完全選択式宇宙
一眠りしてから、再び部屋を出ると、既に昼前の店内は火を落とし、厚めの鎧戸に覆われて暗かった。
二階で寝ているであろうママ達を起こさないように移動すると、一度出たら開かないドアの自動鍵をセットして、外に出る。
知らないと肝を潰すほどの金属音を背後に、昼日中の人工太陽が照らす大通りに出た。
街を十字に分断する『黒肺通り』は、いつも通りの賑わいの中、粘つく混合樹脂を鈍く光らせている。
その粘着に触れないように白線を歩いていると、遠くを横切る貨車が見えた。
薬剤の消化作用が煙る街並みで、不自然に綺麗な線路をまたぐ。深い溝を越えて、直角に曲がった裏路地に入ると、いつもの近道――の筈だった。
一瞬、目にゴミでも入ったのかと思ったが、瞬きをしても視界は変わらない。見えないものが見える気がして、吐き気を催す。実際先ほどの紫の脂が逆流して、口の中に蟲脂の酸味が広がった。
青年は青い世界に居た――異常事態に腕の関節が硬くなる。目の前の青い線で構成された世界に、濃密な枠が滲み出る。周りを見回しても、それ以外の全てが、青い線の濃淡で構成されていた。
ふいに昨晩の青男の言葉が思い出される。
「門を通ってくるのは〝龍〟」
気になる中心部位は濃い青で、漏れ出る臭気が虫脂を超える。かつて戦場に放たれた呪獣の腐臭に似て、そこに水臭さを足したようなそれが、濃密な青の中でコポリと反転する。
青年は覚悟を決めながら、懐の拳銃を抜いた。押しつ引きつ握ったがグリップが、いつになく冷たく重い。
照準と共に、大口径の弾丸が円を描いて並んだ。いつもは頼もしく感じる金属の手触りが頼りない。
〝それなりに威力のある呪弾ばかりだ。相手が呪獣でも対処できないわけじゃない〟
相手が何であろうと、無影響では済まない距離でもある。放つ殺気がそのまま裏返って、突き刺さるような感覚。青年は銃撃を意識すると、黒に近くなった青方形に意識を集中した。
*****
視界が青すぎて、青を青と認識できなくなる。そんな中、それだけは正常に在り続けた都市の喧騒が、突如として消えた。
「選ばれたのだ」
一つ目に選ばれた物が意識する。
「選択されたのだ」
二つ目に選ばれた物が追従する。狭い円環に次々と詰め込まれ、五を数えた所で鉄門が閉ざされた時から、この瞬間が来る事を確信していた。
〝おめでとう諸君、君たちは選ばれし者だ〟
バネ仕掛けのハンマーがグチとコックし、皆が揃って右に回転する。緊張が細かな震えを生み、金属のゾロリとした手応えが、青年の肉と骨に伝わった。
「一番上が放たれる」
当たり前の認識によってシリンダー内が統一される頃、銃口と一直線に並んだ鳥弾が、放たれる期待に集中を極めた。
弾の念が持ち手に伝わり、微細な震えがピタリと治る――瞬間、撃鉄は雷管を打ち、鳥弾は放たれた。