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 塔を出てさっきの門に向う――向っていると思いたい。

 なんせ塔に来るまでも、あっちこっち歩き回ってやっと辿り着いたもんだから、正直どの道を通って来たのか覚えていない。

 こんなことならちゃんと目印になるような建物とか、チェックしておくんだった。

 塔は壁よりも高い建物だったから、それを目印にして歩けばよかったけど……門の穴は壁より小さいしなぁ。


 うーん、どっちだろう?


「ねぇそこの彼女」


 とりあえず塔を背にしてひたすら進むしかないな。


「ねぇってば、そこの垂れ耳のマロンちゃん」

「あ、はい。垂れ耳のマロンはボクの犬で――え?」


 な、なんでボクの犬の名前を知っているの!?

 あ、ゲームの中だとボクの名前でもあるのか。

 って、なんでボクの名前を知っているの!?


「ぉ、気づいてくれたか。君の名前って『垂れ耳のマロン』って言うのかい?」


 後ろから声を掛けて来たのは三人組の男の人。一人はボクと同じ獣人で、その人は動物に近い容姿をしていた。ちなみに狼だ。かっこいいな……。


「いえ、あの……マロンだけです」

「そうなんだ。ははは。飼い犬の名前をキャラ名にしたのかぁ。可愛いなぁ」


 マロンは可愛い。でもこの人の言う『可愛い』は、ボク個人に向けられた言葉だろう。

 うぅ、悔しい……。ボクは男だってのに。

 最近なんかは子供扱いされるほうが、まだ幾分かマシだとすら思える始末だ。


 とにかくさっさとこの場を離れよう。ボクは冒険をしたいのだから。


「あの、ご用件はなんですか? ボク、急いでいるんですけど」

「ボクっ娘かぁ。これは人気者になりそうだ」

「可愛いよボクっ娘、可愛いよ」

「おい、抜け駆けはするなよ」


 ……ナンパだ! またナンパだったよ!

 もうヤダよぉ。


「失礼しますっ」


 三人を無視して歩き出そうとしたけど、例によって行く手を阻まれてしまう。


「待って待ってマロンちゃん。君ってVR初心者じゃないか?」

「なっ。なんで知ってるんですか!?」

「あぁ、やっぱり。なんとなくそう思っただけなんだけどさ。ねぇねぇ、俺たちがいろいろアドバイスしてあげるからさ、ちょっと頼みを聞いてくれないかな?」


 ぞわぞわっ。

 た、頼みだって? どうせロクな頼みごとじゃないんでしょ?

 絶対嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。


「嫌だっ」

「そう言わずに。ね?」

「話しだけでもさぁ」

「嫌だっ――」


 今度は力ずくで振り切ってやる。

 そう決意したとき、


「はーっはっはっはっはっはっは」


 頭上から……ついさっきも聞いたような声が聞こえてきた。

 ボクと、それから三人の男の人が上――壁を見上げる。


「はーっはっはっはっは。全国十万人の子猫ちゃんの味方。愛と正義の使者、変態エロフ参上!」


 さっきは一万人って言ってたじゃないですかっ。なんか人数増えてるしっ!


「とうっ!」


 でもやっぱり飛び降りるんだあぁっ。


 スチャっと地面に飛び降りると、やっぱりエルフさんの頭上にHPバーが現れた。そのほとんどは黒く、左端だけ赤い線がある。

 また瀕死になってるよこの人!


「な、なんだこいつっ。ダメージ食らって瀕死じゃんか」


 さっきの人と同じようなツッコミされてるじゃないですか!

 ほんとに……何してんだろう、この人。


「君たち、嫌がる子猫ちゃんに無理やりあんなことやこんな事をするのは、けしからんっ!」

「ボクまだ何もされてませんからっ!」

「まだ何もしてねえよ!」


 やっぱりする気だったのかぁっ!?

 身の危険を感じ、なんとなくエルフさんの背後に回りこむ。

 その時、エルフさんが「むっ」という声をあげた。


「また君かぁぁぁっ!」


 そっくりそのまま同じセリフをエルフさんに返してやりたい。


「ぼぉっとしているから下心のある男どもに捕まるのだぞ」

「うぅ。確かにぼぉっとはしていたけど……だからって下心のある男に捕まっていい理由にはなりませんからっ。寧ろボクは男ですからぁー!」

「「「「はい?」」」」


 三人組はおろか、エルフさんまで首を傾げてこっちを見ている。

 やっぱりか。やっぱりこの人もボクの事、女だと思ってたのか。


「男です! 正真正銘、男ですからっ。祖父が外国人で、童顔なのもあって間違われやすいけど、男ですからねっ!」

「え?」

「マジで?」

「……あ、獣人の初期装備――俺と同じじゃね?」


 そう言ったのは三人組の一人、狼男のプレイヤー。

 確かにボクの服と同じデザインだ。

 半そでの汚れた感じのベージュのシャツに、茶色のベスト。こげ茶色のズボン。


「獣人の初期装備は、女がショートパンツで男がロングパンツっぽいんだよ。あの子……」

「ロングパンツ……」

「マジで?」

「マジで」


 本当なんだろうか?

 通りを歩く人の姿をみて見ると、確かに獣人の女の子は皆ショートパンツだった。

 やった。ボク、ちゃんと男としてゲームに認識されてるんだ。


「あー……君たち。この子が男の子と知って、まだナンパする気かね?」

「は? する訳ねえじゃん」

「いくら顔が可愛いからって、男に萌える趣味はねえよ」

「……え? そ、そうなん?」

「え? お前そっちの趣味あったのか!?」

「やだ狼男怖い。掘られるわ怖いっ」

「てめえらなんか掘らねえよ!」


 ボクなら掘れるっていうんですか!? ヤダ怖い、狼男怖いぃー!


「まぁ冗談は置いといて。俺らはクラン立ち上げようと思ってメンバー集めしてただけなんだよ」

「え? クラン、ですか? でもまだ未実装なんじゃ?」

「正式サービスが始まればすぐに実装されると思うよ。たぶんクラン結成にはお金が必要だろうからね。今からメンバー集めてみんなで資金調達して、実装されたら真っ先にクラン立ち上げようっていうね」


 なんだろう……ちょっと楽しそうだと思った。

 皆で協力してお金を集め、クラン結成資金にする――協力――わくわくする言葉だな。

 ちょっと変な人達だけど、悪い人じゃなさそうだ。

 さ、誘ってもらえるなら、入ってみたい気もするかな。


「あ、あのボク……」

「あぁあ。可愛い女の子でも居ればむさ苦しい男所帯にもならないしと思ったのに」

「可愛い子居るとそれだけで参加者増えるからなぁ」

「アイドルになれそうだったのになぁ」


 前言撤回。

 このクランに入るのは嫌だ。


「男だったら仕方ない。じゃ、そういうことで」

「強く生きるんだよマロン君」

「男の娘でもアイドルに――そ、そんなに睨むなよっ」


 三人組はそそくさと立ち去っていった。

 結局、欲しかったのは女の子のクランメンバーってことなんだね。

 ふ、ふんだ。そんなクラン、こっちから願い下げさっ。

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