第9話 魔法習得
ランク1の魔法を覚えた。
陣と呼ばれるものは、ミリーナさんに火と風を教えてもらった。
地面に描いてもらった陣に魔力を流してみると、魔法が発動した。
「わぁ…。すごいです。」
「ふふ、初めての魔法ってなんだか特別な感じがするよね。」
初めて魔法を使ったときは胸に込み上げてくるものがあった。感無量というやつだろう。
普通は頭の中で思い浮かべた陣に魔力を流す感じで使うらしい。そちらもすぐに習得できた。
それにしてもこの魔法陣、いかにもな法則性を感じる。ミリーナさんに聞いてみたが、知らないらしい。魔法の陣を研究している人は少ないらしく、ほとんどが貴族らしい。
となると、自力で解析するしかないか。
うん、私の研究者魂に火が付いた。これなら前世の知識が役立ちそうだ。
ミリーナさんからランク2の陣についてもいくつか教えてもらった。紙とペンがないのでやりにくいが、頭の中だけで頑張って思考をグルグルと回した。
そして3日後、この町に来てから2週間が経過した。ミリーナさんに教えてもらった陣は一通り解析し終わり、オリジナルの魔法を作ることに成功した。
「ふぁぁ…。ん〜…。」
「大丈夫?最近夜遅くまで頑張ってるみたいだけど…。」
今日も冒険者ギルドに向かう途中で、私はあくびをして目をこすっている。
この3日間、かなり遅くまで解析、開発をしていたのですごく眠い。日中は採取作業をしていたため、夜に思考を巡らせていた。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
冒険者ギルドに到着し、おじさんに挨拶をする。
「今日はもう少し報酬の多い採取依頼を受けたいのですが、良いのはありませんか?」
「いつものより、となると森のかなり奥まで入るやつしかないな。その辺になると、魔物の数も多くなってくるが大丈夫か?」
「はい。魔法を覚えたので身を守るくらいなら何とかなると思います。」
「なにぃ?お嬢ちゃん、魔法使えなかったのか?てっきりそれなりに魔法を使えるもんだと思っていたぞ。まぁそういうことなら何とかなるだろう。だが、十分気をつけるんだぞ?」
いつもとは違う採取依頼は3つあった。それぞれ生息域がだいぶ異なるらしい。どれも採取数が決まっており、10〜20本程度だ。
その中から一番達成報酬の多い、銀貨5枚のものを選ぶ。
「ふむ。その依頼だと日帰りするなら集めるのに1週間くらい掛かるだろうな。いつものとは違って見つけにくいから、気長に頑張れよ。」
「分かりました。」
採取対象のサンプルを見せてもらって特徴を確認し、仮身分証を受け取った。
「シルちゃん、本当に大丈夫?」
冒険者ギルドを出ると、ミリーナさんが心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫です。障壁魔法の応用を開発しましたから。魔物に襲われても逃げ切るだけの効果があることは確認済みです。」
「魔法の開発かぁ。私には難しくてよく分からないけど、シルちゃんがそこまで言うならお姉さんもこれ以上止めないよ。無理しないで、ちゃんと帰ってきてね?」
「はい。気を付けて行ってきますね。」
町を出て、森に入った私は早速自身に掛ける障壁魔法の陣を構築する。暗記できなかった部分は、なけなしのお金で買った紙に書いたものを見ながら構築していく。
魔法の構築が終わったが、特に見た目に変化はない。念のため、同時に障壁魔法を掛けた木の枝と普通の木の枝を上に掲げ、魔法で高温に熱する。普通の木の枝はあっという間に燃え上がり、灰となって落ちた。障壁魔法の掛かった木の枝はそのままである。ちゃんと成功したようだ。
その後、5日間ほど掛けて依頼を達成した。
この障壁の効果は絶大で、魔物に何十回と遭遇したが炎に包まれようと、突進されようと破かれることはなかった。
ランク1の魔法でここまでの効果を発揮したのには理由がある。それはランク1の魔法を数百万回と連続発動しているからだ。本来魔法の発動にはクールタイムが存在するため、例え陣の中に複数の魔法の発動が入っていても、クールタイムが切れるまで次の魔法が発動することはない。
そこで取った手法が、陣の中で陣を構築するというテクニックだ。魔法の発動位置を指定する命令を陣の中で連続で使うことで、魔力が指定された位置を動いていき、その動いた軌跡が陣となっているのだ。そうして作られた陣は別の陣扱いとなり、更にその作られた陣が別の陣を作っていく。この繰り返しによって、連続数百万回という尋常ではない数の発動に成功した。
とはいえ、恐らくランク3の魔法よりは弱いと思う。それに5回、6回と使うだけで魔力切れになってしまう。何度も使っていれば魔力総量は増えるらしいので、気長に鍛えていこうと思う。
この辺りでは無敵の障壁魔法を習得した私は、残りの2つの採取依頼もこなした。
そうして、この町に来てから1ヶ月が経とうとしていた。