ポピー
桜の花びらがヒラヒラと床に落ちていた。その上を走っていた。背中にある鞄からカタカタと音がした。まだ、寒さが残っている風が顔を、首を、ジャージの隙間を通り抜けていく。その風と合わせて髪が踊っている。
あと、もうすぐ。あと、もうすぐ。
もう息が上がっているのに、体は走ることを止めない。別に遅刻をしているわけではない。だけど、走ることを止めない。
見えた、正面校門だ。
見えた瞬間、更に足に力を入れた。勢いよく地面を蹴った。坂道なので、自然とスピードが上がる。そのスピードのまま、校門をくぐった。咳き込みながら、玄関に貼ってあるクラス表を見つめた。
一組、ない。二組、あった。
二組 悠里憲太 本田希鎖 本田沙紀
「あった、今年も三人一緒だ!」
嬉しさのあまりに疲れなど忘れてその場で何度も、何度も飛び跳ねた。一回落ち着いて、もう一度見てみた。間違いない、そこにはちゃんと、自分の名前、姉の名前、幼なじみの名前、三人の名前があった。そして、もう一つ。
「ついに、三年生なんだ」
中学生最後の年、最後の春。早速幸先良い感じがした。
「早く来ないかなぁ」
少し早く来すぎたのか、同じ家に暮らしている姉すらもまだ来ていない。先に教室に入って待っていようか。でも、早く知らせたい。俺の大切な人、沙紀に。
「喜ぶだろうなぁ」
今年も、沙紀が好きな憲太と同じクラスだったのだ。沙紀を応援している俺としては早く、一秒でも早く知らせたい。そんな事を考えていたらやっと、望んでいた姿が見えた。腰まである長い髪を揺らしながら、制服でも隠しかきれていない白い肌と桃色の頬が、同性の俺が見ても惚れるくらいの美人がこっちに向かって歩いてきた。
「沙紀ー!喜べー!」
「何をよ。」
同じ声、同じ姿、同じ顔なのに、沙紀は何故あんなに優雅な感じがするのか。一卵性の双子でも性格が違うと二卵性の双子になるのか。
「今年も、憲太と同じクラスだったよ」
「あら、そう」
沙紀はそう言うとゆっくりと瞬きをした。これは沙紀の癖だ。嬉しいときの癖だ。それを見ると、俺まで嬉しくなる。
「あ、もちろん俺も同じだぜ。」
「あっそう。」
沙紀はそれっきり言葉を出さず、教室まで一緒に歩幅を合わせて歩いた。
今日から『全てが最後』の中学校生活の幕が上がる