29:ボクたちの漂流記。
「綺麗な空ですねぇ〜」
「んむ。綺麗だな。君、気づいているかね?」
「何にですか?」
「太陽が見えるだろう」
「見えますね」
「なのに眩しくないのだよ」
「あ、そういえば」
ボクたちは空を見つめながらそんな会話をしていた。
形を変えながら流れていく白い雲。そんな雲に時折姿を隠しながら、地上を照らす太陽。直視しても、何故か眩しいと感じることは無い。
「それで、ボク達はこれからどうなるんでしょうか?」
「どうなるんだろうなぁ〜」
ボク達は――
漂っていた。
どこを?
海の上を――だ。
……。
「後先考えないでボクを突き飛ばしたんですか!?」
「暇だったのだろ?」
「暇だから漂流するわけじゃないでしょう!」
「暇なのだから漂流してもいいではないか!?」
「嫌ですよ! そもそも、さっきからずっと沖に流されてるじゃないですか!」
「んむ。泳いでも全然陸に辿り着けないな」
そう言って隣で背泳ぎをはじめる彼。
全然進まない。
二人で海に落下し、暫くギャーギャー言ってたんだけど、陸から離れているのに気づいて必死に泳いだ。
泳いで泳いで、疲れてしまって背泳ぎ状態で浮かんでいたのだ。
「どうするんですか!?」
「GMコールして救助してもらうしかないかなぁ」
「き、救助!? こんな馬鹿なことしてGMさんを呼び出すなんて……恥ずかしい。他に自力で帰る方法とか――」
「ポチっとな」
「人の話し聞いてますかー!?」
まさかもうGMコールしちゃった?
ど、どうしよう。GMさん来ちゃったら、ボク、ボク……。
その時、柔らかい風が吹いた。
「はいはいっと。あぁあ、またあなたですか?」
「またとはどういう……あ、またあなたですか」
似たような事を言い合う二人。
一人はセシルさん。
もう一人は……。
「うわぁぁ。本当にGMさん来ちゃったよ。すみませんすみません、本当にごめんなさい」
真っ白な鎧に身を包んだ、頭上に『GM』と書かれた看板を立てたあの人だった。
「はぁ、それで、面白い景色を探してがけから飛び降りた――と」
「はい……付いてきちゃったボクが間違ってました」
「ははは。いや、いいんじゃないですか?」
「え? いいんですか?」
「えぇ。そういうのもMMOでの楽しみ方の一つです。VRであっても同じですよ」
「そ、そうなんですか。でも、そのせいでGMさんの手を煩わせてしまって……本当に申し訳ありません」
「いえいえ。そうか、あそこから飛び降りると、海流のせいで戻れなくなってしまうんですね。これは修正をしなければ」
GMさんはとても優しい人だ。
嫌な顔一つせず、ボクたちを海から出してくれた。
海から出れただけで、まだボクたちは海の上である。何故か海の上に座って会話しているのだ。
それにしても……迷惑まで掛けて救助されたってのに……あの人ときたらぁ。
「ふははははははは。忍法・水走りの術〜」
「あなたは神官でしょう!」
「あはははは。忍者は未実装ですねぇ」
そこ、笑うところなんですか?
海の上に立てる様になったのは、GMさんの専用コマンドというもののお陰だ。
その時からずっと、セシルさんは嬉しそうに海の上を走り回っている。
それを見てGMさんは笑っているのだ。
「ははは。まぁまぁマロン君。あの人のような楽しみ方をする人というのはね、それはそれで貴重な存在なのだよ」
「えぇ〜」
「君たちが飛び込んだからこそ、海流の事も解った訳だし」
「いや、他に飛び込む人なんて居ないと思いますよ?」
「はははは。いやぁ、それがそうでもないんだねぇ〜」
「え……」
GMさんの話だと、最初の町の壁から飛び降りる人は結構多く、中にはギルドタワーから飛び降りる人もいるらしい。
「まぁ救助の対象にはならないけどね。落下によるダメージで死亡しない設定だから。ただ飛び降りる人が案外多いから、タワーの窓に鍵を付けようかって案が社内で出てるんだ」
「付けて下さい! 是非!」
「あはははは。まぁ検討してみるよ」
他にも、町から近い川に飛び込む人もいて、流れが速いから流されていったとか。
「いやぁ、あれも修正対象だねぇ。あの川を渡って次のエリアに移動するわけだし。一部だけ流れの早いところがあったみたいなんだ。こういうのは実際に入ってみないと解らないからね。これもテスターの報告によって解ったことだし」
「そ、そうなんですか。い、一応はゲームの役に立っているんですね」
「うん。なんせスタッフだけで全エリアを歩き回るのは不可能に近いからね。だったらテスターの方々に好きなように練り歩いて貰って、不具合箇所を見つけて貰う方がいいのさ」
他にも仕事は山ほどあるからね。とGMさんは笑って答える。
GMコールすることも、場合によっては悪いことではない――と。
あまり深く考えないでお読みください。
ただの馬鹿ばかりです。




