勇者が唯一勝てないのは妻である
「ねぇ、奥さん聞きました?また魔王軍がこの町に攻めてくるみたいですわよ」
「あらやだ、干したお洗濯物を仕舞わなきゃ!」
「晴れてるのにいきなりどうしたの?」
「だって血の雨が降るじゃない」
隣の家の奥様が笑顔を引くつかせているが、関係無しに家の夫を呼びに行く。
「あなた~」
「ん~?」
夫は広げた新聞の上に聖剣を置いて掃除しながらこちらを見た。
「魔王軍が近くに来ているみたいなの、ちょっと滅ぼしてきてくれないかしら?」頬に手を当てて困った感じでお願いする。
「あ~、もうそんな季節か」
新聞を畳んでよっこいしょとタンスへ向かう夫に妻は靴の用意をする。
防具を装備し、背中に聖剣を差して玄関に向かう夫に「もう、聖剣が曲がってるわよ」と剣を差し直す。
「ありがとう、それじゃ行ってきます」
靴を履いて町の外に向かう夫を手を振って送り出す妻。
閃光の数秒後、町一帯に雨が降り注いだ。