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「『ジャンピング・ボディ・プレーッス!』」
ボディとかいいつつ、思いっきり武器を叩き付けてるよセシルさん。
しかも左右どっちの攻撃もクリティカルしてるじゃないかぁ――あ、あれ?
ダメージ表示が三つ見えたような?
《ジューリカマアァァッ!》
で、今のダブルクリティカルで、ヘイトってのをセシルさんが取ってしまったらしい。
伸びてきた木の枝が執拗に彼を付け狙っている。
「ぼすけてぇ〜」
「兄貴……変な攻撃すっから……『タウントッ』」
シグルド君のスキルであっさりヘイトが移動。
「ふふふ、大儀であった」
「大儀じゃなくって、ちょっとは自粛してくださいよっ」
「はぅっ。わんコロ君に説教されたぁ〜」
あぁ、もうっ。なんて不真面目な人なんだ。
不真面目すぎて……いつも楽しそうだなぁ〜。ふふ。
「おいシグルド君。わんコロ君がにやけているぞ」
「そ、そうっすね。おいマロン、大丈夫か?」
……楽しんでいるだけなのにぃ。
うぅ、こうなったらぁー。
「『打』『打』『打』『打』『だ……」
打連打でコンボ技を出そうと思ったのに、視界がぐるぐる回るよぉ〜。
ふぇ〜、これ、ピヨピヨだぁ。
「だぁーっ。何をやっているのかね君はっ」
セシルさんの声が近くで聞こえた。
視界はぐるぐるぐにゃぐにゃと、よく見えない。見えないけど、どうやらボクは引きずられているらしい。
やっとピヨピヨから解放されると、さっき立っていた位置から少し離れた所に座らされていた。
「ボス戦で安易にアレを使うんじゃないっ。ピヨってると命取りだぞ」
そういうセシルさんは、ボクとカマウッドの間になって立っていた。
守って……くれてたの?
長身で細身の背中が、何故か頼もしく感じる。
金とも銀とも見えるサラッサラな長髪を靡かせる姿は、まさしくファンタジーアニメの王子様のようで……。
「おらあぁーっ、早く死ねやオカマぁー! そしてアバター寄こせぇーっ」
ただ、非常に残念な性格だ。
普段は紳士風の喋り方してるくせに、戦闘になると荒くれものと化してるし。
何よりその戦闘スタイルが……変人だ。
「『シャープネス・アローッ』――おいマロン。まだピヨってるのか?」
「わははははははは。『ファイアー・ランスぅ』――大丈夫ぅ、マロンちゃん?」
「大丈夫だよかっちゃん。ちゃん付けで呼ばないでくださいよ、マヨラーさんっ」
上から聞こえる声に答えてから、ボクは再びカマウッドに攻撃を再開させた。
コンボは……諦めよう。
《ジュ〜リカマカマ、ジュ〜リカマァァァァ》
カマウッドのHPが結構減った頃、何故か奴が突然歌いだした。
えっと……正直言って、音痴です。しかも声が野太いんだよ。これがイベントじゃなかったら、その場から猛ダッシュで逃げたくなるぐらいだ。
歌と同時にキラキラ光る粉のようなものが四散しはじめた。
これ、何の攻撃なの?
戦闘開始から何十分ぐらい戦ってるんだろう。
MPが無くなったら後ろに下がって座って回復したりして、なんとか枯渇しないよう気をつけてはいるけど……なんでボクは今、踊っているのだろう?
カマウッド……いや、ジュリアナカマウッド!
まさか本当にディスコクィーンネタなの?
いやでもオカマだし、あれ本来は雄なんでしょ? いやいやそれ以前に木に雌雄があるの?
ジュリアナカマウッドの頭に生えた木の枝も、くねくねと踊っているようだ。
その動きに合わせて、ボクも右に腰をくいっ。左にくいっ。両手を上げて腰をふりふりふりふり。
「うわあぁぁっ、誰か止めてぇ〜」
「あばばばばばばばっ。ヘイトが、ヘイトが剥がされるぅ」
「うわあぁぁぁぁ、シグルド君までぇ〜っ」
「あっはっはっはっは。君たち、何をしているのかね」
木と真正面から対峙していたシグルド君も、ボクと同じように踊っている。でもセシルさんはいたって何時も通りだ。楽しそうに鈍器と楽器でクリティカルを連発しているだけだ。
「安心しろっ。俺たちも踊っているから」
「え?」
声が聞こえた上のほうを振り返ると、かっちゃんとマヨラーさんも踊っていた。
もっといえば、見える範囲にいる多くの参加者が踊っていた。
でもアンナさんは踊ってない。他にも踊ってない人いるけど……あれ?
「女の人は……踊ってない?」
見れば、踊っているのは全て男性プレイヤーばかりだ。
――と思ったけど、中にはスカートを履いた人もいるなぁ。やたらごつい女の人っぽいけど。
こっちにも踊ってない男の人いるし、共通点があったと思ったらそうでもなさそうな?
ただ、共通点があろうがなかろうが、今のこの状況が改善される訳じゃない。
踊っている間、ボクたちは攻撃が一切できないのだ。
シグルド君に至っては防御も出来ないもんだから、さっきからアンナさんの必死に魔法を唱える声が聞こえてる。
「これ、なんとかならないんですかぁ〜」
「う〜む、なんとかねぇ。……あれかな?」
そう言ってセシルさんがまた木に登り始めた。
「ちょ、セシルさんっ」
くねくねと踊る木の枝に悪戦苦闘しながら、さっき登った所よりも大分低い位置で止まる。すると、突然彼は枝に向って攻撃をし始めた。
まるで枝を切り落とすかのように鈍器を振り下ろしているけど、そもそもそれ、斧じゃないですからねっ。
そうツッコミたかったんだけど――
メキメキッ。
という音と共に、枝が一本、折れてしまった。
そんなばななぁっ。
「これでどうだ?」
という声が聞こえてきたけど……あれ?
「と、止まった?」
「た、助かったぜぇ。けどなんで?」
ワンテンポ遅れでどさっと落ちてきた木の枝には、その先端にジュリアナ扇子が握られていた。
「光る粉が舞い始めてから君たちは踊りだしたからね。その粉がどこから出て来ているのか辿ってみたら、これだったという訳だ」
「さすが兄貴!」
「んむ。感謝するならヘイトを取ってくれ」
木から飛び降りたセシルさんに向って、枝攻撃がはじまっていた。




