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「ふはーっはっはっはっは」
見て解らないから聞いたのに、この人ときたら兎のモンスターをボコボコ殴りだした。
右手の鈍器を振り下ろし、即座に竪琴を兎の頭に叩き付ける。
……シュールだ。
それ以外の言葉は見つからない。
まもなく戦闘を終えると、セシルさんはにこやかに微笑みながら振り向いた。
「どうだ? 解ったかね?」
「……解りません」
そう答えると、心外だといわんばかりの顔を向けてくる。
解る訳がない。見た目がシュール過ぎるって事以外、解る訳が……ま、まさかね。はは、まさかだよね。
「何故解らないのだ! この超絶イケメンのエロフ様が楽器で虐殺する姿。物凄くシュールだろうっ!」
「その為に楽器をサブウェポンにしたんですか!?」
「当たり前だろうっ。それ以外に何があるというのだ!! システムと格闘した既にようやく勝ち取ったスタイルなのだぞっ」
「言っている意味が解りませんっ」
「んむ。実はな――」
急に真面目な顔になってしみじみと話しだすセシルさん。
なんでもキャラクター作成時に、メインを本にするか棍棒にするか迷っていたらしい。
どっちがより面白おかしな戦闘スタイルになるか――と。
やっぱりこの人の基準はどこかおかしい。
サブウェポンに面白いものが無いか探していたら楽器を見つけたと。
「包丁ってのもあったんだが、普通に凶器だからな。面白みが無い」
「いや、十分見た目のインパクトはあると思いますよ」
右手に棍棒。左手に包丁。それを持つかなりイケメンなエルフ。
そういやなんでエルフの事を『エロフ』って言うんだろう。今度聞いてみよう。
サブウェポン専用装備に楽器を見つけたけれど、演奏するには両手を使う必要があると説明を受けたらしい。
それでは自分が目指す面白おかしい戦闘スタイルにならない。
楽器を持つだけなら片手で十分だろう。演奏しない時には楽器も武器として持たせろ。
そう駄々を捏ねたのだとか。
「その甲斐あって、こうしてクローズドには仕様変更が間に合ったという訳だ」
「なんて迷惑な人なんですか! 開発会社の人がかわいそうじゃないですか!」
「よりゲームを面白いものにする為に、私なりに協力しているのだぞっ!」
「そんなの協力と言えるんですか!」
「言える! だからこそ開発スタッフが検討してこうなったのだからなっ。どやっ」
自分で『どやっ』とか言ってるし。
でもそう言われてしまえば、確かに仕様変更されたのだから開発スタッフさんも良しとしたんだろうしなぁ。
「ふはーっはっはっは。楽しいぞぉ〜。楽器で殴るのは楽しいぞぉ〜♪」
……楽しそうなら、それでいいの……かな。
「それにしてもセシルさんの攻撃ダメージって、極端ですよね」
鈍器にしろ楽器にしろ、セシルさんのダメージはそれぞれ二つのダメージ量が表示されている。
鈍器は72と158。楽器が31と68。数字が大きいときは効果音も大きくなり、ダメージ表示のエフェクトも派手になっている。
といっても、コンシューマーゲームのように大きなダメージ表示だと目視戦闘では邪魔になるので、せいぜい両手を広げた程度だけど。
「あぁ、私の場合、通常攻撃とクリティカル攻撃だな。STRとDEXが1だから、通常攻撃は固定ダメージしか出ないのだよ。クリティカルは通常攻撃の二倍だから、こちらも常に固定のダメージしか出ないという訳だ」
「へぇ。クリティカルってそんなによく出るものなんですか」
ボクなんてモンスターを何匹も倒してやっと一回出る程度だ。でもセシルさんは一匹倒す間に一、二回は出ている。
「だからLUK極振りだって言っただろう」
「初期の50ポイントでこの差ですか」
「それと技能だな。『クリティカル率上昇』の技能を取っている。あとクリダメージの上がる技能もな」
だからダメージ二倍といいつつ、実際には二倍よりちょっと多いのか。
ボクのラビナックルでの攻撃は、ダメージ92から108とばらつきがある。このあたりはSTRが高く、DEXが低いということによるバランスの悪さだとセシルさんは言った。
でも気にしないのならDEXは初期数値のままでもいいんじゃないか? という話。
「ただしな、格上モンスターと戦う場合、どのゲームでも命中率に補正が入ってしまうから、DEX1のままだとミスを連発するかもしれない」
「今のところ+1モンスターと戦ってミスは出てませんね」
「+3以上だとたぶん妖しいなぁ」
ゆる〜い口調でそう言いながら、セシルさんは楽器をぶんぶん振り回して新しい獲物を見つけて駆け出した。
今度は切り株のモンスターらしい。
彼が一発殴ると、切り株の上にHPバーとモンスター名、レベルが表示される。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
モンスター名:カマウッド レベル:7
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ボクたちよりレベルが2高い。
攻撃ミスが出るかな?
「楽器落とせ楽器ぃ!」
物欲センサー丸出しでセシルさんが突撃していく。
クリティカルがヒットすると、カマウッドがよろける。切り株から生えた左右の枝が、まるで手のように動き、何故か胸を隠すような仕草をする。もちろん胸なんてあるわけが無い。
うっ……よく見たらこのモンスター、化粧してない?
睫毛はやたらと長く、目の上には紫色に塗られている。口元は真っ赤だし、頬も業とらしいぐらいに赤い。
「カマ・・・…まさかオカマの略!?」
《グ……キィー!》
カマウッドが湯気を上げながら突進してきた。
その突進をまともに受けたセシルさんのHPがぎゅいんっと減っていく。
「君が変な事言うから、怒ったではないか!」
つまり、この切り株モンスターは……オカマさん。
慌ててセシルさんを助けるべくオカマウッド、じゃなくってカマウッドを攻撃。
一発ではさすがに死なないな。
次発……うわっ。ミスった!
や、やばいやばい。セシルさんがバカスカ殴られてるっ。
「ぬぅ〜、この腐れオカマめっ!」
《ヌキィィー!》
セシルさんの竪琴による渾身の一撃がヒットする。
同時に、
バキィッ
という甲高い音も響いた。
「ああああぁぁぁっ! 私の、私の琴があぁぁっ。何たることだっ何たることだぁっ」
折れた。
まぁ、木製だもんね……。
弦が切れて真っ二つに折れた竪琴に涙しながら、彼は鈍器でもって復讐を遂げた。




