赤い実注入
「この子も持ちそうにありませんか?」
涙目青男がこぼす。まるで閉め忘れた蛇口のような声だ。
「頑張りすぎや、身を削って戦うなんて、男の子やなぁ」
おかめは目を伏せて青年を見た。横たわる青年は、全身の擦過傷と5箇所の抉れた傷を負っていた。全身を縛る線によって止血されているが、このままでは失血死するだろう。細かく震えながらうめき声をあげている。
「じゃあこのまま木の栄養になってもらいましょうか」
冷たい声の涙目に対して、おかめは、
「いいえ、まだこの子はつかえます。熟して落ちた赤い実を分け与えましょう」
と、優しい声で答える。
少し目を見開いた青男は、おかめを凝視した。
おかめは青年の全身を線で繋ぎながら、主要な機関に真っ赤な液体を送り込んでいく。
「それほどの価値がありますか? まだ馬と人と学校しか繋げてないのに、死にそうになる弱者ですよ?」
青男の言葉に返答は無かった。黙々と続く作業に、
「まあいいでしょう。私も次の者を探す時間が必要ですし」
青男は周囲を巡ると、青年の射出した弾丸を拾い集める。
「これは必要ですね」
ジャラリと握りしめると、一つ一つを弾頭の形に整形して、青年の拳銃に詰めて行く。
鳥弾は怯えるように震えると、シリンダーに身を寄せて沈黙した。
それに満足した青男は、水となって地面に注ぎ、消えた。
*****
青年が目を覚ますと、べっとりと張り付いた頬を床から剥がした。
全身がだる重い。暗い部屋は猫又に蹴り落とされた場所だ。
「ああ? 何でお前がシルクハットを被ってるんだ?」
ひったくるように帽子をうばった猫又の追求を逃れて、猫舎を出た。
猫の失踪ががっこうと関係しているとかなんとか、青年の知った事では無い。
直感として関係があるとは思えなかった。
猫又は「まだ終わってねぇからな」
と言っていたが、最後には青年を手放した。何かに怯えるようでもある。
とぼとぼと帰路につく。疲労はあるが、痛みは引いている。不思議と鎖骨も痛く無かった。
左脇の拳銃を見ると、シリンダー内に呪弾頭だけが詰まっている。
歩く度にジャラジャラと弾薬を求めて五月蝿かった。
酷く腹が減っている。飢えた目が定宿の暖簾をくぐると「ただいま」の代わりに「飯と白酒」どさりとカウンター席に腰を下ろす。
「何があったんだい? 酷く疲れてるね」
と日々子ママがカウンター越しに覗く。
青年は、
「それがよく分からないんですよ。猫又に呼び出されたんですけどね」
と、今日あった事を全て話した。蟲スープ飯が滲みうまかった。




