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 渇いた音とともに、体の芯にズンと重い反動がくる。青年は歯を食いしばって発砲の反動を抑え込むと、素早くハンマーを起こし、ずれた照準の前部だけでも合わせた。


 一撃目は、硬質な音と、手応えによって、阻まれた事が分かる。鳥弾が砕け、積み重なった呪詛が、青い世界に霧散した。


 後照準も合わせた瞬間に発砲。結果を見る前に反動を活かすように後退する。


 直前の立ち位置に、濃すぎる青の、大量のガスが噴射された。

 間一髪で直撃を避けたが、少しだけ吸い込んでしまったようだ。

 胸広がる発火のような痛みに、呻き声が漏れる。


 ひざまづくわけにはいかないが、かばい足の感覚がおかしく、よろけてしまう。


 目の前に、巨大な鉄塊が落ちてきたかと思った。踏み脚の余波が、青年を吹き飛ばす。


 巨大な濃い青が、門を潜って来た。地面に肩を強打し、むせる青年は、それでも懸命に拳銃の撃鉄を引きながら、霞む目でそれを見る。


 〝馬〟のようなものが、濃い青の毒もやに輪郭を描き出していた。

 それは普通の獣でも、呪獣でもありえない大きさだった。


 昨晩言われた〝龍〟という言葉が、不意に浮かび上がる。


 立って手を伸ばしても届かないであろう位置に、白い灯のような双眸が揺れている。


 鼻息荒く、呼気から漂ってくるのは猛烈な毒の気配。


 青年は『以前、戦場で見かけた毒馬に似ている』


 と思った。

 毒馬とは、呼気に猛毒を持つ、簡易生物兵器の総称である。

 安価に大量繁殖させ、長距離高速移動可能で、汚染コントロールも比較的容易な事から、戦争時にばら撒かれた獣兵器だった。


 だが、目の前の〝龍〟は、並の毒馬の倍以上の体高を持っている。

 太い足の広い蹄は、鉄槌のように地面を蹂躙した。


 生物としての威圧感が、他者とは隔絶している。

 過酷な戦場を経験してきた青年をして、肝を潰されてしまう。震える四肢を動かしながら、懸命に撃鉄を半起こしにして、回転銃のシリンダーを回す。


 こいつに生半可な呪弾は効かない。効くとすれば、店長から護身用にと配布されたこの弾しかないだろう。


 その弾がこめられたシリンダー横面には、真っ赤なドクロの刻印が彫られていた。


 そいつが真上にくるよう引き金を引き切ると、慎重に照準を合わせる。


 毒馬龍は、前脚をあげていななくと、毒を撒き吐き散らしながら、青年に突進してきた。


『南無三』


 思念を集めて赤ドクロの封印を切ると、血道を通った赤い塗料が弾頭に絡みつく。


 同時に禍々しい気配がシリンダーから開放され、グリップを握る右手がチクチクと痛みはじめた。


 目と鼻の先に巨大な口が迫り、猛毒のモヤの向こう側に、草食獣には有り得ない、剥き出しの牙が並ぶ。


 〝必殺の勢いで迫る牙。その口腔に撃ち込むべき最凶の呪弾〟


 青年は震えながら、凶暴な笑みを浮かべ、引き金をそっと引いた。


 音が消え、衝撃に吹き飛ばされ、目の前の光景が目まぐるしくかわる。


 地面に打ち付けられる衝撃が、外れた肩骨に直接響いた。瞬間、青年の意識は飛んだ。

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