地下学校
「学校というものが何か? それは分からない。何かが塊としてある。それが学校だ」
カビ臭い階段を、身軽に降りながら喋る。猫又は一切息切れをしていなかった。
対して、骨折している青年は、段を降りる度に繰り返す鈍痛に、顔をしかめている。
言葉を聞き漏らさないのは、猫又の声がよく通るせいか、地下に響いているせいか?
青年の耳に〝がっこう〟という音が刻まれた。
何か特別なイメージは無いが、気に触る言葉だ。
「何者かって、いなくなった猫の事ではないんですか?」
「おう、居なくなった猫ってのは、血統書付きの身柄のしっかりした上級猫よ。学校なんていう、よく分からんモノとは一緒にして欲しくないね」
猫又は「ケッ!」と一声放って、タタンッと最後の段を駆け下りた。
「で、これが学校だ」
突き当たりには、暴かれた扉。奥は暗闇で、何も無いように見える。
だが微かに何者かの気配がする。騒々しく動き回る人間のような気配。
近づいてみても、そこに物は見えなかった。ただ何かの気配が雑然と存在した。
「これが学校だ。この部屋にずっと有る。いつから有るかは分からない。先祖代々受け継がれてきた部屋だ」
この帽子と共にな、と猫又はシルクハットのツバをなぞり、気配の方向を見る。
お気に入りのハットも、代々の品とは。猫又という奴らは物持ちが良いのか? それとも……
「で? この部屋と、猫の失踪と、何か関係があるんですか?」
青年は空間を手でかき回しながら聞く。そこにある〝学校〟なるものは、手も触れられず、音もしない。でも何かはあるのだろう。
「数だ」
「数?」
「学校の気配が乱れた後から、猫達の数も減り出した。そこら辺を探って欲しい」
猫又の断定的な言い分に、青年は困惑する。何故私に頼むのか? 単に脇差を手に入れたタイミングと、猫が減りだしたタイミングが一緒なだけなら、呼び出したり、自分の懐に部外者を入れたりしないだろう。
「探るってどうやるんですか?」
青年が何事かを交渉しようとした瞬間、
「こういう事だよっ!」
と猫又の怪力によって、学校に放り込まれた。




