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優しくて怖い

 青年はその後、店長のやりたがらない仕分け作業や、片手でできる範囲の掃除、帳簿付けなどをテキパキとこなしながら、買い足すべき鳥弾をアレコレと思案していた。


 貧乏性というか、動いていないと不安になるのだ。

 特に油臭い地下の、武装甲型店舗に居ると、呪弾の念がこもって鼻につく。


 錆びた筒にこびりついた呪染じゅしを、薬液で落としていると、しだいに思考が沈んできた。


 ここにある品は、物は確かだが、最終的にはお金がかかる。そして威力のある鳥弾は、青年の一か月分の給料に値する。


 龍に撃ち込んだ二発の弾丸クラスを補充すると、必死に貯めた貯金が全て吹き飛んでしまうだろう。


 毒龍馬は、一番威力のある弾でも死ななかった。今後も龍が現れるならば、今の手持ちではとても足りない。

 というか、今この瞬間に青門がでたらお終いだ。


 無意識に脇差に触れると、おかめの目抜き飾りが〝大丈夫〟と、濡れたように指先を冷やす。指先そこを始点に電気が走る。


 「出来ることをやるしか無い、そう思えれば大丈夫だな」


 少し前まで心を支配していた恐れが、薄皮一枚剥がれて失せた。


 見繕った鳥弾の、後払い交渉を練っている時、奥の間から店長が出てきた。


 樹脂タバコを虫歯に詰めながら、青年をギラリと睨む。


「あれは俺のもんにする」


 断定する声は大きく、血走る目はギラギラと熱を帯びている。毒の作用もあって、若干言葉が途切れ途切れだった。


「あげませんよ」


「あれは凄い、上手く売れば、一生暮らせるかな」


 肩に置かれた手の重さ。数日狩にでていた店長は、全身からなんとも言えない臭いを放っている。


「だが、俺がもらう」


 怪訝な顔をする青年を、手振りで遮った店長は、


「あれを、加工するのに、相当時間がかかる。その間に、龍に襲われたら、どうする?」


 青年の目を強く捉えて問う。青年は折れた鎖骨の痛みに気力を奪われて返答できない。


「弾は無い、刀は短い、相手は龍だ。次は無いぞ」


 と言いながら、カウンターの鉄天板に機械式のトルクを差し込んだ。数回回すと歯車がガチリ、ガチリと鈍い音を発して、隠し金庫が現れる。


 開封されていない金庫から、呪弾特有の人を焼いたような臭いが漏れた。


 ゴリゴリと番号錠を合わせると、高音を発して扉が開く。


 手袋を嵌めた店長が、丁寧にコレクションの一部を取り出して並べた。


「こいつは100、125、そしてこいつは……1000超え。コレクションでも、上位の弾だ」


 毒で弱ったところに、呪いが重なり、店長の勢いが落ちる。


「手付としてこれをやる。そしてこれ」


 金庫内から小さな金庫を取り出して見せた。


 呪印が刻まれ、厳重な封印術の容器に入りながらも、強い呪臭を放つそれは……


「まさか、龍弾、ですか?」


 青年は身を引くほど緊張しながら店長を見た。


 胸ポケットから樹脂タバコを取り出し、奥歯に補充した店長は、グッグッと虫歯の穴に押し込みながら、


「の、ような物だ。俺がまだ、現役だった頃、戦場に龍が現れた。あれだ、ハネト峡谷の迷い龍退治」


 と言って、爆弾を扱うように慎重に台座に箱を置く。


「そんな与太話もありましたね、戦場に迷い込んだ龍があばれて、長筒の鳥弾に打たれて死んだって話」


「ああ、大型龍が根腐れの連中を襲った。連中が全滅した後、おれは死にかけの龍を一発で仕留めた。そん時に腹ん中から出てきた物がこれだ」


 店長が呼吸器を含んだので、青年がポンプを操作すると、少しすると毒も薄まり、店長も落ち着いたようだ。


「他と違ってこいつはレンタルだ。龍が現れたら、これでとどめを頼みたい。他の鳥弾が変化しようが、そっちはそのまお前にやる。そのかわりこの弾と、奥の弾の所有権は俺、分かったな」


 有無を合わさぬ店長は、慎重に金庫を仕舞うと、青年を見据えた。


「撃った弾はきっちり回収しろよ」


 青年の五連式リボルバーをぶん取ると、手際よく強力な呪い弾をセットして、レンコンの側面に、呪装文様を描いていく。職人の手捌きは見ていて飽きない。


 特に龍弾を封じる術式は、緻密に描かれた曼陀羅のように、幾重の丸が刻まれていた。


「猫又が呼んでるらしい。厄介なのに目をつけられたな」


 と言って店の奥に姿を消した。


「やったね、ラッキー」


 心にも無い呟きでまぎらわそうとする。ホルスターに収める拳銃の中で、連環を作る弾達が、粘っこくさざなった。

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