないよ-。


「さ、短時間でぱぱっとしなきゃなんだから早く来てよ」


 私の内心の焦りを二人はまるで無視して、美容室の奥の個室に連行された。ガウンを羽織りケープを巻かれた。


「あなたブルベなのにこんな赤っぽい色似合わないわよ」


 私の髪をふわふわといじりながら、紬さんはため息をついた。そう言われて元彼がこんなんが好きって言った雑誌を切り抜いて美容室で染めて貰ったのを思い出した。


「ぶるべ……?」

「ブルーベースの事だよ。つまり真希ちゃんは寒色系が似合うって事」

「ほ、ほう……」


 そうなのか。はじめて知った。私の女子力はかのん君の百分の一だわ……。


「ねー、それじゃやっぱアッシュ系かな」

「そうねー。お勤め先はやっぱ地味にしてなきゃいけない感じ?」

「あ、はい。一応」

「じゃあダークトーンのアッシュね」


 そこからの紬さんの動きは素早かった。あんまり切りたくないという私の要望を聞きながら、ハサミを入れると不思議と洗練された髪型になっていく。


「あ、そういえば。かのん君は?」

「ここにいるよー?」


 その声に振り返るといつの間にかスタバのカップを持って椅子で雑誌を読んでいるかのん君が居た。オシャレか。自宅か。


「さ、出来上がり」


 紬さんが鏡を差し出してくれる。そこに映っていたのは一皮剥けたように洗練された自分の姿だった。


「さっすが紬さん! 真希ちゃんすごく似合ってるよ」

「うれしいです……けど」

「けど?」

「……なんか恥ずかしいです。自分じゃ無いみたいで」


 そう言うとかのん君はにこっと笑った。けれどそれ以上ににまーっと満面の笑みを浮かべているのは紬さんだった。


「なぁにー? かわいいじゃないのこの子―!」

「あーダメ! 真希ちゃんは俺のだよ!」


 ぷうっとむくれたかのん君に腕を取られる。


「俺からの誕生日プレゼント、気に入った?」

「うん、ありがとう」


 美容室を出ると、もう夕方の気配が空ににじんでいた。本当なら泣き潰して終わるはずの今日が終わる。


「かのん君。あのさ、今日付き合ってくれてありがと」

「うん?」

「かのん君が色々連れ回してくれなかったら、私」

「いいの!」


 かのん君が私の言葉を遮った。あ、また香るバニラの匂い。


「俺のわがままでもあるんだから。証明できたでしょ? 俺が真希ちゃんの元彼くんより真希ちゃんをキレイにできるって」


 そう言って、ふわふわのクリームソーダの真っ赤なチェリーが私の唇に触れたのだった。


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