龍弾
青年の鎖骨をさすっていた店長は、グッと一点に力を込めた。
「痛つっ」
脂汗を滲ませる青年は、思わず声を漏らした。
折れた鎖骨は重だるい虚脱感をもたらし、耳には骨の軋む音が刻まれた。
黙々とテーピングをして、鎖骨周りを固めて行く男、芯に響く痛みに耐える青年の鼻息が、地下の店内にこもった。
「これで終わりだ。きれいに折れてるから、回復も早いだろう。炎症があるから、しばらくはこの丸薬を飲んどけ」
リジオネア古武器店の店長が、薬の入った瓶を鉄机に載せる。いつ作られたのか、ラベルはずず黒く、文字が潰れて読めなかった。
処置をしてもらった青年は、弱々しく礼を言うと「暫く動かすな」との指示を守り、左手で礼金を出した。
何も言わずに、店長も金を受け取る。
本職の治療費に比べるとそこそこの安値だ。
「で、これが今回〝龍〟を撃った呪弾頭がこれか」
店長はテーブルに置かれた、鉛の封印筒に触れた。
ダメージを追った青年が、なんとか拳銃と共に回収した呪弾だ。
倒したはずの毒龍馬は掻き消えてしまった。今やあの時の現象が、本当に起こった事なのか、夢うつつなのか、判然としないところもある。
しかし、正常化した世界の中でも〝あの世界〟の青いモヤを出しつづける呪弾は、筒に巻かれた護符によって、完璧に封ぜられて、そこに在る。
「お宝ですか?」
青年は呪弾マニアの店長の顔を見る。
その顔は『物欲しそう』を超えて、口をワナワナと震わせる、欲望の塊と化している。
「ああ、俺のコレクションの中でも、五本指に入る可能性がある。国宝級の呪弾だ。いやこいつは龍を撃ったから、龍弾かも知れんな」
「龍弾、ですか?」
「ああ、現物は見たことも無いが、お前が夢うつつで聞いた男の説明と合わせると、伝説に聞く龍弾である可能性がある」
店長は熱っぽく語りながら、検査器具を取り出して、筒から漏れ出る青いモヤを観測する。
光は遮断され、音波も遮断される。その反応は、どの呪弾にも無いものだった。
「龍って、俺を襲ったのは毒馬の呪獣だったんですが」
青年は店長に襲ってきたものの特徴を、詳細に伝えると、二人して黙考し始めた。
「あんたら、いつまでそうしてるつもりだい? そいつをどうするか、今日中に弾に加工しないと、鮮度が落ちて二流品になっちまうよ」
店長の鳥撃ち仲間である百子ママが、寝入りバナを叩き起こされた不機嫌さでピシャリと言い放つ。
血走った目は、店長に負けず劣らず、爛々と未知の弾頭を捉えて放さなかった。
「ああ、こいつをどう扱うにしろ、弾頭に再加工して、ダダ漏れの力を封じなければならん。そいつが片付いたら、どうするか話し合おうじゃないか」
うん、と三人が頷くと、時間が惜しいとばかりに、作業に取り掛かった。