第一話 衝撃の出会い
遥かなる陽光に照らされる西洋風の墓地に一人の男が立ち寄った。男の前には碑文の刻まれた墓石が三つ立ち並び。白百合の花束が添えられている。
現場指揮官の階級章を胸に、男性士官服の上に黒を基調とし金の刺繍、真紅のラインの入ったコートを羽織るその男は何も語らず。ただ物静かに。ただ黙って黙祷を捧げた。
僅かな沈黙の後。男は立ち上がった。草花をさざめかせる風が強く吹く。吹き抜けた風が男のコートをたなびかせ花束を揺らし。散った花びらが天高く舞い上がった。
そろそろ時間であると。男は振り返り。その場所を後にした。
中央基地に。数ある中のとある一室。
新設される部隊の部隊員として集められた三人は噂話に興じていた。
「ねぇ、知ってる? 今日らしいって」
折り畳み式の椅子に逆に座っている少女の名はティグリス・ネイルジャック。金の髪色に琥珀色の双眸を持ち。美しさの中に獰猛さを兼ね合わせたかのような顔立ちをして。やや焼けた肌に魅力的なくびれの腰つきを晒す姿格好をしている。
「え~……。何が~……」
夢うつつに。涎を垂らして無防備な姿を晒しながら。ソファで仰向けに寝ている少女の名はカニス・ダブルショック。白銀の髪色に灰色の双眸を持ち。白く美しい肌に天真爛漫さを醸す清廉な顔立ちをしている。
「……知らない」
本を片手に物静かにソファに座っている少女の名はノーチラス・ソードブレイカー。蒼い髪色に透明感のある水色の双眸を持ち。白露のような肌に淡く際立つ桃色の両頬。あどけなく純真無垢そうな顔立ちをしている。
「だから。私たちの部隊長が今日来るって話」
「へ~……」
「へーって……。カニス、興味あったでしょ?」
狭いソファの上で器用に寝がえりを打って。
「そうだけど……。今はどうでもいい~」
「あっそう。ノーちゃんは?」
視線すら返さずに。
「本が面白い」
そんな二人にがくりと項垂れて。
「自由すぎる……」
その頃。ドアの向こうでは既にある男が扉に手を掛けようとしていた。だが男はすんでのところでそれをやめ。音もなく『それ』を取り出してドアに接着させた。きーん。という何かが充足していく音が始まって三秒後。男は警告した。
「離れておけよ」
「へ? 今何か聞こえ――」
その瞬間、轟音が響いた。
充填式時限爆弾が接着していたドアは冗談のように吹き飛び。唸るほどの衝撃に晒されたカニスは部屋の壁にべちゃっと吹き飛んでめり込み。椅子に座っていたティグリスは丸まった猫のようにごろごろと吹き飛んで頭部を壁に激突させ「ふぎゃっ」と痛みに悶絶した。ちゃっかりとローテーブルの下に退避していたノーチラスだけは無事に両耳を抑えていた。
地獄絵図のようなその場所に。何事もなかったかのように踏み入ったその男は見渡して言った。
「助かったのは一人だけか」
その言葉に反応するようにノーチラスはローテーブルの下から出て。次いで、事の顛末の原因であろう目の前の男の顔を見て尋ねた。
「あなたが私たちの……部隊長……?」